きみとめ

クスッと笑えたり、ドキッとしたり。感情の動きに、興味があります。

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最近の記事

創作短編『風に吹かれて』

商品部に、水野という30代の男がいて、遊んでいるような雰囲気で仕事をしている。 服装も、スーツよりジーンズの日が多い。 角刈りに丸めがね。 冗談を言って、周りを笑わせてばかりいる。 雑学好きで、 「マーフィーの法則、知ってる? じゃあ、バタフライ効果は? 知らんの~?」 メーカーや問屋さんたちとの商談は、そんな雑談から始めていた。 彼は、会社のトップバイヤーである。 会社と言うのは、食品スーパー。県内に9店あり、ここは本社。 わたし、伊那 桂子 ( いな けいこ )

    • 創作童話『はがき』 (後編)

      こうみんかんの 5時の音楽がなった そのとき 空から 大きな葉っぱが ゆらゆらおちてきて わたしの 手のひらでとまった しかくい 切手のもようがあって はがきにみえた ◇ ななめ前のおうちに住んでいる リッくんは 中学校に行ってない 紙を折って どうぶつを作っている 見たこともない そのどうぶつには つばさがあり 「ドラゴンだよ」 と おしえてくれた リッくんにもらった紙を はがきのかたちにきる 毎日 絵をかいて 5本ゆびの木にかくした 青い花の絵がじょうずにかけた

      • 創作童話『はがき』 (前編)

        いろえんぴつで かく 花びらを じーっとみる ふいに 花とわたしが ひとつになる そうなること 小学校のともだちにも お母さんにも 話したことない まるで 星になって 宇宙に浮かんでいるみたい マーコさんなら 話してもいいな マーコさんのお店は おきにいりのものだけおく お客さんがほしがっても 「売りものじゃないんです。ごめんなさい」 と言う いつも お母さんにコーヒーをいれてくれる わたしには りんごジュースと いろえんぴつ ふたりが おしゃべりするあいだ わたしは

        • 落としもの (後編)

           ある日、従業員用のバックヤードの通路に落ちていた、1万円札を拾った。 休憩時間が減るなと思いながら、仕方なくデパートの事務所へ届けた。  翌日の夕方、店長と商品の前出しをしていると 「一ノ瀬さんって人、いますか?」 と声がした。 振り返ると、20代前半とおぼしき男子3人組が、両手に白いビニール袋をぶら下げて立っていた。 健康食品が似合わない、元気いっぱい男子の登場におののき 「わ、わたしですが?・・・」 と慌てて答えると 市原隼人似の硬派系男子が、ひとり進み出た。 「

        創作短編『風に吹かれて』

          落としもの (前編)

           午後3時のデパ地下は、買い物客でごった返していた。 円錐形に盛られた、色とりどりのサラダ。 食欲をそそる、肉や魚のお惣菜。 色と匂いの洪水。 そんな混雑を横目に、フロアの隅にある健康食品売場へ小走りで入っていく。 小さなトートバッグから黒いエプロンを取り出し、書類ケースの置いてある、腰の高さの机の後ろにバッグを置いて、エプロンの紐に腕を通した。 「一ノ瀬さん、どくだみ茶が切れてるから、発注しておいて」 20代半ばの女店長が、電卓を勢いよく叩きながら言った。 「はい」 休

          落としもの (前編)