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我が社がAI型チャットボットを選んだ理由と、シナリオ型を選ばなかった理由

企業はどのチャットボットを選んだらよいでしょうか。
チャットボットには種類があり、本稿では、最近登場したAI型チャットボットと従来からあるシナリオ型チャットボットの2つを比較してみます。
2つの特徴は以下のとおり。

  • AI型チャットボットは料金は相対的に高めだが、できる仕事が多く高性能

  • シナリオ型チャットボットは一定の性能にとどまるもののコスト安

結論を先に紹介すると企業には、AI型チャットボットをおすすめします。
現在シナリオ型チャットボットを導入している企業も、AI型チャットボットへの切り替えを検討したほうがよいくらいです。
それくらい両者の実力の差は広がり、両者のコスト差は縮まっています。


AI型とシナリオ型の特徴と違い

チャットボットは業務システムの一つで、利用者が質問すると回答します。チャットボットの多くはWebサイトに設置されていて、利用者は文字入力で質問して、文章で回答を得ます。
この形態はAI型もシナリオ型も同じなのですが、それ以外の要素はまったく異なります。

考えて回答する方法と、劇のように進む方法

両者の最大の違いは仕組みです。AI型チャットボットは、AIが質問者の質問内容を考えて回答します。もちろんAIはコンピュータなので思考するわけではないのですが、しかし人が考える方法と似た過程を経て回答します。
一方のシナリオ型チャットボットは、用意していた回答を質問者に提示するだけなので、劇のようにシナリオとおりに質疑応答が進み、シナリオを逸脱することはありません。

AI型はデータを抽出して文章をつくるところが優れている
なぜAI型チャットボットは考えて適切な回答ができるのか。それは、事前に与えられたデータや情報のなかから、質問者の質問の内容にマッチしたデータ・情報を抽出して、その都度回答文章をつくるからです。
AIの優位点は、大量の情報から有益情報を抽出できることと、回答文をその都度つくれることにあります。したがって質問者が同じ内容の質問をしても、質問文を変えると回答文章も少し変わります。

シナリオ型は回答も質問も用意されているので限られたことしか聞けない
劇で役者がシナリオとおりに話すように、シナリオ型チャットボットは、質問者にシナリオとおりに質問させ、シナリオに書いてある回答を提示します。
例えば顧客対応用のシナリオ型チャットボットなら、まずチャットボットから質問者に「商品の質問ですか、領収書の質問ですか、注文の仕方の質問ですか」と尋ねます。質問者はこのなかから尋ねたいことを選びます。質問が限定されてしまうわけです。
そして質問者が「領収書」を選択するとチャットボットは「発行ですか、再発行ですか、宛名変更ですか」と尋ね、質問者が「再発行」を選ぶと、再発行の手順が提示されます。
シナリオ型チャットボットでは、質問者は限られたことしか聞くことができず、回答文はいつも同じです。

価格差は縮まりつつある

AI型が高性能でシナリオ型が低性能なら、価格はAI型が高くシナリオ型が安いのか。
そのとおりなのですが、最近は価格差が縮まっています。
シナリオ型チャットボットの価格がAI型より安いのは、簡単なプログラムでつくることができるからです。プログラムのイメージとしては「ユーザーがこの質問を選んだらこの回答を表示する」といったもので済みます。
一方のAI型チャットボットは、高度なコンピュータ技術であるAIを使い、さらにデータや情報を使ってAIに学ばせる必要があります。
それでコスト高になるわけですが、AIの普及にともない高性能ながら以前より安い金額でAIを使えるようになりました。

