新宿二丁目という不思議な街

新宿二丁目でお酒を飲むのが好きだ。
見た目も性別も様々な人間がいて、雑多となって飲む感じ。
誰も他人のことを気にしない。
というか私のことを気にしない。

いくら私が酔っていようが、音痴な美声を大声で披露しようが絡んでくる人がいないし、批判する人もいない。
ゲイバーにしか行かないので店員も客も私に性的な関心が一ミリもなく、気兼ねなく友達どバカみたいに過ごせる時間が心地良い。

私は酔った勢いで絡んでくる下心を持った異性と、外で声をかけてくる下心を持った異性が怖くて仕方ないので、普段から全力で無視を決め込んでいる。
まるで音楽を爆音で聴いているのかのように相手の存在を無いものとするのだ。
もちろんイヤフォンなんか耳に装着していない。
ドヤ顔で聞こえない芝居をするのは特技である。

まだ回避する術がなかった若かりし私はストーカーのようにしつこく追いかけてくる人や、否応なく友人と楽しく過ごせたはずの時間を搾取する頭のおかしい人に被害を被ってきた。
このような人たちは何をするかわからない。
相手のペースに飲まれれば飲まれるほと命の危険も考えられる。

過去の経験から複数人でお酒を長時間に渡って楽しく飲む時は場所を選ぶのだが、二丁目は回避できる場所として打ってつけで重宝している。

というのは建前で、シンプルに人前で歌うのが大好きなのである。

しかし先日、摩訶不思議なグループと居合わせた。
男女が二人ずつの四人組で、
30代後半の綺麗な女性と、その彼女より二回りくらい年上の港区に住んでいそうなイケイケ男性。
そして40代くらいの眼鏡をかけた男性と、一回りくらい年上の女性。

傍から見ると歳の離れたカップル2組のグループに見える。
なぜなら港区イケおじ風の男性は二回りは年下の彼女を背中から抱きしめ、頭にキスを繰り返している。
眼鏡の男性と、もう一人の女性は肩を寄せて話仕込み、まるで二人きりの世界にいるよう。

二丁目にしては珍しく普通のカップルがいるなと思いながら友人と飲んでいたが、
寿司詰めのような店内なので、自然と近くにいる人と会話をする。

そこで綺麗なお姉さんと、その背中にぴったりとくっつく港区風おじ様から衝撃な自己紹介を受けた。
「私のお父さんなの。カップルみたいに見えるよね?眼鏡の人が私の旦那。」

???????

私も友人も皆はてなマークが頭に浮かぶ。

日本語は難しい。
私が知らないだけでお父さんにも色んな意味があるのかもしれない。

紹介された旦那という男性はこちらに見向きもせず、隣の女性と話し込んだままである。
見かねたお姉さんが旦那に話しかけるが、ガン無視である。

酔っ払っているであろう『お父さん』は、娘の視線を私たちから外し、娘の顔を両手で包み込んで、おでこにキスを繰り返している。

これはカオスだ。
混沌としている。
関わってはいけない気がする知らない世界だ。

私たちは愛想笑いもそこそこに何とか自分たちの空間を守り、彼女たちが帰るまで事を荒立てる事なく静かに歌い続けた。

そして私の友人から更に混乱する一言が足される。

あの旦那って言ってた眼鏡の人、隣にいた女性と何回もキスしてたよ。

???????

カオスだ。

二丁目には解釈の難しい世界が沢山潜んでいて刺激が絶えない。


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