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短編小説【あの場所は今頃】

あくまでもこれは僕の体験談だ。
夢かもしれない。
どこにあるかも分からない。
ただ分かっているのは、確実に僕がそこに居たということ。

そこには、僕らみたいな人間と、おかしな怪物がいた。
人間は、みんな目の色が違ったり、髪の色も違った。多様性だなーって思った。

でも、違った。人間が中心に動いていなかった。

怪物がいたんだ。
怪物は、人間をペットショップみたいな所に閉じ込めて売ったりしていた。
最近みたいに、ガラスばりじゃない。
映画に出てきそうな、悪い奴らが居そうな町のショップだ。僕には表現の仕方が分からない。
とにかく、ペットみたいな扱いだった。
しかも、戦わせていた。人間同士で。楽しんでた。だけど僕の飼い主は優しかった。
他はとにかく、動物みたいな、家畜みたいな扱い。

僕は、そこに居た時の記憶を今になって考え、物語を作った。
その時は、だいたい11歳くらいだった。
言い忘れていたけど、名前はナイトって言う。
凄いキラキラネームだ。お母さんが若いから。

じゃあ、物語を読んで、この話を信じて欲しい。

ある日、いつものように目が覚めた。
月曜日の朝、1階へ降りて朝ごはんを食べる日常。
その時は少し違和感を覚えた。
回りの様子が違う。
壁にかけられていたはずの野球選手のポスターが、ビールみたいな絵があるボロボロのポスターになっていた。
仰向けになると見える電気はランプになっている。
そして着替えが掛けてある所には、怪物がいた。
ワニみたいな見た目で、だけど二足歩行だった。
カウボーイが着ていそうな服を来て、銃が腰に刺さっていた。
意識がきちんとしてきて、周りを見渡すと、古い建物の中にいるようだった。
木で出来た檻の中にいた。ちょうどベットくらいの大きさで、僕はそこに寝転がっていた。
ばっと起き上がって、檻を両手で掴んだ。
「お母さん!ここはどこ?誰あいつ!」
僕は右手を檻の隙間から出して、優雅に座っている怪物に指を指した。
「おぉ。この『ニンゲン』喋るのか。」
怪物はガラガラとした声で言った。
僕の推測だけど、恐らく男だろう。いや、雄と言った方がいいのか?
「まあまあ落ち着けニンゲン。きっと君は、宇宙から来ただろう?」
宇宙?質問の幅が広すぎないか?
でもまあ回答にはなるので、こくっとうなずいた。
「そうか。宇宙のニンゲンを連れてきたのか。業者さんよ、ありがとな〜。」
大あくびをしながら、ふらっと言った。
「いえいえ。宇宙は極めて簡単ですよ。流宙みたいに時空が流れているとこに比べりゃ、無重力でふんわりですんで。しかもたったの35億年で付いてしまうのですよ。あぁ、あと、寿命が80年と決めておりますので。全くニンゲンったら、自分たちの寿命を縮めるようなことをして…」
僕がいた所からでは分からなかったけど、きっと怪物の声だろう。
「ありがとありがと。」
そう言って怪物は、強引に業者を外に出した。
僕は分からないことで頭がいっぱいだった。
「ついにニンゲンが来たか〜。名前でも付けて、喋れるらしいし、説明でもするか。」
怪物はここまで近寄って来た。
そして水の匂いを漂わせながら、人差し指を向けてきた。
「お前さん、分からないことたっくさんだろ。そら、喋るもんな。耳もあるし。」
見た目は怖くても、もしかして優しい…かも。
「ここではつい最近、ニンゲンって言うのを連れて来て、飼ったり食ったりするのが流行って来たんだ。その専用業者もいる。そして、俺のペットとして色んな『宙』から連れてこられた『ニンゲン』が、お前だ。黒い目で…黒髪…1番頭が良い種族だな。」
「は、はぁ?」
「名前は…何がいいか?」
「元々あるし!!元々……ナイト。」
「いい名前だ。かっけえな。今日からは俺のことはガウルさんと呼べ。ガウルでもいい。硬いのは嫌いだ。楽しもうじゃないか。」
結構優しそうだ。
「じゃあ…よろしく!」
「よろしくな。ナイト。」

