EVERY【織田信長】-天下統一 恋の乱- ✎

※天下統一 恋の乱の二次小説です

ヒロインの名は陽菜です






信長様にお客様が来ていると聞き、私は広間へお茶と茶菓子を持っていった。

広間からは何やら早口の言葉が聞こえてくる。

(聞いたことある声…もしかしたら)

襖を開けると、想像通りそこにはフランシスコ・ザビエールとルイス・フロイスがいた。

「ザビちゃん!ルイちゃん!お客様って二人の事だったのね」

「あら!陽菜!元気ソウね」

「久しぶりダナ陽菜、ジャマしてるぞ」

二人とは軽く挨拶を交わし、後で時間を作ることになった。

ザビちゃんとルイちゃんは『かとりっく教会』の宣教師で、変わった品物があるとこうやって登城し、信長様に献上しているのだ。

難しいことはわからないが、異国との交流はこの日の本の国を豊かにする為に必要な事らしい。

しばらく庭掃除をしていると信長様が広間から出てきた。

私はわずかに眉間に皺が寄っていたのを見逃さなかった。

(どうしたんだろう?面白い物がなかったのかな?)

入れ違いに広間に入ると、ザビちゃんとルイちゃんが何やら揉めていた。

「ザビが悪いゾ。Mr.ノブナガに『LOVE』を連呼スルから、メチャ警戒してたゾ」

「失礼ネ!『LOVE』は万人に与えラレルものよ」

「サビみたいな顔のヤツに言われタラ、警戒シタクもナルヨ」

「なんデスって!キィィー!」

私は二人の間に入り込んだ。

「まぁまぁ二人とも落ち着いて。えっと…『らぶ』はばれんたいんの時も聞いた言葉で…確か『愛してます』って意味よね?

「ソウよ!陽菜は賢いワ!」

(いきなり同性から『愛してます』って言われたら、確かに戸惑うかも…)

「今日ハMr.ノブナガの誕生日ナンダ。だから今日は誕生日プレゼントを持ってきたんダゾ!」

「誕生日?誕生日って何?それの何がおめでたいの?」

私は初めて聞く言葉に首を傾げる。

「「Oh!No!誰も『誕生日』を知らないナンテ!」」





ザビちゃんとルイちゃんの言葉をまとめると、異国では生まれた日を祝う『誕生日』と言うお祭りがあるらしい。

家族や親しい知人、恋仲は贈り物を贈ったり、甘い『けーき』と言うお菓子を食べたりして祝うそうだ。

(けーきが何かがわからないけど、かすてらで代用出来るっぽい)

私は台所でさっそくかすてら作りに取り組んだ。

(問題は贈り物よ。信長様の欲しい物がまったくわからない…城下に出て探す時間はもう無いし)

かすてらの甘い匂いが漂い始めると、ドタドタと騒がしい足音が聞こえてきた。

「陽菜!なんか食うもんないか?鍛錬のし過ぎで腹減ってよ」

「わんこくんは食いしん坊だなぁ。今食べたら美味しい夕餉が入らなくなるよ」

予想通り犬千代と秀吉様が現れた。

「二人ともお疲れさま。ふふっ…夕餉まで時間あるものね」

私は棚からべっこうあめを取り出し、二人へ差し出した。

「疲れた体に甘いものがしみるぜ!」

「優しい味だね。おかわりもらっても良い?」

子供みたいに飴を頬張る二人を眺めていた私は、妙案を思いついた。

(そうだ!二人に聞いてみよう)

