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ChatGPTの通用しない世界〜産後1ヶ月振り返り

快晴の5月某日。広島にゼレンスキーが到着するより少し前、我が子は爆誕した。

私と夫もそれまでの生活から一変、育児という異世界に無防備なまま突入。妊娠中から情報収集をし、心構えをしていたつもりだったが、事件は現場で起こるもの。
初めての育児は、未知の宇宙空間に緊急ワープしたような衝撃とともに始まった。

当たり前だが、子の意思表示はすべて「泣き」。何があっても、泣くのだ。

今は冷静に「当然だろ赤ちゃんなんだから」とツッコめるが、最初はそれすら驚きだった。

授乳してオムツを変えても、ぎゃーっと泣く。なぜかわからず、抱き上げたら「ブフォッ」と大きなおならをする。
そこで「なるほど、おならがしたくて泣いてたのね!」とわかる。
(しかもたった3キロ弱の体で、大人顔負けの音を放つ!)

そして、これも至極当然なのだが、自分の思うままに時間や行動をコントロールできない。
「トイレに行きたい」「ごはんを食べたい」と、「思ったときにすぐできない」。
そんなことも当初はいちいち驚くばかりだった。

そうこうするうち、2ヶ月弱が過ぎた。
私と夫を乗せた宇宙船育児号は、慣れない重力にガタガタしながらも無事に新世界に軟着陸し、有り余るパワーを持つ生命体との生活も身に馴染んできた。

そのエネルギーと、比類なき可愛さと、昨日できなかったことを今日やってのける成長速度に感激し、ギャン泣きにも笑って対応する余力が出てきた。

まだまだこれから大変なのは百も承知のうえで、最初の1ヶ月で感じたことを、特に育児スタート時の衝撃とともに振り返る。


ここはどこ、私はだれ? 衝撃の母子同室

ちょうど同時期にTwitterで母子同室が話題になっていたが、私も言わせてほしい。
「母子同室、まじやばかった」

32時間に渡る分娩を終え、生まれてきた我が子を愛でながらも、死線をくぐり抜けた疲労と大量出血の影響により、小指を動かすのもやっと。

お股ボロボロ、止まらない悪露、謎の手の痺れ、ホルモン乱高下のせいで壊れた蛇口のごとく流れ続ける涙……異常事態とも言えるなかで、ほとんどしっかり休む間もなく始まった「母子同室」。

オムツの替え方や抱き方、授乳のポイントなどは簡単に説明されるが、車の運転でいえば「これハンドルでこっちブレーキ、以上!」のような、基本動作だけ。
あとは現場で実践あるのみ! なのだがまず、「何がわからないかわからない」。

いきなり1時間ごとにミルクを欲しがる様子の我が子。
え、まだ飲むの?さっき飲んだよね? あれ、授乳って2〜3時間おきじゃないの!?

助産師「よく飲む子なんですね〜」

とか言われても!
まず、飲む子と飲まない子の差異がわからんし、生まれて数時間で「どういう子」とか言われても!
てか、全然寝ませんね!? 2時間は寝てくれるのでは!?

助産師「赤ちゃんによって違いますよ〜寝ない子なのかもですね〜」

寝ない子!?  ま!? ちょ、どうすれば!?
てかまだ飲むの!? 寝るの!?寝ないの!?
え!?!?→完徹……

で、初日にしてメンタル体力ともに崩壊の危機に。緊急事態を察知し翌朝早くにやってきた夫の顔を見て大号泣。

とにかく、この衝撃とともに世界は一変した。

つい先週まで「自分で考えて正解を出せる」世界にいて、そこで機能していたルール、ロジック、やり方が、今日いまこのとき、まったく通用しない。もはやゼロからすべてを学び直すしかないのだ。ガタガタガタガタと音が聞こえるように、心身の地殻変動が起きていた。

おっぱい、ミルク、おしっこ、うんこ、ねんね。

全部がアナログで身体的で、直感と、細々とした経験値の積み重ねしか頼るものがない。

ベッドの上で両乳を曝け出したまま「ChatGPTってなんだっけ…ははは…」と弱々しくツッコむのが精一杯。いろんな人に感謝したくなると同時に、無性に謝りたい気持ちが湧いた。

DXだとかイノベーションだとか働き方改革だとか、偉そうに語ってすみませんでした!
こんなにアナログな世界で日々戦う医療従事者の方々、本当にありがとうございます!

