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ドストエフスキーの親

この間見てた『俺の家の話』っていうドラマに登場する家族の構成がドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』と同じだという話を聞きまして、そういえば今年読もうと買っておいた本の中にあるな・・と、読んでみました。

確かに、父+三兄弟+婚外子という構図は一緒です。母は若くして亡くなっていて、父と兄が狙う貧しい出生の若い女性が出てくるのも一緒ではありますが、それ以外の壮絶さが全然違うので、この本とあのドラマを似たようなものとして考えるのはちょっと無理があるかもな・・と思いました。

特に壮絶というか、そこまで!?どんだけ??と思わされたのが、父親の劣悪さです。狡猾で下品で面の皮だけ厚く、金にがめつく、お酒と女に徹底的にだらしなく、子どもは虐待するという、反倫理的存在の父親。そんな父親います?私の父もたいがいだったけど、ここまで人間のクズではなかったし、こんな父親はそうそう存在しないのでは・・と、読み進めるば進めるほど共感しにくくなってきました。ちょっとネタバレですが、婚外子とされている息子は、知的障害のある女性をゲーム感覚で犯して生まれた子と書いてあって、そんな描写必要・・?と吐き気がしてくるほど。

この本自体が闇なんですよ。なんの闇を見せられているのかと思いました。

でも私は巻末の解説を読んで分かりました。この父親はドストエフスキーの父親そのものだったのだと。

解説によると、貧しい地域の医者から土地持ちの貴族に成りあがった人らしく、一応領地も農奴も所有していたんだそうです。癇癪持ちの父に虐げられ続け、母は若くして逝去。アル中で、農奴に対しても暴君で残忍な仕打ちをしまくり、百姓の中から14歳くらいのきれいな娘を家に連れ込んでは次々に手を付けるという、クズ中のクズだったらしく、最終的には怒りをつのらせた百姓たちに領地内で惨殺されたんだそうです。ドストエフスキーが18歳の時です。

自分の父親がこれだけ酷い人物で、18歳のときに殺されているとは。しかし『カラマーゾフの兄弟』を読むと、この体験なくしてこの闇は書けないと思わせられます。

私はドストエフスキーの父は医者だというのだけは知っていました。だから、昔の偉人あるあるで、なんだかんだいいところのお坊ちゃんだったんだろうな、くらいに思っていました。しかしこれは・・、一応医者ではあれど、その後なりふりかまわず貴族になったということは、立派な倫理観から医者をやっていた親じゃなさそうだし、イメージと全然違いました。こんな毒親とは。元祖(かどうか知りませんが)アダルトチルドレン作家ではないですか。

しかもこの本はたくさんあるドストエフスキーの最後の本です。最後、死ぬ時まで、やっぱり親に対する闇がずっとあったんでしょうね。

あまりの闇を見せつけられてしまって、読み終わった後はしばらくどーんと沈んでいました。一応、希望的なことも書いておきますと、三兄弟の末っ子は天使みたいな子です。それに、登場する子どもたちは、それぞれ本当に賢く、優しく、闇に対する光のようなものとして描写されているような気がしました。

ドストエフスキー自身がひどい人だという話は聞いたことがないので、親がひどくても、子どもはきちんと倫理観ある成長をとげたのでしょうね。そこが一番すごいところかもしれません。親になる前は、偉人の人となりだけしか興味ありませんでしたが、親になってからは、偉人の親がどんな人だったのかを知りたくなり、色々と考えさせられます。


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