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同じ地獄で生き抜くために VIVALAROCK2024 5/4の感想

・午前10時、さいたま新都心には夏休みのような暑さと人の群れが広がっていた。

今回のビバラ参加を決めた理由はただ1つ。
星野源をフェスで観たいから。
2月のオードリーANN東京ドームで少しだけあのスターを体感することができたが、今の星野源が久々のフェスでどんなパフォーマンスを見せるのか気になって仕方がなかった。

さいたまスーパーアリーナの前に並ぶ物販も、星野源のものはとっくに完売していた。
どうせ売れるんだからもっと用意しといてよ〜

・物販を諦め、アリーナに足を踏み入れる。
大きい会場に入った瞬間のあの感動は何回味わってもたまらない。
薄暗さと少し湿った空気感が、イッツアスモールワールドを想起させた。

アリーナを見回したあたりでimaseの出番が始まった。
始まりますよ、とBGMがストップして会場が真っ暗になるあの感じも大好きだ。草津の湯もみも何故かこの始まり方だった。

imaseをはじめ、ラインナップ前半のアーティストは語弊を恐れず言うと「若者の音楽」というイメージのものが多かった。「TikTok世代の」とも言えるだろうか。
そのあたりのアーティストは正直あまりハマれておらず、自分の老いを感じる時間が多かった。
シワのないプルプルの感性を持った時期に聴いていた音楽を超えることはできないのかもしれない。

・若いバンドが続く中、明らかに異質なバンドの出番が始まった。
キャリア約20年の大ベテラン、ペトロールズだ。

星野源のバーター感は拭えないものの、なかなかメジャーなフェスではお目にかかれない大物にワクワクが止まらなかった。

しっとりゆったり、他の出演者とは明らかに一線を画する雰囲気で展開していくステージ。
アリーナに涼しい風が吹き抜けるような感覚があった。

近くで観ていた誰かが「長岡亮介って実在してたんだ」と呟いていた。確かにと思った。
どこまでも飄々とした風貌、さらっと繰り出すユーモア、何から何まで憧れの存在だ。
もちろんギターも凄まじくて、何度も鳥肌が立った。
背後に強いライトを浴びながら颯爽とギターを弾くその姿は芸術作品のようだった。

・続くTHE ORAL CIGARETTS、SUPER BEAVERは安定のパフォーマンスだった。
いわゆる邦ロックの現役トップを走る2組の客席はともにパンパンだ。
楽曲ももちろん素晴らしいが、何よりMCで観客を味方に付けていく力が凄まじい。
山中拓也、渋谷龍太のカリスマ性が会場を1つにしていて、若手バンドとの圧倒的な差を感じた。

・星野源の前の前、indigo la endの出番の頃にはすでにアリーナ前方はギチギチだった。
indigo⇨vaundy⇨星野源を続けて前の方で観ようという魂胆は皆同じだ。

川谷絵音もVaundyも「源さん」というワードを何度も発していた。
後に控えるスーパースターへの憧れとリスペクトが溢れ出ているようだった。
刻一刻、その時が迫る。

・バンドメンバーが登場し、リハで『Down Town』を弾いていた。それだけで客席は大盛り上がりだ。
さっき観たペトロールズのメンバーがまた弾いていて不思議な感覚だった。

この日最後のBGMストップ+暗転、会場がどよめく。
『桜の森』のイントロが始まり、ギターを携えた星野源が現れた。
目の前で星野源バンドが演奏している。それだけでチケット代の元をとれたようなものだ。

続いて聴き慣れたノイズで『SUN』が始まった。
何度も何度も何度も聴いたディスコミュージックに鳥肌が止まらなかった。

その後は『Pop Virus』『喜劇』『Ain’t Nobody Know』とゆったりした曲が続いた。
このまま“聴かせるタイプの楽曲”が続くのかと思いきや、アルバム「LIGHTHOUSE」の中で私の一番好きな『仲間はずれ』が繰り出された。
たった2分弱の中で希望と絶望が力強く歌われるこの曲は一生ライブで聴くことはできないと思っていたからとても嬉しい。

「久しぶりの曲を2曲続けてやろうと思います」と告げ、『ドラえもん』が始まった。
直球なタイトル、歌詞にふんだんに盛り込まれるドラえもん要素、挟み込まれる「ぼくドラえもん」のメロディー、その全てが星野源のクリエイティビティを体現しているようで大好きな曲だ。
ライブ映像で観たことのある“スネ夫のBGMを入れた間奏”も生で観られてめちゃくちゃ嬉しい。

続けざまに『恋』。これは死人が出るレベル。
目に焼きついているあの黄色に会場が包まれる。
ゆったりオシャレにやるかと思わせておいてのドラえもん⇨恋はもう反則だ。
本物の恋ダンスも見られた。もうダメです。

死にかけの中『Hello Song』で手を振り合い本編終了。
メンバーが捌けるとすぐにアンコールがアリーナに響く。

ものの数分で舞台上に戻ってきた星野源はゆっくりとこう話した。
「世の中地獄じゃないですか。
戦争は終わらないし、花粉は辛いし、円安だし。
そんな地獄で、楽しいことを1つ1つ捻り出しながらみんな生きてるんですよ。
地獄みたいな日々だけど、今だけは楽しみましょう」

日々の生活、周りの環境、世界の現状、そのどれもが地獄ばっかりだ。
そんな地獄から抜け出すことは絶対に不可能で、地獄の中で楽しみをどうにか手繰り寄せることで日々生きることができている。
最後に披露された『地獄でなぜ悪い』はとても力強く、めちゃくちゃにハチャメチャで最高に楽しかった。

この時間が終わればまた地獄がやってくる。
そんな中でも楽しみや喜びを見出すことの大切さを星野源が目の前で教えてくれた。

たった1時間のステージ、星野源が去り明るくなったアリーナの人々はみな放心状態だった。
あまりにもスター、あまりにもロックだった。

家に帰り、『地獄でなぜ悪い』の歌詞を読み返す。
「同じ地獄で待つ」の一文が持つ力の凄まじさを改めて感じた。
どう足掻いても行き着く先は地獄、そう思うとどこか気持ちが軽くなる。
その道の中で喜びを求めて、私たちはこうして生の音楽を浴びに行く。
同じ地獄を生き抜くために、私には音楽が絶対必要だ。改めてそう思わせられる貴重な経験だった。

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