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【選挙ウォッチャー】 参院選2022・参政党とは何なのか(#1)。

 今年7月に行われる参院選で、議席を獲得し、さらには政党要件まで満たすのではないかと考えられている政治団体があります。
 2019年には「NHKから国民を守る党」「れいわ新選組」がそれぞれ議席を獲得し、さらには政党要件まで満たしましたが、今年、それを上回る勢いで急速に支持者を増やしている政治団体があるという話です。

フロントメンバー5人が描かれた「参政党」のトラック

 それが、「参政党」です。
 実は、与野党の国会議員でさえ、その存在をよく知らない人たちばかりなので、またしてもノーマークのまま、議席を取られてしまうのではないかと思いますが、今の勢いがそのまま持続すれば、1議席どころか、2議席や3議席取っても不思議ではないほどに勢力を拡大させています。

 僕の職業は「選挙ウォッチャー」で、4年ほど前から日本全国の選挙を見ては、どんな選挙だったのかをレポートに書いて、200円とか300円みたいな金額で売るという仕事をしています。
 その中で、「NHKから国民を守る党」に対する批判的な記事を書いたところ、立花孝志から9件に及ぶスラップ裁判を受けたため、ストロングスタイルの取材をして、1冊の本にまとめました。以来、あまり注目されていない小さな政治団体もチェックするようになり、現状、そこらへんの政治系ジャーナリストの方々よりは、若干、詳しいのではないかと思いますので、本日から「参政党とは何なのか?」を解説することにしました。


■ 「参政党」は、初のゴレンジャー方式を採用

 2019年の参院選は、ある意味、歴史的な選挙となりました。
 というのも、政見放送でとことんふざけ、経済・防衛・外交など、さまざまな分野のさまざまな問題がある中で、「NHKの受信料問題」という超絶ニッチなところを公約に掲げ、全国にカカシのように候補者を立てた「NHKから国民を守る党」が、まさかの1議席を獲得し、さらには国政政党の要件を満たしてしまったからです。
 これにより、「金さえ用意できれば、国政政党を作るのは、けっこうチョロい」ことが判明し、「いつか大きな政党を作りたい」という野望を持つ人たちに夢と希望を与えました。もちろん、ちゃんとした志を持って政党や政治団体を作る人もいることにはいますが、「国政政党を作りたい」と考える人が必ずしも、ちゃんとしているとは限りません。だから、どんな政党や政治団体であれ、小さいうちから「大丈夫か、大丈夫じゃないか」をしっかりと見て、判断しなければなりません。

左から神谷宗幣・武田邦彦・赤尾由美・吉野敏明・松田学と並んでいる

 さて、今年から急拡大している「参政党」とは、一体、どのような政治団体なのか。3年前の「れいわ新選組」「NHKから国民を守る党」と決定的に違うのは、「山本太郎」「立花孝志」のような、党を率いるカリスマ的なリーダーが存在しないということです。
 これを僕は「ゴレンジャー方式」と名付けています。
 ゴレンジャーには、赤、黒、緑、黄、ピンクみたいな感じで、それぞれに個性があり、「赤レンジャー」を好きな人もいれば、「黄レンジャー」を好きな人もいて、それぞれの『推し』『推し』でありつつ、なんだかんだトータルでは「ゴレンジャーが好き」ということになります。
 強烈なカリスマがリーダーとなっている政党だと、山本太郎さんを嫌いになった瞬間に「れいわ新選組」まで嫌いになってしまったり、やらかしている立花孝志の姿を見て「N国党」に投票する気が失せたり、リーダーの言動一つで支持が安定しなくなるというデメリットがあります。
 しかし、5人を共同代表(フロントメンバー)にすることで、ある人は神谷宗幣さんから「参政党」に、ある人は武田邦彦さんから「参政党」に、ある人は赤尾由美さんから「参政党」にと、入口を増やすことができる上、仮に誰かが失言をしてしまったとしても、「他にもメンバーがいるから参政党を応援し続ける」という形を作れるメリットがあります。前田敦子さんで言うところの「私のことは嫌いでも、AKB48のことは嫌いにならないでください」です。やがて国政政党になることがあれば「党首」「幹事長」といったポストが必要になるため、この5人の中にも上下関係が生じると思いますが、ひとまずベンチャー政党の顔を複数人にする手法は「参政党」の発明かもしれません。