自然な文章「人とチャットしているみたい」

AI型チャットボットにあってシナリオ型にないものは、回答文の自然さです。AI型チャットボットは質問者の質問内容を踏まえて回答をするので、質問者は人とチャットしているような感覚を味わうことができます。
これを可能にしているのがAI技術のうち自然言語処理(NLP)という技術です。AIは日本語や英語などの自然言語で書かれた質問文をそのまま理解し、自然言語で回答文をつくります。
一方のシナリオ型チャットボットは、シナリオとして入力された回答文を繰り返すだけです。そのため質問の文章を変えても、同じ回答が返ってきます。
さらにシナリオ型チャットボットが想定していない質問をすると「質問を理解できません。別の質問をしてください」と回答をギブアップします。

AI型を選ぶ5つの理由~メリットと可能性

企業にAI型チャットボットを推奨するのはメリットが多いからです。AI型を選んだほうがよい理由を5つ紹介します。

賢い買い物になるから

AI型チャットボットを選んだほうがよい最大の理由は、そのほうが賢い買い物になるからです。
高性能製品と低性能製品があるとき、あえて低性能製品を選ぶのは価格が安いときでしょう。したがって両者の価格が同じだったり、高性能製品のほうが安かったりしたら、低性能製品を選ぶ理由はなくなります。
では、高性能製品の価格が、低性能製品のそれより少し高いだけだったらいかがでしょうか。この場合も、高性能製品を買ったほうが賢い選択になるのではないでしょうか。

利用者にとって便利だから

チャットボットの利用者のことを考えるなら、企業はAI型を選んだほうがよいでしょう。
AI型チャットボットなら、質問者は頭に浮かんだ文章をそのまま入力して質問できます。フリーワード(自由な単語やフレーズ)で質問できることは快適で、調べ物をする作業のストレスがありません。

一方のシナリオ型チャットボットは、質問文が想定を逸脱するとすぐに「質問を理解できません。別の質問をしてください」と表示されるので、質問者は質問を工夫しなければならずストレスになります。限られたことしか尋ねることができない状態もストレスフルです。

さらに回答文でも、AI型は質問者の意図を汲んだ文章になるので読むストレスがありませんが、シナリオ型の回答文は定型文なので、尋ねていない内容が入っていたり、尋ねたことが入っていなかったりして不満が募ります。
シナリオ型チャットボットを使っていると、「またこと回答か。これ以外の回答を知りたいのだが」と感じることが増えてきます。
顧客満足度を高めたいのであればAI型の一択でしょう。

何でも答えられるようになるから

チャットボットに何でも答えてもらいたいと望むなら、AI型がよいでしょう。
AI型チャットボットは、これに与える情報が多くなるほど回答できる質問が増え、回答文の質も向上します。
例えば、ある企業が飲食事業と小売事業を行っていたとします。飲食の情報を与えればAI型チャットボットは飲食について回答できます。同じAI型チャットボットに小売の情報を与えれば、さらに小売についても回答できるようになります。
AIは学習する能力を持っているので情報を与えるだけで回答できる範囲が広がりますが、シナリオ型で回答の範囲を広げるには質問と回答のシナリオを増やしていかなければなりません。

顧客を理解するようになるから

チャットボットに、おすすめ商品・サービスを顧客に推奨する業務を行わせたいのであれば、AI型のほうがよいでしょう。
シナリオ型チャットボットでも例えば、商品Aについて質問されたら自動的に商品Bを推奨する、といったシナリオをつくることはできます。しかしそれは機械的に案内しているだけなので営業力は脆弱です。

AI型チャットボットなら顧客情報にアクセスさせる機能を持たせることができるので、質問した顧客の嗜好や購買履歴を踏まえたうえで、次に求める商品・サービスを予測して推奨できます。したがって顧客が「それが欲しかった」と感じる確率が高くなり売上増につなげやすくなります。
チャットボットに営業させたいのであればAI型の一択です。

従業員の仕事を効率化できるから

従業員の業務を効率化させたいのであればAI型のほうがよいでしょう。
企業は従業員向けサービスを向上させるためにチャットボットを使うことができます。例えば、企業が従業員用ネットワークのイントラネットにAI型チャットボットを設置すると、福利厚生や経費精算、年末調整などに関する質問に回答させたり、作業マニュアルや取り扱いマニュアルを提示させたりすることができます。
従業員はわからないことがあればすぐにAIチャットボットに尋ねることができるので、業務効率は格段に向上します。

