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【バンコク】神聖なタトゥー「サクヤンSak Yant」現場潜入レポート<前編>

夫であるYUTAROの刺青が増えていくことに対して手放しで賛成している……わけではない。

ミュージシャンという職業柄、それによって日常生活で不自由な思いをしている場面を見たことがないし、今さら社会通念を突き付けて反対するのもおかしな話だろう、と目をつぶっているのが本音だ。

それに、今後の人生でも後悔しなさそうなこと、海外旅行先ではタトゥーを入れた人をよく見かけることもあり、許容できている部分もあるとも思う。

あまり増えすぎるのも考えものだが、せめて今は、年齢を重ねていくうちにぶよぶよ太って柄が伸びないといいな、と心配している。龍の顔が横に伸びてしまったら格好がつかないので。

メキシコで体験したタトゥー

知り合った2011年当時は、右上腕部分に和彫りの龍が入っていただけだった。

増やしはじめたきっかけは、2つめのタトゥーを彫ったメキシコだったように思う。新婚旅行中、しかも観光客は日帰りで訪れることが多いチチェン・イッツァ遺跡がある小さな町、ピステに3泊したときのこと。

日頃からひとり旅おろかひとりメシも躊躇するほどのYUTAROだが、マヤ文明好きの血が騒いだのか、ひとりで毎日のように遺跡を見に行き(私は宿でのんびり読書)、町歩きの途中で地元の若い男性が営むタトゥースタジオを見つけ出し、マヤモチーフの柄を彫ってもらうことに成功。

男性のスタジオにはベースがあり、バンドの音楽を流したり演奏させてもらったりして、ふたりはブラザー(笑)になった。

↑元データがなく、手元には粗い写真しか残っていなかった……。

それまで「海外ひとり旅大好き!」で、ラオスやウズベキスタンなどマニアックな国に行ってはむふふと喜んでいた私だが、YUTAROと旅するとこんなおもしろ体験ができるのかよ……とショックと感動を覚えることになる。

そんなわけで、夫がサクヤンを彫りたいと言っているのを聞き、家族としての複雑な感情よりも、職業病ともいうべき珍しい体験を知りたい!見たい!という、おこがましく言うならばジャーナリズム根性が勝ってしまったわけなのだった。

サクヤンとは

「サクヤン」とは古くから主にタイに伝わるタトゥーで、商売繁盛や安全祈願、災難から身を守るために彫るものだという。「Sak」は「タトゥーを彫る」こと、「Yant」はサンスクリット語で神聖な図形やお経のような言葉を示すヤントラ(Yantra)からきている。

サクヤンは通常のタトゥーと彫り方も異なるため、その技術を学んで習得した僧侶やアーチャン(Ajarn)と呼ばれる「サクヤンマスター」しか彫ることができないもの。カオサン通りのタトゥーショップでもよくサクヤンの柄見本を見かけるが、それはあくまで「サクヤン風タトゥー」であり、本物のサクヤンではないのだ。

ハリウッド俳優のアンジェリーナ・ジョリーが左肩甲骨に入れたことでも注目を集めたサクヤン。

ローカルのタイ人のみならず外国人観光客にも有名な寺院といわれているのは、バンコクから50kmほど西に行ったところにあるワット・バンプラ(Wat Bang Phra)だろう。いくつか情報収集してみると体験談も多く出てきたが、人気がゆえ①朝イチで並んで長時間待つ可能性があることや②衛生面に不安が残ることが分かってきた。

安心・安全・確実に彫るために

もちろん、こういった珍道中は大好物だが、短い旅程で確実に安全に彫ることと、サクヤンの特性上、柄の意味合いやサクヤンマスターの言葉をしっかり理解しながら臨んだ方がよいだろう、との考えに至り、サクヤン代行や日本語通訳がいないか調べてみたわけである。

そんななかで今回お世話になったのは、町田・横浜・バンコクにタトゥースタジオをもつ「ストローカータトゥー STROKER TATOO」。問い合わせフォームから旅程・希望の日にちを伝えると、翌日にはすぐ日本サイドの担当者の方から返事をもらうことができた。

サクヤンのアテンドにかかる費用は以下のとおり。
・予約金:3,000円(日本の口座に振込)
・アテンド費:3,000バーツ(現地スタジオで現金払い)
・サクヤン施術料:1点5,000~10,000バーツ(実費で施術者に直接支払い)
・タクシー移動・飲食費等(実費精算)

(2020年1月時点、1バーツ=約3.3円)

事前の予約はもちろん、当日は日本語が話せるバンコク支店のマネージャーが同行し、通訳から衛生面の管理など面倒を見てくれるそう。前述したワット・バンプラはじめ、いくつか希望のサクヤンマスターのスタジオを伝えてアポ取りを依頼→アポ確定後に予約金の支払いとなる。

候補のスタジオはぜひストローカータトゥーのブログ記事を読んでいただくとして、今回は第一希望のアーチャン・フー氏(Ajarn Fu)にお願いをすることにした。アポを依頼してから確定までは4~5日程度。

デザインは事前に希望があれば相談可能とのこと。サクヤンの場合、柄にはそれぞれ意味があるため、地元の人々が入れる場合はサクヤンマスターが柄や入れる場所を決めることがほとんど。

ただし、外国人観光客の場合はある程度融通が利き、腕と背中であればほぼすべての図柄を彫ることが可能、という前情報をもらったので、事前に調べつつ当日決めようということに。

アポ取りから一連の流れを日本語のメール数通でやり取りできたので、言語の面や予約の可否を心配する必要がなかったのはよかった点。

その他事前の準備としては、タイではメジャーなタクシー配車アプリ「Grab」をダウンロードしておくことをおすすめする。バンコク郊外への移動は、タクシーが日本よりも段違いで安くて便利。実際の機能はタイに到着してからでないと使えないが、クレジットカードの登録は事前にできる。

バックパッカーのイメージからか、行き当たりばったりな旅を想像する人もいるだろうが、私は絶対に外せない観光スポットや移動の予約、下調べもきっちりしておく派。現地に行ったら疲れてどうでもよくなることもあるし、すべてが予定通りにいくことはまずないが、どちらかというと、リスク管理の意味合いの方が強い。

もちろん予期しないトラブルに遭うに越したことはないが、万が一、旅先でトラブルに遭ったときにパニックにならずに、シュミレーションしておくこと。これが最大のリスク管理なのではないかと思っている。

こうして2020年1月、私たちはバンコクのドンムアン空港に降り立った。思ったよりも長編になってしまいそうだったので、3泊4日のバンコク旅は後編に続く(ここまで書いて力尽きた)。