育児こそがリスキリングだと気づいた瞬間だった。

舐めてはいけない「マタニティーズブルー」

そんな私の最大の味方は、他の誰でもない、夫であった。
母子同室中も朝から晩まで一緒に子守りをし、ホルモンの影響で「空が青い」だけで号泣する私を見ても、変に慌てるでもなく、慰めるでもなく。
子を抱きながら「大丈夫、なんとかなるさ」と楽観的でいてくれたのは救いとなった。
(コロナ禍でパートナーの面会ができなかった産婦さんたちには本当に頭が下がる)

また、先輩ママさんたちの「子を育てる親自身がしっかり回復すべし」という言葉を頼りに、夜間は新生児室に子をあずけて休んだりもした。

当時はそれも「母親失格では……」と思った。マタニティーズブルーの影響もあるだろう。

この、産後に起こるマタニティーズブルーという現象は、妊娠中に分泌されていたエストロゲンとプロゲステロンが、胎盤の排出とともに急低下して起きてしまうもの。
身体の変化に伴う症状だからコントロールは難しい。

日本産婦人科医会によれば、症状は産後10日前後の一過性のもので、出産後の女性の30-50%が経験するという。
ただ、このマタニティーズブルーが長引くと「産後うつ」の発症につながる恐れがあるそうで、「産後だから仕方ない」と思い込みすぎず、症状が続く場合は然るべき対処が必要だ。

ワンオペ前提? 母子同室の不思議

夜間の新生児室での預かりについて助産師と話した際、まず「帰宅して一緒に育児をしてくれる方はいますか?」と聞かれた。

私はソッコーで「はい!夫が!育休を4ヶ月取っています!夜泣き対応は夫がやります!」と答え、すると「旦那さんも育児ができるのであれば、母子同室中であっても夜間にお預かり可能です」と言われた。

つまり、育児=母のワンオペが前提で、母子同室は「今のうちからワンオペ環境に慣れておくための訓練」なのだと、暗に言われているような気分だった。世知辛い。

というわけで、母子同室は人生で一番の衝撃だったけど、この後の育児生活に必要な原初のルールをインプットできたと思う。

頼れるものに頼り、辛さは吐き出し、自分を追い詰めない。
先々のことは考えずに、今だけを見つめる。
子供と、何より自分自身が、今日1日生きられただけで100点なのだから、と。

育児ハックvs個体差。検索の鬼になる

ちょっとでもわからないことや不安なことがあると、すぐにググる。これも育児初心者あるあるだろう。
「新生児 寝ない」
「赤ちゃん 睡眠時間」
「子育て 必須アイテム」
で検索すると、あれもこれもと出てくる出てくる、いろんなグッズ、ハック術が。

睡眠関連だけでも、おくるみ(のなかでも種類多数)、ホワイトノイズ、ハイローチェア、バウンサー、抱っこ紐(これも多種多様)などなど、世の親の試行錯誤に比例するように数多ある。

何が自分の子に合うのか、合わないのか。グッズを試すにも、全部導入していたらお金もかかる。
レンタルやお下がりなどの手を使いつつ、いろいろと試してみる……が、選択肢が増えると、今度は迷いが生じる。

寝始めた子を抱っこしながら
「ハイローチェアか、スワドルか……今日はどっちだ!?
 …………ち、違ったー!」
となる毎日。

もちろん子にも個体差があるので、
「多くの子はこれで寝てるらしいけど、うちには通用しない」
「昨日はこれでご機嫌だったけど今日はダメ」
となって当たり前。私たち大人が皆それぞれ体質も性格も違うように、子のタイプもまったく違う。

そう頭でわかっていても、ググるのはやめられない。
検索結果のリンク一覧がすべて『訪問済み』になっているのに、また検索をしては、「さっきも見たじゃんこれ!」を繰り返すのであった。

ただ、かつての「WELQ問題」然り、ネット上には信ぴょう性のない情報も多数存在するので、情報の取捨選択には注意が必要だ。

エビデンスがあり、育児で起こりうるハードシングスへの心構えとして参考になったのが、朝日新聞『withnews』副編集長・朽木さんによる連載『親になる』
育児に関するあれこれについて、ご自身の経験談をもとに、データや専門家の知見を取り入れながら記事化されている。

情報収集の鬼になっていた私はこれを一気読みし、頭から生える角を押さえたのであった。

助言や経験談、「口伝」が強い味方に

検索も大事だけど、やはり、知人や先輩の助言、アドバイスがリアル感満載なのである。
同じような悩みがあったと聞けば首がもげるほど首肯して安心したし、実践的で「使える」育児ハックは、なんやかんや口伝で知ることも多い。

母子同室で闇落ちしていた私を励ましてくれたのは、同時期に出産した友人や子育ての先輩たちの経験談だった。

1ヶ月検診で助産師さんにミルク量の増やし方や寝かしつけのコツなどを聞いたり、「うちの子はこういうタイプのようだから、こうやってみている」という話をして、直接意見をもらえたのも大きな一歩となった。

「お子さんのことをよく見ていますね」と言われ、子育てに正解はないけれど、いま自分たちがやっていることは間違っていないんだと思えた。

「男性育休」がなかったら…

そして、何より新生児期を生き抜いて、心身ともに早く復調し、こうして長文が書けるくらいの余裕があるのは、夫がともに育児に専念してくれているからだ。

これは間違いのない事実。声を大にして叫びたい。
男性育休、当事者は取るべし、企業は取らせるべし、
取るのが当たり前の社会になるべし。

これについては次回以降まとめたい。


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