そんなこんなで、家族のように、一緒にバーに行ったり、買い物に行ったり。
ペットみたいな扱いじゃなくて良かった。家族のように暮らしている。
ある日、怪物の店で買い物をしていると、2人の怪物が話掛けて来た。
「よお!ガウル!久しぶり!それはニンゲンか?名前は?」
今気づいたが、怪物はそれぞれ色が違う。ガウルさんは青だ。
話しかけてきたのは、赤色だった。
「おお!ランル!こいつ、頭良い奴だぞぉ…」
ガウルさんがこっそり言った。
「いいなぁ。僕も欲しいなぁ。金持ちいいなぁ。」
話しかけてきたもう1人の怪物は、朱色でたれ目の怪物だった。
「ウルじゃぁないか!久しぶり!」
「久しぶりぃ。」
怪物たちの会話を耳にしながら、僕はこっそりその輪から抜け出した。
「気になる本があったんだよね」
申し訳ないけど、僕は本のコーナーに行った。
欲しかったのは、
「地球体験記」
だった。
これで何かわかるかもしれない。
ただ、これはあくまでもガウルさんが教えてくれなかった時のために知識となるよう、買っておこう。
僕は、ポケットの中にある硬貨を取り出した。
これはガウルさんがお小遣いとしてくれたものだ。
「こ、これください…」
「まいど。」
顔を帽子で隠し、肌も見えない店員が対応した。
人見知りな僕にとって、顔が見えないのは好都合だった。

僕は店を出たところの近くのベンチに座って、本を鞄から出した。
普通の小説ほどの大きさだが、重さはそれを裏切るようにずっしりとしていた。
僕は唾をゴクリとのんだ。
僕でも分かる。
中にあるのは紙では無いこと。
小さなブラックホールや太陽が入っていそうなこと。
緊張しながらも、
ゆっくりと表紙をめくる。
目次がでてきた。
そして1ページとめくる事に、次には何が書いてあるかが気になって、めくるのに5秒ほどかかった。
目次の後からは、ここの世界の説明、「宙」の説明、そして次のページでは、ぽっかりと穴が空いていた。そして真ん中に地球があった。
反対側では普通の紙だったのに、ここのページだけ小さな地球のようなものが、穴に浮かんでいた。
野球ボールくらいで、ツルツルとした表面。
それを僕は半信半疑で手に取った。
それは、僕の手に吸い付いたように、ピッタリと握れた。
安全なものだと確認して、僕は遊び半分で、僕が住む日本を探した。
「…………………帰りたい………」


ガウルさんの買い物が終わり、ガウルさんはここにやって来た。
「おお。お前が住んでた地球の本か。」
ニッコリと微笑みかけて来たので、こちらも強引に笑顔を作った。

家に着いて、僕はいつものように自分の部屋に行った。
自分の部屋と言っても、本格的な部屋ではなく、屋根裏のようなベット1つくらいしか入らない所だ。梯子で上り、そこに寝転がって、下で寝ているガウルさんに声をかけた。
「ねぇ、ガウルさん…」
「なんだぁ?」
夕方、ここの怪物たちは眠りにつく。
夜では無い。
ここの怪物たちはすぐに寝て、朝遅くに起きる。だが恐らくガウルさんは、人間が夜に寝るのを知ってるいて、僕に作り置きのご飯を置いておいてくれるのだろう。
「やっぱりなんでもない。」
「そうか。じゃあおやすみ。」
そう言って眠りについたのを確認すると、僕は本を開き、ペラペラとめくりながら、地球のボールがあるページを探す。
「あった…」
昼買った時は分からなかったけど、地球の所に説明文が書いてある。
「えぇッと…」
僕は文字を指でなぞりながら小声で読み上げた。
「この地球のどこかに付属の針を当てると…そこにテレポートします。行くと地球のボールは無くなりますが、付属の針に腕を当ててください。そしたら帰れます。万が一無くした場合、1年に1度業者が来ますので、その船に乗って帰ってください。一生地球に住んでも構いません。」
僕は嬉しさと理解不能な気持ちで、えっ!と声を上げてしまった。
「これで地球に帰れる……!」
僕は梯子を降り、窓際の花瓶の横にあるペン入れからペンをとり出し、リビングの机に常に置いてある古臭いカレンダーを少しちぎった。
「置き手紙を…」
置き手紙を書こうとした手が止まった。
今まで少ししかガウルさんと暮らしていないのに、何故か悲しく感じた。
僕の頬を一筋の涙が撫でた。

