母子家庭の貧困問題と就労支援制度~シングルマザーへの就労支援(1)~福澤 涼子.母子家庭のためのシェアハウス~シングルマザーの育児時間の不足をいかに補うか~福澤 涼子.ワーキングマザーの活躍支援~「両立」だけではなく、「活躍」もできる社会に向けて~福澤 涼子PDF魚拓



1.母子世帯の貧困問題

現在、子どものいる世帯のおよそ1割が母子世帯であり、そのうち半数が貧困世帯である(注1)。貧困は、今日の生活が苦しいという問題だけではなく、家庭の経済状況により子どもが大学進学を諦めてしまうなど、未来への貧困の連鎖にもつながる。

もちろん、シングルマザーは働いていないわけではない。厚生労働省「令和3年度全国ひとり親世帯等調査」によれば、日本のシングルマザーの就業率は86.6%であり、およそ9割が就業している(注2)。

シングルマザーが働いていても貧困に陥ってしまうのは、雇用が不安定で賃金が相対的に低い非正規で働いていることが要因の1つである。図表1は就労する母子世帯の就業上の地位の割合を時系列で比較したグラフだが、「正規の職員・従業員」の割合が増加傾向ではあるものの、いまだシングルマザーの4割が「パート・アルバイト等」で働いている。







図表2は働くシングルマザーの就業上の地位別平均年収の分布である。「正規の職員・従業員」の場合、半数以上が自身の就労で年収300万円以上を得ているが、「パート・アルバイト等」の場合には、75%が就労年収200万円未満となっている。そのため、「パート・アルバイト等」の平均年収は「正規の職員・従業員」の半分以下(平均就労年収150万円)だ。母子世帯のなかでも、非正規雇用で働く母子世帯が貧困に陥りやすいといえる。







2.非正規雇用で働いているのはなぜか

母子世帯の母親に非正規雇用で働く人が多いことの背景として2つ考えられる。

1つは、自ら非正規雇用を選んでいる人がいるということである。子育ての時間的制約から正社員を希望しないシングルマザーが多いことは、先行研究でも指摘されている(注3)。筆者は以前に執筆したレポート「ワーキングマザーの活躍支援(2022年12月)」で、育児短時間勤務制度など両立支援の制度整備が進んでいることを述べたものの、それらは入社すぐには対象とならない場合が多く(注4)、子育て中の女性にとって正社員に転職するのはハードルが高いという課題も残る。

もう1つの要因は、正規雇用の就職先が限られているということである。先述の「令和3年度全国ひとり親世帯等調査」によれば、母子世帯になる前に「正規の職員・従業員」として就業している割合は、35.2%に留まる。一方で、正社員の中途採用は即戦力が求められることが多いため、正社員としての勤務にブランクがある場合、再就職の難易度が上がりがちだ。子育て中だと、残業や出張に制約があるためになおさら不利である。そのため、やむを得ず非正規で就業しているケースも多いと考えられる。さらに、非正規の場合、能力開発やスキルアップの機会が正規雇用者に比べ少ないことが多く、長年働いたとしても、正社員に転換するのは容易ではないという厳しい現実がある。

3.ひとり親支援の各種制度と、申請までたどり着くハードルの高さ

低賃金で働きながら貧困を脱しようとするならば、ダブルワークなどで長時間働かなければならない。そうした生活が続けば、育児や家事の時間が不十分になるだけでなく、母親自身の健康にも支障が生じるおそれもある。

こうしたことから、厚生労働省は母子世帯に対して、収入や雇用条件の改善につながる就職・転職を支援する方針を打ち出している(注5)。図表3は、児童扶養手当(世帯年収ベースで365万円までの場合、子どもの人数に応じた手当が月額支給される)を受給している全国のひとり親家庭向けの就業支援制度の一覧である。







なかでも、手厚い支援内容で成果も出始めているのが、高等職業訓練促進給付金制度だ。2021年度の実績(注7)では、本制度を利用した資格取得者のうち看護師資格を取得した人が4割(1,133人)を占め、その84%が常勤としての就業に結びついた。看護師は、慢性的な人手不足であり、かつ子育て中の女性も多い職場環境にある。資格があれば子育て中でも雇用のチャンスに恵まれやすく、就業につながっていると考えられる。賃金も比較的高いため(注8)、安定した就労につながれば、生活の自立に大きく貢献する。

