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ミサンガに込めた願いごと

家族と離れて遠出ができなくなった。
家族と離れたくない。
家族といっても娘と夫のこと。
大震災があってからのわたしの不安が関係している。

もしわたしが娘と夫から遠く離れた場所にいて、地震が起きたらどうしようとか、娘を預けたはずの保育園からお迎え依頼の電話がかかってきたらどうしようとか、いろいろ考えてしまう。

もう、それは杞憂のレベルにいろいろなことを。

死に際は家族と一緒にいたい。それがわたしの望みとも言っていいからだ。

でも、わかっている。心配症すぎる。考えすぎ。わかっている。でも出かけるとやっぱり不安で帰りたくなる。

この間、友人がミュージカルのチケットが余っているからと観劇に誘ってくれた。「美女と野獣」だ。学生時代からの友人で、コロナが流行り出してから会っていなくて、もうかれこれ5年以上ぶりになる。会いたかったし、行くと即答した。

即答したものの、会場は千葉のディズニーランドの近くにある劇場だった。わたしの家からは電車で1時間半くらいかかる場所にある。

わたしは自分のいつもの不安を忘れていた。久々の友人に会いたい気持ちとミュージカルに舞い上がってそもそも遠出にストレスを感じることを忘れていた。

電車に1時間半乗ったら、まずまず遠い場所まで行ける。日帰りで行く観光地の移動時間の限界くらいにかかる。

ああ、やっぱり不安だ。なんで行くなんて言ったんだろう。やめればよかった。日が近づくにつれてそんなことを思った。夫にも相談したが、笑われた。大丈夫だから行っておいで。絶対楽しいからと。

そうなの。そうなんだけど、それは無事に帰ってきたらいえること。

でも、まあ、夫もそう言ってくれてるし、行ってきた。結果、素晴らしくて楽しかった。思わず号泣するシーンもあって、しっかりリフレッシュになった。友人の顔も見れて本当に嬉しかった。

だけど友人と別れて無事に家に帰りついて心底ホッとした。素晴らしい一日だったけど、思わぬ気疲れもした。もう、しばらくは遠出の用事はやめよう、そう思った。

昨日は家族で久しぶりの海に行った。
電車で1時間半。
わたしは海が好きだ。湘南の海が好きだ。どんなに綺麗な海を見ても、この海が好きだと思う。だから若い頃からよく通った。その海に行ってきた。

家族と行く場所は不安がない。家族一緒にいるから何が起きても大丈夫。わたしはリラックスできた。

子どもは10月の海は少し寒かったのに、サンダルに履き替えて、波打ち際で熱心に貝拾い。わたしも一緒に歩いていると、波が行ったりきたりしている砂に、波が引くと、小さな1センチほどの貝が自分で潜っていったように見えた。

あ、生きてる貝がいる!それが楽しくて、貝拾いの娘をよそにわたしは波が引いた瞬間を見つめていた。やっぱり貝が時々潜っている、か〜わいい!そして、そんなことをしながら、子どもの貝拾いの様子もみながら、進んでいると、おや?1.5センチくらいの巻き貝の先が、もしょもしょ動いている?

ヤドカリだ!こんな波打ち際にヤドカリがいた!
娘に「ねえ、みて、それ、ヤドカリじゃない?」
「え?どこどこ?ほんとだー!」魚も虫も動物も大好きな、生き物好きの娘も、ヤドカリを捕まえて大喜び。わたしたちの後ろをのんびりついてきていた夫もヤドカリに驚く。「こんなとこにもいるんだね」

ヤドカリはいつも用意がいい夫が持っている200ccくらいの小さな水筒型の、蓋つきクリアケースに海水とともに入れられた。ヤドカリはすっかりその身体を貝の中に隠して見せてくれない。たまに足の先が動くのが見えるだけ。かわいい。

それならばと、さっき、波が引く時に一生懸命潜っていた、小さな貝もふたつだけ入れてもらった。

しばらく海で遊んだあと、江ノ島に移動した。江ノ島は神奈川の湘南の海岸のはなれ小島に橋がかかっている有数の観光スポット。今日もここは原宿かというくらいに、おみやげや食堂、雑貨屋さんの立ち並ぶ神社に続く参道は人の波ができていた。わたしはよく来た慣れた場所だが、娘は初めてだった。

タコを圧縮機でペシャンコにしたタコせんべいは行列で、並んでいる間に娘がもじもじするのを見るとトイレに行きたくなったようで、行列から抜けて、通称タコせんは断念した。

タコせんは食べられなかったけど、お煎餅にめだまやきとシラスと青のりとマヨネーズが挟んである、江ノ島せんべい、とかいうのは食べた。全然期待していなかったのに、想像の100倍美味しくて、興奮した。
江ノ島神社の階段の参道の入り口付近、江ノ島神社を正面に見て、左にあるトイレに向かう道にある店だ。ポップな雰囲気の小さな店。

娘はアイスを食べたがり、そのせんべいはわたしのと、夫のをふたくちずつ食べた。
「今度江の島にきた時にまたこれ食べたい」そう言ってかわいい顔で笑った。

店を出ると、その隣に、小さな雑貨屋があって。そこのお店に入ってすぐに並べられた、ミサンガが目に入った。わたしは最近ずっとミサンガが欲しいと思っていた。

ミサンガは刺繍糸で編まれた細い紐を、腕でも、足首でもどこでもいいけど、かたむすびで結んで身につける。その際願掛けをする。切れるまでつけておき、切れたら願いが叶う。というもの。

最近の少年ジャンプの連載で登場して、久しぶりにわたしもつけたいとこっそり思っていた。強い願望ではなかったから忘れそうになっていたけど、見たら吸い込まれるように店に入り、選んでいた。

即、選んで、娘も欲しいと言うので、二本持ってレジに行くと、後ろからスッと夫が来て、夫も自分の分を持って、三本分をレジに持って行き、支払いをしてくれた。あなたも買うのね。意外だったけど、そういえば夫もこんなもの好きそうだったわ、そんなことふと思っていた。

雨がちらついていて、日が傾いて寒くなってきたので、参拝だけして帰ることにした。江ノ島はもっと奥が深く、反対側の海岸まで行きたかったけど、それはまた別の日に。

帰りの電車で爆睡の娘を抱き抱えて降りようとしたら思ったより、成長してて、重くて、力を入れて持ち上げた拍子に、座席の途中に渡されている銀のつかまり棒に娘の頭をぶつけてしまって、夫にオイ!とつっこまれた。そのあとは夫がずっと抱っこしてくれた。20キロ近い娘は重い!タクシーに乗って帰った。

娘はたぬき寝入りだったのか、帰るまで起きなかったくせに、帰ってしばらくするとちゃっかり起きてきて、みんなでご飯を食べてから、今日のお土産の戦利品を並べた。

ミサンガもその中に並べた。三人で足首に結んだ。わたしは腕用の物だったのか、なんだか足首に結ぶとぴっちりギリギリでちょっと恥ずかしかった。何か足がすごい太い人みたいで。まぁ太いんだけどさ。でも、結ぶと可愛くて満足だった。娘は保育園で言われるかもしれないので、蝶々結びにした。夫もさっさと結んだ。

わたしのお願いごとは、地震のとき、家族三人がいますように。ではなかった。

今度の文学フリマで1冊でも多く小説が売れますように、である。笑




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