「僕は…」

ここで一生暮らすか、地球に戻るか。
今地球では何年かも分からない。
もしかしたら人類が滅びているかもしれないし、ずっと過去のことかもしれない。

「でも…ここにいると僕は…っ!」

そう言って汚い字で置き手紙を書き、外に飛び出した。

「なるべくっ!なるべくガウルさんが悲しまないようにっ!遠くで…」

走っていた僕の手を後ろから誰かに掴まれた。
「誰だ…?」
恐怖のあまり震えて絞り出した声は、夕方の村に響いた。
「君も知っているはずだ。今日、本を買ったときの店員だ。」
その言葉は、僕を納得させた。単純に自己紹介のようだが、心に響いた。
あぁ、これは僕と同じ人だ。僕だ。
「僕の名前はナイトだ。未来のお前だ。」
僕は僕の体が震えているのがわかった。
「地球に戻れ。今、地球はいつも通り時が流れている。お前の親は急にいなくなったお前を心配している。早く行け。」
「未来の僕は…?」
そう聞いても行けとしか言わない。
「わかった。帰るよ…」

僕は地球…日本の東京に針を刺す



声が響いた。
「ナイト…っ!ナイト…良かった…こんなところに…」
僕は道路の脇のツツジが生えているところで倒れていた。右手には、1本の針を持っていた。
左手には、何かあるようで何も無い感触を持っていた。
「おか…あさん?」
「そうだよっ……」
僕は家で、普通の日常を送り始めた。

19歳の誕生日。
夕方、半分星空に埋まる都会を見下ろしながら、自分の部屋に行った。
ガラスのケースに入った1本の針。
僕はすぅっ、と息を吸う。
「たまには行ってみたくなる。一生あそこで暮らしたくなる。あぁ、あの時僕に話しかけたのは、今の僕なのか…。どうやってあの時に行けるのか?」
僕はクマだらけの顔を上に上げながら、針を腕に刺す。
ズポんっ
チクッとはしなかった。
腕が液体のように、泥のようになった。
僕の周りは時計で埋め尽くされた。


「まいど。」
僕はいつの間にか、本を買う少年に対応する店員になっていた。
「ほほう…そういうことか。」
過去の僕を影で見守りながら、僕はするべきことを頭にリストした。
夕方、僕を地球に帰るよう言う。
…………………
それだけでは無い。
今のガウルさんに逢いに行く。
遠くにいて、場所すら分からなかったガウルさんの場所。
実家のような安心感のある村。
昔と同じく、頬を一筋の涙が撫でる。

「君も知っているはずだ。今日、本を買った時の店員だ。」
夕方、あの場所で僕の腕を掴みながら、強く言った。
「僕の名前はナイトだ。未来のお前だ。」
僕は体を震わせた。
「地球に戻れ。今、地球はいつも通り時が流れている。お前の親は急にいなくなったお前を心配している。早く行け。」
僕はキラキラと小さな星となっていった。
天へ登る一筋の光が、夜の真っ暗な村の灯火だった。

「ガウルさん。」
僕はうろ覚えの記憶を頼りにある1件の家に入った。
「ガウルさんっ!」
僕はフードと帽子、手袋を外し、走ってガウルさんがいるところに行った。
「おおっ?ナイト?」
ぱっちりと目覚めてしまったガウルさんは、僕の方を見た。
「誰だ?……ナイト………か。」
「そうだよっ!未来から来たっ!」
ガウルさんの手を握って、僕は泣きながら言った。
「実は、子供の僕は地球に帰ったんだっ!帰るために買った本が売ってた場所の店員は僕なんだっ!」
僕の背中が、透明感のある感触へと変わっていく。
「そろそろ消えちゃうかもだけど、忘れないでっ!」
きっと僕は小さな星になって、地球へ帰るのだろう。

「分かった。これで最後だ。お別れだ。よく分からないが、感動シーンなんだろ?精一杯思い出して泣きじゃくれ。俺はお前のことは忘れねーからな!」

「っ、うん!」

「ナイト。俺は……」


僕は天を伝う一筋の光となって、出発する前の場所に戻った。
僕は泣いていなかった。
ただ、手にガウルさんの感触が残っていた。
最後に言い残した、ガウルさんの言葉。
あれはきっと、僕にしか聞こえなかった。

「ナイト。俺は……」

「もっと先のお前なんだがな。」

ガウルさんは、ニタァっと笑いながら言っていた。

そして今、永遠の寿命を手に入れる方法を開発し、人間を辞め、その方法でガウルと言う名前で、ここの星で生きている。『ニンゲン』は、過去の自分を連れてきて、思い出す行事だ。
やっぱり快適になった。

もちろん、あのころの僕も一緒に。

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