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《 雪に何をみる 》

   (約600字)



 「雪化粧は、憧れだと言ってはいけない」

冬になると、
子ども心に、繰り返しタブーだと念じた。

私は台風の夜にワクワクした。

雪の朝は、何故かシンとしていた。
それもワクワクした。

台風の夜は必ず、日本家屋の実家では戸袋から雨戸を引っ張り出して家屋の大きなガラス窓をグルリと覆わなければいけなかった。
ガラスが割れては危ないから、家の中は真っ暗闇になる。


それが子どもの私には楽しくて仕方がなかった。でも大人たちが庭にある道具類やら植木鉢を忙しなく片付けるのを見て、笑うのは違うと感じて、笑い出すのをこらえた。

雪の朝、なぜか寒くなかった。

ストーブを焚いて、いち早く部屋を温めるのが朝いちばんの仕事で。

「あれ?今日はもしかして、雪が積もったかな」

ちゃんちゃんこを羽織って玄関を開けると、静かな雪の音に耳をすませた。
時々、雪の落ちる音が聞こえる気がした。

水っぽい雪だと、すぐに溶けてしまう。
細かい雪のときには、小さい雪だるまを作れる。
玄関から庭に出る一歩め、その粉雪にギュッという押し返す感覚が足から伝わると嬉しくなった。

雪だるまが作れる。


実家は田舎だから、氷柱が屋根から垂れ下がることがあった。
池が凍りついて、スケートが出来そうな時期もあったが、もちろん禁止された。

雪で難儀する地域では歓迎されないかもしれない雪景色が、私には楽しみでウキウキする気分を連れてきた。


温暖化で、実家もこの辺でも雪は降らないし、積もらない。

根雪や万年雪なんて、さらに縁がない。


じきに次の季節を迎える。







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