シナリオ型を選ばない4つの理由~デメリットと限界

これからチャットボットを導入する企業にシナリオ型を推奨しない理由は4つあります。

利用者が使いづらいと感じるから

チャットボットの利用者に「使いづらい」と感じさせたくなければ、シナリオ型は選ばないほうがよいでしょう。
AI型が登場する前、シナリオ型チャットボットはとても便利でした。企業が持つ膨大な情報のなかから必要な情報を瞬時に抜き出す機能は画期的でした。
ところがAI型チャットボットの質問のしやすさと正確な回答を体験してしまうと、シナリオ型に使いにくさを感じてしまいます。
そして今、AI型チャットボットを使ったことがある消費者や顧客が増えているので、シナリオ型に使いづらさを感じる人はこれからまだまだ増えていきます。

たくさん仕事をさせたいから

チャットボットに多くの仕事を代行させたいのであれば、シナリオ型を選ばないほうがよいでしょう。
AI型と比べると、シナリオ型チャットボットはできる仕事が限られます。例えば、商品の概要と領収書の発行方法と注文方法を説明できるシナリオ型チャットボットは、それしかできません。
シナリオ型を導入した企業は、最初は「これくらいできればよい」と満足するでしょう。しかしあとからAI型の有能ぶりを知れば「最初からAI型にすればよかった」と後悔するはずです。

いちいちシナリオをつくりたくないから

いちいちシナリオをつくりたくないなら、シナリオ型は回避したほうがよいでしょう。
シナリオ型チャットボットに新しいことを回答させるには、いちいち質問と回答のシナリオをつくって登録しなければなりません。
例えば企業が新商品を発売したら、チャットボットはこの新商品について回答できなければなりませんが、それにはシナリオが必要になるわけです。
商品をマイナーチェンジしたときは、すぐに既存のシナリオを修正しないと、間違った回答を消費者に伝えてしまいます。

使われない業務システムにしたくないから

使われない業務システムにしたくないのであれば、シナリオ型ではないほうがよいでしょう。
すべての業務システムは、ユーザーが「便利でない」と感じると使用されなくなる運命にあります。シナリオ型チャットボットは回答できる範囲が限られているため、使い続けていると「このチャットボットはこの質問の答えを持っていない」ことが見透かされ利用が遠ざかります。
利用が減ると、わざわざシナリオを増やして回答範囲を広げようという意欲が失われ、その結果シナリオ型チャットボットはますます使われなくなります。
一方、AI型チャットボットは学習するにしたがって賢くなり自動的に回答の幅が広がります。利用者は「以前回答できなかった質問が、今回は回答できた」といった体験をするので使い続ける動機が生まれます。

AI型を導入して成功した事例

優れたAI型チャットボットは、ホテルのコンシェルジュのように消費者や顧客に尽くします。AI型チャットボットを導入してサービス向上を果たした事例を紹介します。

ハワイのことをなんでも教えてくれる

大手航空会社が導入したAI型チャットボットは、ハワイに関するあらゆる情報を提供してくれます。レストラン、アクティビティ、景勝地、土産物店、イベントなど、観光案内雑誌より詳しく教えてくれます。観光案内雑誌ではそこに書いてあることしかわかりませんが、AI型チャットボットは新情報を学習させることによって常に「今のハワイ」をユーザーに教えることができます。
このAI型チャットボットは学習によって、リピーターが多いイベントや、子供連れでも入れるレストラン、盛り上がるお祭りといった、地元のガイドしか持っていないような情報も提供できるようになりました。