■ 街頭演説の手法は「れいわ新選組」である

 2019年の参院選で議席を獲得した「れいわ新選組」「NHKから国民を守る党」よりも後発で立ち上がった政治団体のため、どうしたら参院選で議席を取れるのかという話は、極端な話、実績のある2つの政党をそのまんま再現してしまえばいい。
 ということで、「参政党」は、街宣では「れいわ新選組」をパクり、選挙戦略は「NHKから国民を守る党」をパクるという、とても合理的な戦術で国政政党になることを目指しています。

5月15日に行われた秋葉原駅前での街頭演説会の様子

 まず、「参政党」の街頭演説は、「れいわ新選組」の丸パクリです。
 多くの政党は、近くに選挙カーを置き、ワイヤレスマイクを使って、選挙カーのスピーカーから音を出すスタイルを採用していますが、「れいわ新選組」は、簡易的なステージを組み、PAさんを用意し、ステージ横に置かれたアンプから良質な音を届けます。これはある意味、芸能人だった山本太郎さんの「こだわり」だと思いますが、実は、この「音にこだわる」というのは、選挙戦略的にも大きな意味を持ちます。
 というのも、選挙カーから音を出すと、音が割れて演説が聞きにくく、話を長く聞くことが苦痛になり、集中力を失います。ところが、ちゃんとしたスピーカーから音を出すと、人の耳に届きやすい中音域で遠くまでしっかり届くため、長時間の演説にもストレスがありません。

あまり知られていなかった選挙戦略がパクリによって使われるようになってしまった

 実は、この「スピーカーを使う」という選挙戦略は、あれだけ「れいわ新選組」がやり続けているのに、これまであまりマネをされず、一部の野良軍師たちが人知れず使っていたテクニックでしたが、参政党がパクったことで脚光を浴び、これから急速に広がる可能性があります。
 ちなみに、この「スピーカーを使う」という戦術一つとっても、誰も知らないところで密かに進化しており、さらに効果を高める方法がいくつも発明されていますが、詳しくは、毎日の選挙レポートをコツコツ読んでいただければと思います。

ギャラリーからの質問に答える松田学さん

 もう一つ、「れいわ新選組」を丸パクリしている部分があります。
 それは、ギャラリーがマイクを持って、壇上の松田学さんや赤尾由美さんに直接質問でき、どんな質問にも必ず答えるということです。山本太郎さんはこのスタイルで人気を獲得してきました。
 実は、松田学さんは歴史修正主義者のため、歴史の話には大きな矛盾があったり、赤尾由美さんは「コロナはただの風邪」だと思っているため、新型コロナウイルスに関する知識はほとんど陰謀論だったりして、それなりに知識や教養がある人が見ると、「デタラメぶりが半端じゃない」としか言いようがないものになっていますが、何の知識や教養を持たない人たちが見てしまうと、「そうだったのか!」という感じになってしまいます。これが彼らの言うところの「目覚め」につながっています。
 この「目覚め」というのが、ある意味ではキーワードになっていて、どうして「参政党」にハマるのかを語る上では重要なのですが、この話は長くなるので、また別の機会に解説します。


■ パクっているが、パクり方は雑である

参政党のステージの横にも「物販用のテント」が設置されている

 かつて「れいわ新選組」の街頭演説は、ステージの横にあるテントがポイントになっていて、総額で5億円近く集まったとされる個人寄付は、多くがこのテントで集められました。
 街頭演説の最後に、山本太郎さんがほぼ必ず「寄付をしてください」と呼び掛け、演説を聞いた支持者たちがテントに立ち寄り、数千円や数万円といった単位で寄付をしたのでした。
 実は、こうした演説で寄付を集める行為にはノウハウがあり、公選法違反に問われるようなことがあってはなりませんので、「れいわ新選組」の寄付は、すごくしっかりしていました。少なくとも、寄付をしてくれた人の住所や名前、金額などが分からなくならないように、工夫をされていました。

透明の募金箱にむき出しのまま寄付金が入れられるスタイルの「参政党」

 しかし、形をパクるところからスタートしているので、寄付の集め方のノウハウがあるわけではなく、透明の募金箱におもむろに札を投げ入れるスタイルになっていて、これでは最終的に、どこの誰がいくら寄付をしたのかがわからなくなってしまいます。このままだと、形だけパクった末に警察にパクられることになりまっせ!