「ねぇねぇ、信長様の『欲しい物』か『貰ったら嬉しい物』を知らない?」

二人は顔を見合わせしばらく考えた後、秀吉様が「あぁ!」と声を上げる。

「秀吉、お前御屋形様が欲しい物知ってんのかよ?」

「知ってるも何も、わんこくんも貰ったら絶対に嬉しいと思うよ」

秀吉様がボソボソと犬千代に耳打ちすると、犬千代は真っ赤な顔をして慌てふためく。

「ばっ…馬鹿野郎!そんなもん…」

「嬉しいでしょ?」

「知るか!」

犬千代は真っ赤な顔をしたまま、一人立ち去ってしまった。

「あの…秀吉様。何か難しい物なのでしょうか?」

「うーん…陽菜ちゃん次第かな」

秀吉様は片目を瞑り、私にそっと耳打ちをした。






夕餉の後、私は信長様の部屋へとかすてらを持って行った。

「なんだ?今日のかすてらは量が多いな」

「今日は信長様の誕生日とお聞きしたので、特別にたくさん持ってきました」

「ふん…かすてらがたらふく食えるのなら、誕生日とやらも悪くはない…」

まんざら悪くない反応にホッとする反面、これから私が贈ろうとしている物がかすてらでは無いことが頭を悩ませる。

「どうした?物欲しそうな顔をして。貴様もかすてらを食いたいのか?」

「いえ…違います。えっと…」

どう切り出したら良いのかわからず、しどろもどろになる。

「大方あの宣教師達に『誕生日』の事を色々吹き込まれたのだろう。生まれた日を祝うなど…そんな事をして何の得がある?必要性がわからぬ」

「そう…ですよね」

「………」

私はすっかり意気消沈し、盆を持って退出をした。






「必要性か…お祝いしたいって気持ちだけじゃあ駄目なのかな。

湯浴みをしながら私はため息をついた。

正直、誕生日の必要性については自分もわからずじまいだった。

この国では新年を迎える度に一つ歳をとる。

無事に年を越せた事と同時に歳を重ねた事を祝う。

だからサビちゃん達が言う『誕生日』と言うものが良く理解出来ないのだ。

「でも…信長様が喜んでくれるなら…と思ったんだけど」

濡れた髪を手ぬぐいで拭いながら、静かな廊下を渡っていく。

ふと人の気配を感じ、私は顔を上げた。

「なんだ貴様その辛気臭い顔は」

「信長様…」

「気になって眠れぬではないか」

信長様は私の手を取り、ご自分の部屋へと向かっていく。

ドカリと座った信長様の前に、私は俯きながら正座をした。

「で?宣教師達に何を言われた?」

「今日は…信長様の誕生日なので、『けーき』と言う甘いお菓子と『贈り物』を用意して祝うと良いと言われました」

信長様の声はすこぶる不機嫌だ。

「ふん…それがさっきのかすてらだな。で?」

「えっ?」

「贈り物はどうした?」

「あっ…贈り物は…その…」

私の歯切れの悪い言葉に、信長様の苛々が募るのがわかる。

「無いのだな?」

「いえ…無いわけじゃなく」

「では寄越せ。今日は俺の誕生日だからな」

ここまで言われては、渡さないわけには行かない。

私は意を決し、信長様へとにじり寄った。

「では目を瞑ってください」

「うむ…」

意外にも信長様は素直に目を瞑ってくれた。

静かに近づき、顔をまじまじと眺める。

恋仲になったとはいえ、信長様の顔を観察する機会などあまりない。

(だって照れくさくて正視出来ないもの)

「まだか!?目を開けるぞ!」

焦れた信長様が声を張り上げる。

「もっもう少しお待ちください!」

「ふん…」

諦めたようにため息をつき、さらに固く目を瞑る姿が愛おしくて、胸がキュッと締めつけられる。

(喜んでくれるかな…)

秀吉様が『絶対に喜ぶ』と言った贈り物。

私はそっと信長様の唇に自分の唇を重ねた。

一瞬だけ触れて離れる。

その直後、目を開けた信長様と目があった。

「………」

信長様は目を大きく見開き、唖然とした顔をしている。

「もっ申し訳ございません!」

「待て!」

慌てて立ち上がり立ち去ろうとすると、信長様に手を引っ張られた。

体の均衡を崩した私は縺れるように信長様を押し倒してしまった。

端正な顔が目の前にあり、顔が熱くなってくる。

「申し訳ございません!」

「誰が帰って良いと言った」

「えっ?」

「今日は俺の『誕生日』で『特別な日』なのだろう?」

「はっ…はい」

「だったらもっと寄越せ」

「えっ!」

「遠慮は要らぬ。貴様すべてが俺のものであるように、俺のすべては貴様のものだ。全部くれてやる」

熱い視線に胸が高鳴る。

「俺に『らぶ』とやらを贈って良いのは貴様だけだ」

胸がキュッと甘く痛む。

「信長様…」

「なんだ」

「愛しています」

「俺もだ」

私は信長様の形の良い唇に、再度自分の唇を押し当てた。

甘い予感を感じながら。 










❥・・ ・・❥

日本に『誕生日』が定着し始めたのは戦後しばらくしてからのこと。作中にある通り、それまでは新年に一つ歳を重ねるとされてきました。

織田信長が日本で初めて誕生日を祝ったと言われていますが、それはルイス・フロイスが信長の消滅を正当化する為に、信長の死後に書き記すしたのではないかと言われています(国内での記述書にそのような記録は無い)。

でも私は祝う!

信長さまハピバ✨(祝´∀`)ノ.+:。 ☆。:+.ヽ(´∀`祝)✨

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