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不動産日記 vol.1

「この家で自分は死ぬ」と思っていました。
何の疑いもなく、一生この田舎の家に暮らすと思っていたからです。
でもこの家を売って、都内に引っ越しをすると決めました。

本当のことを言うと、50歳を過ぎて、
自分は順応できるのだろうか、と自信がありません。

自信はないのですが、
もう引っ越すと決めたのです。
少しずつそれに向かって、心を整えていかなければと思っています。

愛すべき家

私の家は、20年前に5年かけて
ようやく探しあてた住宅街にある公園前の家です。

当時、子育て真っ最中。
仕事も続けたいと考えたら、
田舎だけど実家の近くは便利かな、となんとなく思っていました。
 
南側の大きな窓から見えるのは、
生い茂る楠の葉と青い空に白い雲。

他人の家や電柱は見当たりません。
電柱がないから当然電線もないし、空が広い。
初めて内覧したときは「この家はなんだ。普通じゃない」と思いました。

主要駅から遠く中古なのに、
コンクリート構造だったので高額でしたが、
その家を上回る物件を見つけるのは難しいと感じ購入を決めました。

家は庭が広かったので、娘たちが小さい頃は
庭にテントを建てて寝泊りしました。
ご近所さんにはいつも頭を下げて、
バーベキューはもちろん、焚火もやっていました。

コロナ禍となってからは、
家族みんながリモートワークになっても
それぞれの部屋で勉強や仕事ができました。

それでもここで暮らすには、大変さもありました。
主要駅やスーパー、病院までは、車じゃないと行けません。

娘たちが駆けずり回った広い庭は
メンテナンスが必要で、
夫が頻繁に芝刈り機を稼働させています。

秋でなくても、いつも家の周りは枯れ葉だらけ。
冬になって雪が降れば自分の家の周りのほか、
公園側の雪かきもしなければなりません。

いつもお世話になっている高齢のご近所さんの分も雪かきするので、
夫婦二人でざっと10軒分は雪かきします。

こうして時は過ぎ、幼かった娘たちはそれぞれ社会人となり都内へ。
私たち夫婦と老犬だけが、残されました。

孫ができて娘たちが帰ってくることは軽くイメージしていましたが、
まだ結婚もしていない娘たちの人生に介入することはできません。

この家を共に愛してきた夫が「この家はもう広すぎるね」と
言い始めました。
年齢を重ねたら、家にかける労力がなくなる、とも。

「考えたらそうだよね」と私も同感でした。

迷惑をかけたくない

引っ越しを考えたことの理由は、他にもありました。

近くに住んでいた母は不便さを理由に、
なかなか運転免許を返納しませんでした。

それを目の当たりにして、
自分たちも不便なところに住んでいたら、
「母と同じことになる」と思いました。

いつか後述しますが、私は母の家の荷物を片付けたときに、
大変な思いをしました。

この引っ越しを機に、車がなくても生活できる便利なところに住み、
自分たちの所持品をコンパクトにしておけば、
娘たちに迷惑をかけずにすみます。

「迷惑をかけたくない」
これは母の片づけを手伝った私にとって、
大きなポイントとなりました。

家族

夫はというと、都内まで遠距離通勤中。
もう15年も通い続けています。

これから彼もどんどん老いるのに、
通勤に時間がかかるのはかわいそうです。

夫はこれまで、私の職場に近い今の地域に住むことを理解し、
合わせてくれた人。
恩返しをしなければと思いました。

また都内で一人暮らしする次女には持病もあり、
私にとってはそれも心配なことでした。

疲労がたまると症状が悪化するため、
「休養をとるように」といつも話してはいましたが、
仕事があってなかなかゆっくりと休むということもできないでしょう。

近くに住めば、「少しは何か手伝えるかも」。

母が老いてきて、目は離せなくなっていましたが、
自分の家族を大切にしたいという思いを
大切にしても良いのではないかと思い始めたのです。








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