詩集「中原中也詩集」中原中也 感想


著者 中原中也

月夜の浜辺

月夜の晩に、ボタンが一つ
波打際に、落ちていた。

それを拾って、役立てようと
僕は思ったわけでもないが
なぜだかそれを捨てるに忍びず
僕はそれを、たもとに入れた。

月夜の晩に、ボタンが一つ
波打際に、落ちていた。

それを拾って、役立てようと
僕は思ったわけでもないが
   月に向ってそれははふれず
   浪に向ってそれは抛れず
僕はそれを、袂に入れた。

月夜の晩に、拾ったボタンは
指先にみ、心に沁みた。

月夜の晩に、拾ったボタンは
どうしてそれが、捨てられようか?

190ページ

 月夜の晩に見つけたボタンを、どうして捨てることができるでしょうか。こんなにすてきな紳士のボタンであるのに。
 月夜の晩に見つけた貝殻を、どうして捨てることができるでしょうか。こんなになつかしい海風を聞かせる貝殻であるのに。
 月夜の晩に見つけた鱗を、どうして捨てることができるでしょうか。こんなにきれいな人魚の鱗であるのに。
 セピア色の郷愁としての中原中也の詩。

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