脚立を並べて作られている「参政党」のステージ

 もう一つは、ステージの組み方にもノウハウがありません。
 実は、「れいわ新選組」は山本太郎さんが俳優だっただけあり、いろいろな舞台やイベントで使われている簡易ステージが組まれていますが、残念ながら、「参政党」は並べた脚立の上に板を置いています。
 これでもそう滅多なことで事故は起こらないとは思いますけど、個人的には、どうせいろんな所で長く使えるんだから、とっとと簡易ステージを組むようにした方がいいと思います。なにしろ、脚立を並べただけだと、下手すると「震度5弱」ぐらいでもガッシャーン行って、松田学先生ぐらいだったら、肋骨の数本ぐらいは逝かされると思います。


■ 比例区での議席はN国党戦略を採用

 街頭演説は「れいわ新選組」をパクっている「参政党」ですが、選挙戦略は「NHKから国民を守る党」を踏襲しています。と言っても、この選挙戦略そのものは、べつに「N国党」が開発したわけではなく、どこの政党もやっていることではありますが、国会に議席を持っているわけでもない新興勢力は、通常、あまり資金力がないので、この戦略を取れませんでした。
 ところが、「いざとなったら、借りた金を返さなければいい」の精神で突っ込んだ立花孝志の成功により、全国に候補者を立てれば、少なくとも政党要件を満たすための2%を獲得でき、議席さえ獲得できれば国政政党になれる。もっと言うと、最悪の最悪、比例区で議席を獲得できなくても、2%さえ超えていれば、どこかから国会議員を引っ張ってくるだけで国政政党になれる。
 ということで、「参政党」は今度の参院選で、全国の都道府県選挙区にカカシのように候補者を立て、自民党も嫌だけど、立憲民主党や日本維新の会も嫌だという人たちの受け皿となり、2%以上の得票率を勝ち取り、国政政党の要件を満たそうとしています。そのため、立候補してくる人が「マインドブロックバスター」とか「ファスティングの専門家」とか「無料案内所の面倒見の良いオッチャン」とか、そんな人たちが続々と立候補する形になっています。多少は政治に対して何らかの志を持っているのでしょうけど、あまり選挙で見ないタイプの人たちが立候補してくることは確かです。


■ 選挙ウォッチャーの分析&考察

共同代表の赤尾由美さんは、なぜか常に猫のぬいぐるみを抱いている

 最近、「日本維新の会」の松井一郎代表から裁判を仕掛けられたとして水道橋博士が世論に訴えていますが、実は、水道橋博士がスラップ裁判を問題にする前から、僕は立花孝志に9件の裁判を仕掛けられ、日本に数例しかない「スラップ裁判として認定された判決」を勝ち取ったことがある男です。実際に勝ち取ったのは弁護士さんかもしれませんが、N国党からは、こうしたスラップ裁判以外にも、ネット上に自宅を晒されたり、大量のパンフレットが届けられたり、ありとあらゆる嫌がらせを受けまくったため、「これは当事者として戦わなければならない」として、ゴリゴリにやり合ってまいりました。
 しかし、「参政党」については、今のところ、何か嫌がらせを受けているわけでもありませんし、陰謀論がモリモリで、ほとんど「神真都Q」であること以外は、何も思うこともありません。なので、これからもヌルッと「参政党」を観察しながら、ただただ目の前で繰り広げられていたことを皆様にお伝えしようと思っておりますので、けっして「参政党を潰したい」と思っていたりするわけではないことは、あらかじめ書いておこうと思います。

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