📕小説（ショート）【パラレルワールド】
世代が違う。
でも好きだった。
ファン？
フリークス？
マニア？
推し？
そんな「好き」だった。
決して交錯することはない一方的な好き。
恐らく彼は気づいていた。
交錯させたのは彼の方。
私にとっては思いもかけない僥倖。
利用されたとは思わない。
それほど打ちひしがれていたから。
それほど純粋な人だったから。
重なる筈のない世界が重なる奇跡。
それだけで充分だったから。
ましてやそれが彼の望みならば。
画面の向こうのスターに焦がれることなど、よくあるお話。
アニメのアイドルに恋することなど、よくあるお話。
彼は私とは違う世界の人。
本来なら交錯しない人。
なのにその人の体が私の隣に在る。
確かに実体を持って触れることができる距離。
違う世代の人なのに。
違う世界の人なのに。
初めから好きだったのに、どうしてなんだろう。
「好きになった」
と気づいてしまった。
「あ、この瞬間に好きになった」
とわかってしまった。
彼にも気づかせてしまった。
困惑しただろうか。
迷惑だと感じただろうか。
少しくらいは
「悪くはない」
と思っただろうか。
幸福に似た幸せ。
歓喜に似た喜び。
恋愛のような勘違い。
充実のような紛い物。
夢のような、本当にただの夢。
私の想いに行き着く先がないことは、初めから解っていた。
彼の想いの先に私がいないことも、初めから解っていた。
それでもふたりの会話が愛おしくて、ふたりの時間が愛おしくて、楽しくて、待ち遠しくて堪らなかった。
それだけで良かった、本当に。
良かったの、本当に？
決して望んではいなかったし寧ろ恐れていた。
望まない予想ほどよく当たる。
状況が変わってしまった。
大きく変わってしまった。
言わば起承転結の「転」。
彼にとっては、必ずしも悪い変化ではなかった。
と、思う、多分……
私の気持ちは、見事に転がり落ちた。
急転直下の「転」。
「また連絡するよ!」
彼からLINEが来た私は、一体どうすればいいの？
連絡が来るまで、ただ待てばいいの？
待っていれば連絡がくるの？
何を信じればいいの？
これは社交辞令なの？
単なるリップサービスなの？
「そちらからは連絡してこないでよ」
もしかして、そういう牽制の意味なの？
私の考え過ぎなの？
そうであれば、どれほどの救いであることか。
手出しを阻む残酷な時間。
忘れているふりを続けるしかない日常。
心の中には、うねりを抱えていると言うのに。
朝のLINEがなくなった、車中からの電話がなくなった、おやすみを言われなくなった。
1日の流れは、こんなにも遅かっただろうか。
なのに過ぎていく日々は、こんなにも速かっただろうか。
「あのLINEから、もう○○日も経ってしまった」
と、つい数えてしまう。
ふたりの時間とふたりの世界が交錯する前の私に戻ればいいだけ。
そんなことは解っている。
そうしようと抗っている。
元から違う世代の人。
元から違う世界を生きる人。
ふたりが交錯する方が奇跡だっただけ。
ただ、それだけのこと。
1日に何度も見てしまうiPhoneの画面。
「また連絡するよ!」
の「また」っていつなのよ？
「連絡」って何の連絡よ？
「!」って調子が良過ぎない？
お預けされて生殺しの生き地獄。
いっそのこと
「元気にしてる？」
とLINEしてみようか。
「もう顔も忘れちゃったでしょう」
なんて送ってみようか。
もしかしたら仕事が忙し過ぎるだけかもしれない。
もしかしたら体調が悪いのかもしれない。
もしかしたらまた、打ちひしがれているのかもしれない。
それならもう一度、私を利用してほしいのに。
「また連絡するよ!」
一縷の望みと拒絶かもしれない残酷な想像。
天秤はどちらにも傾かない。
不穏な均衡。
音沙汰のないリアルな時間だけが、今日もまた過ぎていく。
チクタクチクタク……
あのとき、私の気持ちは確かに始まった。
彼の気持ちは、ほんの少しでも動いただろうか。
ふたりの関係が変わる可能性はあっただろうか。
何も始まっていないのなら、私には失うものなど何もない。
恋愛でなかったのだとしたら、失恋ですらない。
一体いつまで
「また連絡するよ!」
に、囚われ続けなければならないのだろうか。
答えのない問いかけだけが、途方に暮れている。
※創作です
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