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計算生命科学の金メダル

オリンピックでは金メダルラッシュに沸く今日この頃ですが、最強囲碁AI「AlphaGo」を開発したDeepMind社から、それどころじゃない論文が発表されていました。

参考記事

■すべてはタンパク質からできている
みなさんタンパク質って知ってますか?タンパク質の研究をしていると言うと、たいてい栄養素としてのタンパク質の話になりますが、酵素やウイルスや抗体やの話にはなりません。でも、これらは皆、タンパク質からできています。女子の大好きなコラーゲンもタンパク質です。つまり、大事なもの。いろんな病気や、老化などの生命の仕組みに関係しています。

酵素ウイルス抗体

■遺伝子暗号とタンパク質のカタチ
よく遺伝子(DNA)は設計図、タンパク質は部品に例えられますが、その設計図がえらく難解な「暗号」のような設計図で、人間が見てもどんな部品ができるのか、さっぱりわかりませんでした。一応、遺伝子が手に入れば、細胞の中でタンパク質を合成でき、できたものを結晶解析等でカタチを調べる事はできるのですが、とても時間(場合によっては年単位)とお金がかかる作業でした。

遺伝子とタンパク質

なので、ヒトゲノム計画で「全遺伝子の99%の配列が99.99%の正確さで解明された」と言っても、設計図があるだけで、どんなカタチの部品かが分かった訳ではありませんでした。設計図は大量に入手できたのに、暗号で書かれている為、その解読方法がわからなかったのです。

■AIが遺伝子の暗号を解読
そこで、AIの出番。最強囲碁AI 「AlphaGo」を開発したDeepMind社が、遺伝子からタンパク質のカタチを予測するAI「AlphaFold」を開発したのです。いわば、遺伝子暗号からタンパク質構造への「翻訳機」です。
(技術的な解説は今後Qiitaに投稿予定。→書きました。https://qiita.com/chanfuku18/items/5460f1aed5a698966eb2)

ちなみに、これまでもアカデミックの世界で何十年という年月をかけて
この予測にトライしてきたのですが、DeepMindはものの数年で、
アカデミック全体を抜き去ってしまった。どれぐらい抜き去ったかというと…。

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予測コンテストの成績のグラフです。一番左のがDeepMindです。ちょっとヤバイやつみたいな感じですね。

■これからおきる事
このAIを活用すれば、設計図は分かっていても、どんなカタチか分かっていなかった部品のカタチがわかるので、生命の仕組みもより深く分かるようになります。実際、DeepMind社自ら、今回、人間の全てのタンパク質のカタチを予測して発表しています。

そして、期待されている応用の1つが薬です。現在、コロナウイルス対策としてワクチンのみならず、薬も盛んにに研究されていますが、昨年、小さなタンパク質で、マウスの実験でコロナウイルスの感染を抑えるものができたという論文が発表されました。抗体より小さいサイズなので、製造コストも抑えられ、デリバリーも容易という事で、新しいタイプの薬の可能性を示しています。

現在でもこのようなタンパク質デザインという手法で、薬となるタンパク質の開発が進みつつありますが、今回の様なAIを活用する事で、より早く低コストで開発が進むことになるでしょう。

また、タンパク質デザインの応用は、薬だけではありません。ラン藻の中にはバイオエネルギーを生産する種があり、中のタンパク質を改良する事で生産効率が上がるという研究があります。そういった事にも今回のAIが生かされるかも知れません。

■わたしのこと
ちなみに、わたしは、一気に抜き去られたアカデミック側で全く同じテーマの研究をやっていた人間です。

一方で会社員もやっており、その昔は、ロッテ「Fit's」や明光義塾「やればできる子YDK/サボロー」のCMを制作したコピーライターでした。昨年末に広告会社を退社し、よりアカデミックに近く、より経営に近い場所で活動したいと思っています。

■各論文へのリンク

AlphaFold2

人間の全タンパク質の構造予測

コロナウイルス阻害ミニタンパク質







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