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myマグネット⑤山道にあるミシュランレストランに納得して、証明写真の村に驚愕した日 inモガラス/スペイン

ミシュランと言えば、高級なお寿司屋さんか一度は行ってみたいラーメン屋さん。日本にいた時はそんなイメージだったが、タイヤを作るミシュランがなぜグルメガイドを作っているのか納得した日のことを長文になるが書きたい。

ある日どこかから車で帰る途中、近くにレストランがあるかGoogleマップで調べたら一軒だけ見つかった。対向車とすれ違うのもちょっと苦しいような山道を過ぎると、そのレストランの駐車場があったので中に入ってみると奥まで車でいっぱい。駐車場の向かいには大きな観光バスが停まっている。駐車スペースを見つけて車を降りてレストランへ向かうものの、頭の中は?でいっぱい。なぜこんな山の中に人が集まっているのだろうか?

時間は夕方4時すぎぐらいだったと思うが、昼の部のお客さんが帰るか帰らないかの時間で、軽く飲み物を飲むだけの人々もテラスに溢れていてスタッフは皆忙しそうに走り回っていた。私たちはもちろん予約はしていないので、カウンターのそばの席なら今片付けるからと言われて少し待った。レストランの入り口にはガラス張りの大きな冷蔵庫が置いてありいろんな部位に切り分けられた牛肉が陳列されていたが、貴金属が並べられているショーウィンドウか!とツッコミたくなるくらい、入ってくる人が皆うれしそうにお肉を眺めているのだ。それも小学生ぐらいの女の子まで!
席に座り壁を見るとミシュランの赤いパネルがズラリと並んでいる。あれ?お店のウェブサイトにはのってなかったけどな??スペインのレストランはウェブサイトにそういうことを載せてない所が多い気がするし、星をもらっても皆あまり気にしてないような。こうやって騒いでしまう私自身が恥ずかしくなった。ミシュランを取ったからと言って一時だけ客が殺到しても逆に迷惑な話なのかもしれない。それよりも人々に長く愛されてお客が途切れない方がレストランとしては大切なのだろう。

ヨーロッパは都会から離れた方が美食に出会えると何かで聞いたことがあるが、車で進めば進むほど美味しいレストランに出会えたりする。そして店内に入ってみると、週末は車を走らせて空気と景色が綺麗なレストランでゆっくりと食事をするというこちらの人々の過ごし方には考えさせられる。大切な人と素敵な場所で美味しいものを食べる。おそらくテーブルで「私の仕事は〜」などとつまらない話はしていないと思う。
景色の綺麗な山道を車で走って、その先に美味しいものがあるならそのために車を走らせる。ヨーロッパでは昔からドライブとグルメがセットになっているからミシュランがグルメガイドを作っているのだ。

ミシュランのロードマップ。
開いてみるとスペインとポルトガルがイベリア半島としてまとまっている。地図だけを頼りにして旅行に行く時代があったが、今でもガソリンスタンドで売られていたのがうれしくて購入した。

当たり前の話だがヨーロッパは地続きなので車でどこまでも行けてしまう。ヨーロッパを車で周ったことがある方にはきっとわかってもらえると思うが、近くの車のナンバープレートを見てどこの国の人かなとチェックしてしまう。さっきまでイタリアナンバーに囲まれていたと思っていたら、しばらくするとスイスナンバーだらけで、スイスの皆さんが何時間もかけてこぞって行く場所ってどこなの?教えて??と気になって仕方がなかったり。ちなみに大きくてピカピカのキャンピングカーはほぼドイツナンバーで、年配の夫婦が犬を連れていたりする。ファミリーはというと自家用車でキャンピングカーの部屋の部分?を牽引しているタイプが多い気がする。

レストランでお会計をした時に、さっき飲んだワインは裏のワイナリーで売ってるよと言われて行ってみることにした。ワイナリーで色んな話を聞いて何本か買い満足して帰ろうとしたら、奥へ奥へと人が吸い込まれて行くことに気づいた。何があるのか気になりと私たちも行ってみたら、「証明写真の村」が出てきたのだ!
スペインにはLos Pueblos más Bonitos de Españaという「美しい街」を認定する協会があり、スペインの山道で突如現れる小さな街、というか日本語としては「かわいい村」と言う方がしっくりくる気がするが、そういう場所に行くとここの協会の看板が立てられていることがよくある。マグネットの写真に選んだのは、先ほどのレストランがあるモガラスという村にある顔写真が貼られた不思議な壁。実はここだけではなくあらゆる建物に顔写真が貼られている。この「美しい街」認定協会のInstagramでモガラスが紹介されているので、独特な雰囲気をぜひ見てほしい。

はっきり言えば証明写真が家の前に貼られているのだが、一見不気味なようで実はそうじゃないのである。かなり大きいサイズに引き伸ばされて貼ってあっても、写真に写っている人々の表情を見てなごんでしまったぐらいだ。実物だったら話したり話しかけられたりする関係が生まれてしまうけれど、こういう写真やイラスト近くにあると一定の距離を保ちつつも孤独を和らげて安心させるような効果がある気がする。誰かの写真を家の中に飾ると部屋が寂しくないのと似ている。
この村に来てみて、駐車場に入る時に見かけた観光バスが停まっていた理由がわかった気がした。スペインの「美しい村」を巡るバスツアーがあるのだろう。そしてグルメもセットになっているに違いない。写真の村を歩いているのはあらゆるところに行き尽くしたであろう高齢の方々ばかり。偶然たどり着いた割には濃い時間を過ごしてしまい、モガラスに来る前に行った場所の記憶が薄れてしまうぐらいだった。自分の人生でトップ5に入るくらいの一期一会の1日になった。

入り口のすぐ横にあるお肉のショーケース
映画のセットか舞台のよう