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20年代を歩くために(松村正直『踊り場からの眺め 短歌時評集2011-2021』)

松村正直が様々な場に発表してきた時評を集めた『踊り場からの眺め 短歌時評集2011-2021』(2021年、六花書林)は、2010年代を振り返る評論集として重要である。

同評論集は、震災詠、評価軸の多様化、口語短歌、作中主体、論客としての永井祐や斉藤斎藤の発言といった10年代の多くの論点について触れている。松村の中立的・相対主義的な書きぶりが特長である。

特集「定型と╱の自由」を組んだ「現代詩手帖」2021年10月号の座談会において、山田航も10年代をまとめている。また、瀬戸夏子による『はつなつみずうみ分光器 after 2000 現代短歌クロニクル』の後半も、ある意味10年代のまとめとなっている。

歴史で語られる出来事のひとつひとつは、事実であるかもしれないが、それを編纂するという作業を経ると、出来事の取捨選択で編纂者の主観が入る(抽象化には捨象が不可欠なので主観が入ること自体が悪いわけではない)。

松村の評論集は、山田や瀬戸が語る10年代を、松村の角度から眺めたものである。我々は、それぞれの10年代まとめを読み、認識を複層化することで、10年代を少しでも客観的に把握することができる。
10年代を把握することは、20年代を歩きつつある現在の我々の立ち位置を改めて認識し、次の歩みを進める方向を決める材料となることであろう。

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