ドラマの登場人物と会話できる

テレビ局が実験的に、ドラマの登場人物が質問に答えるAI型チャットボットを導入しました。AIにドラマの登場人物の言動や性格を学習させて、「その人がいいそうなこと」をいうAI型チャットボットをつくったのです。
質問者が「今日の予定は?」と質問すると、AI型チャットボットは「今日は住民会があるの」といったように、ドラマの内容に沿った回答をします。
これはAI型チャットボットをエンターテイメント・ツールにした事例といえます。

就活をサポートする

ある企業が就職活動をする学生をサポートするAI型チャットボットを導入しました。
AIにこの企業の採用選考のステップ、採用面接の概要、企業説明会の案内、会社概要、事業、職種、業務内容、給与体系、福利厚生などを学習させ、就活生がOBOG訪問で質問しそうなことに回答できるようにしました。
就活生は、社員には聞きづらいことでもチャットボットになら遠慮なく質問することができます。就活生はこの企業のことを早い段階で深く知ることができるので、雇用のミスマッチを予防できます。
また企業側は、就活生がどのような疑問を持ち、採用選考でどのようなことに不安を感じているのか、入社後に何を望んでいるのかといったことを把握できるようになりました。

「型」を選ぶときの考慮点や判断基準

ここまでAI型とシナリオ型を比較してきましたが、両者の中間的な存在に辞書型チャットボットがあります。
辞書型はAIは使っていないものの、プログラミングされている単語やフレーズを組み合わせて回答文をつくることができます。また、AI型ほど優れてはいないのですが、フリーワードで質問でき、質問者の意図をある程度汲んで回答できます。
企業がこれからチャットボットを導入するとき3つの型のどれを、何を考慮して、どのような基準で決めたらよいのでしょうか。

デモを体験して選ぶ

企業の担当者は、システム会社に依頼してさまざまなチャットボットのデモンストレーションを体験しましょう。AI型、辞書型、シナリオ型のそれぞれを使い込むことで便利さと限界がわかります。
「ここまでできるのか」や「ここまでの性能は要らないだろう」といった気づきが得られます。

料金を比較する

3つの型の費用対効果を比較しましょう。
性能と料金は原則比例していて、いずれも高いほうから「AI型>辞書型>シナリオ型」という順になっています。
デモで3つの型を体験し、3つの型の料金が判明すれば「多少高額になってもAI型が必要だ」「当社のニーズなら安価なシナリオ型で十分だろう」といった合理的な選択できます。

料金の比較では、AI型チャットボットが「それほど高額ではない」という点も確認してみてください。3つの型の見積もりを取ったところAI型が最も高額だったとしても、料金の差が大きくなければAI型を選んだほうがよいでしょう。

将来の拡張のことを考える

AI型は拡張でき、非AI型(辞書型とシナリオ型)は拡張できない、という違いがあります。
AI型チャットボットなら例えば顧客管理システムと結合することで、顧客管理システムの顧客情報を使ってAI型チャットボットを運用することができます。このような拡張はAIだからできることです。
拡張は、今は必要なくても将来的に必要になることがあります。これはチャットボットに限ったことではないのですが、業務システムは拡張を視野に入れて選んだほうがよいでしょう。

まとめに代えて~AI型はまだまだ進化する

チャットボットの導入を検討している企業のなかには、現在あるニーズに応えるだけならシナリオ型や辞書型でも十分というところもあるでしょう。またAI型に対して「大袈裟すぎる」「最先端すぎる」と感じるかもしれません。
しかしAI型と非AI型の両方を体験すれば、能力、便利さ、回答の正確さが格段に異なることがわかるはずです。もし予算がネックとなってシナリオ型や辞書型を選ぼうとしていたら、多少無理してでもAI型を選んだほうがよいと思い直すでしょう。
AI型チャットボットは拡張性が高いので、導入後もさらに発展させることができます。
AIはこれからまだまだ進化していくコンピュータ領域なので、AI型チャットボットに任せられる仕事はまだまだ増やしていけるでしょう。
将来のことを考えるならAI型チャットボットは「買い」です。

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