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わたしの憂鬱な4月を支えてくれたもの

6時54分。

天井を見つめる。
あーあ、また1日が始まってしまった。
6時に起きる予定が、また今日も起きられなかった。
目覚ましのスヌーズ機能は、何回私を呼んでくれていたのだろう。
家を出るまで残り30分。
気だるい体を、のっそりと起こす。
今日はコーヒーとメイクを諦めればいっか。
「パック1枚で、朝の洗顔も保湿も完了!」というズボラの味方を、顔面に貼り付けることすら、面倒臭い。

どんよりとした気持ちで始まる4月の朝。

私は4月が大の苦手だ。
学校は4月を区切りに全てが一新されるから。
教室が変わり、毎日共に過ごす子どもたちが変わり、後ろにいる保護者が変わり、
一緒に働く学年チームが変わる。子どもも大人もお互いどんな人間かなんとなく分かってきて、付き合い方や距離感を掴んで過ごせるようになるまで、落ちつかない。

入学式、始業式が終わると、一気にヨーイドン!
学級が始まって最初の3日間は、「黄金の3日間」と呼ばれている。
「最初の3日間で1年が決まる」
「先生の思いを伝え、クラスの規律を作れないと、学級が崩壊する」という、なんとも恐ろしい言葉。脅しのようにも聞こえる。
もちろんスタートは大切だけどさ、4日目以降だって365日目だって同じ重さじゃないの。3日間で転んでしまったら、もうその1年間は終わったなんて怖すぎるよ。
でも、そのくらい始めが大事なことは確かなので、3日だけでは決まらないとは思いつつも、どうしても肩に力が入ってしまう3日間なのだ。

日々の授業が始まる。
加えて、当番や係活動、クラブ活動、委員会を決め、スポーツテスト、学力テスト、検診があり、
学級懇談会、参観日と盛りだくさんである。
ふと気づくと運動会の練習も始まる。競技はどうしよう、ダンスの曲は何がいいかな……

昔、恩師が言っていた「教員の4月は“殺人的な忙しさ”だよ」というパワーワードを毎年思い出す。その通りです。

だから毎朝、職場への足取りが重いのだ。
いざ学校について、子どもの前に立つと、不思議と「先生」になれるのだが、行くまでが辛い。
この仕事が向いていないんじゃないか、とさえ思う。
仕事が嫌いなんじゃなくて、不安!緊張!追われる!落ち着かない!
登校渋りならぬ、通勤渋りの先生です。
4月の3週目くらいから「少し疲れたようなので休ませます」という連絡が入っても、そうだよねぇ疲れたよねぇと痛いほど気持ちが分かる。


やっとこさ、憂鬱な4月が終わった。乗り切った、いや生き延びられた。
お給料をいただいて、やらせてもらっている仕事だからやりきるのは当たり前なのだけど。

この4月は、ある“おまもり”に支えられた。

6時間目が終わり、「さようなら!また明日ね!」と送り出す。
よしよし、今日も無事に終わったぞ、と安心しながら黒板の字を消していると、背後に一人の子が立っていた。
子どもを見送り、一瞬にしてオフモードになっていたので少しドキッとした。

「あれ、どうしたの〜」と聞くと、
「先生にこれあげる」と手のひらに小さなカードをのせている。

そこには私の似顔絵が描かれていた。
しかも、私の大好きなちいかわたちがにっこりと横に並んでいる

「えっ、いいの!」
「うん、昨日家で作ったんだ〜」
「すてき! ありがとう!! この手帳に入れて“おまもり”にするね」
「うん!じゃあね!」
走って教室を出て行った。

家に帰っても私のことを思い出してくれたこと、
時間をかけて丁寧に描いてくれたこと、
(しかもテープを使ってラミネートされていた)
好きなキャラクターを覚えててくれたこと、
帰りにこっそり渡すまで大切に持っていたこと。

全てそこには愛がある。じんわり。
その子のおかげで、ほくほくした気持ちになっている自分がいた。
教室から職員室へ向かう足取りが軽い。
さっきまであんなに疲れていたのに、嘘のよう。

次の日も私は、朝から“おまもり”を見て元気をもらっていた。
人の温かさってすごい。

うれしくて、つい一連の出来事を母にLINEで報告した。
「子育てと同じだねえ。疲れてても、イライラしてても、子どもの寝顔を見ると吹っ飛ぶよ。」

心を支えてくれるものって、ささやかなことなんだ。
もちろん、お給料がたくさんもらえるとか、旅行の楽しみがあるとか、
そういう類の“おまもり”もある。
でも、日々の中にたくさん転がっているささやかな“おまもり”の偉大さたるや。

「おはよう、今日のスカート似合ってますね」「お疲れ様、あと一日で週末ですね」
「いつもありがとうございます」

たった一言の“おまもり”で力がみなぎってきた経験もある。

忙しさで心にフィルターがかかってしまって、おまもりの存在に気付けないときもあるけど、こぼさないように大切に受け取っていきたいな。

あの子のように“おまもり”をあげられる人にもなりたい。

4月が終わってから10日も過ぎてしまいましたが、心に残った出来事なので書きました。

今週は何を書こうかな、と考える時間が楽しみです。
いつも読んでくださって、いいねを押してくださって、ありがとうございます☺️




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