これらの制度を上手く活用できれば、貧困を脱する道筋も見つかるが、一方でその認知度は高くない。高等職業訓練促進給付金制度の利用経験は母子世帯全体の3%にとどまり(注9)、制度を利用していない97%のうち、44.5%がこの制度の存在を認識していない。

加えて、やりたい仕事が定まらない中でこの制度を利用する場合、せっかく取得した資格が活かされず短期間での離職につながるなど、制度が効果的に活用されていないケースがあるとの指摘もある(注10)。

実際には、図表3の就業支援制度のほか、生活支援のための制度や各自治体が独自に定めた制度もあり、母子世帯向けの支援制度は多様である。一人で仕事と子育てに追われ時間のないシングルマザーが、貧困から脱するために自身のキャリア目標を設定し、それを実現するための支援制度を十分に理解したうえで、必要書類を用意して申請まで至るのはそう簡単ではない。

ひとり親向け支援制度が充実してきたからこそ、これらの制度の認知度を高め、活用促進を図ることが求められる。その意味でも、多様な支援制度から一人ひとりに最適な支援を届けるにはどうすればよいのだろうか。次稿では、そうした取り組みを積極的に行う自治体の1つの事例として、東京都江戸川区のひとり親に向けた就労支援の取り組みを紹介する。

【注釈】厚生労働省「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果の概要」によれば、親等との同居を含む母子世帯数の推計は119.5万世帯。「2021年国民生活基礎調査」によれば児童のいる世帯は1073.7万世帯であり、母子世帯はおよそ1割となる。ただし、児童の年齢が「全国ひとり親世帯等調査」は20歳までとしているのに対し、「国民生活基礎調査」は18歳までのため留意が必要。また労働政策研究・研修機構「第5回(2018)子育て世帯全国調査」によれば、母子世帯の貧困率は51.4%である。
有業率86.6%は、OECD加盟国のシングルマザー(71.2%)や日本国内の女性(令和元年25~44歳の女性の就業率77.8%)と比べても高い水準にある。/OECD Family Database 「LMF1.3 Maternal employment by partnership status」(2023年5月閲覧),「男女共同参画白書令和2年版」
周燕飛『母子世帯のワーク・ライフと経済的自立』労働政策研究・研修機構,2014年
例えば、「育児・介護のための所定外労働の制限」「育児短時間勤務制度」などは入社1年未満の労働者を、「子の看護休暇制度」は入社6か月未満の労働者を対象外とできる。/「育児・介護休業等に関する規則の規定例」厚生労働省
「特に母子家庭施策については、子育てをしながら収入面・雇用条件等でより良い就業をして、経済的に自立できることが、母本人にとっても、子どもの成長にとっても重要なことであり、就業による自立支援の必要性が従来以上に高まっている」と述べている。/「厚生労働省告示第78号」2020年
厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課 母子家庭等自立支援室「令和5年度ひとり親家庭等自立支援関係予算案の概要」,東京都福祉保健局ウェブサイト「シングルママ シングルパパ くらし応援ナビtokyo」,こども家庭庁支援局家庭福祉課「ひとり親家庭等の支援について」のほか、江戸川区などの自治体ホームページを参照。
看護師資格の取得者1,133人のうち、957人が常勤、43人が非常勤・パートの就業に結びついている。/こども家庭庁支援局家庭福祉課「ひとり親家庭等の支援について」p44
看護師の平均年収は約500万円、勤続1~4年の30代の場合でも約400万円/「令和4年賃金構造基本統計調査」
厚生労働省「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」2022年
周 燕飛「シングルマザーへの就業支援事業の効果―高等職業訓練促進給付金に注目して―」独立行政法人 労働政策研究・研修機構,2019年


【参考文献】厚生労働省「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」2022年
厚生労働省「国民生活基礎調査」2021年
独立行政法人労働政策研究・研修機構「第5回(2018)子育て世帯全国調査」2019年
独立行政法人労働政策研究・研修機構「労働政策研究報告No.140 シングルマザーの就業と経済的自立」2012年
OECD Family Database 「LMF1.3 Maternal employment by partnership status」(2023年5月閲覧)
周燕飛『母子世帯のワーク・ライフと経済的自立』労働政策研究・研修機構,2014年
周 燕飛「シングルマザーへの就業支援事業の効果―高等職業訓練促進給付金に注目してー」独立行政法人 労働政策研究・研修機構,2019年
厚生労働省「育児・介護休業等に関する規則の規定例」2022年
厚生労働省「厚生労働省告示第78号」2020年
厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課 母子家庭等自立支援室「令和5年度ひとり親家庭等自立支援関係予算案の概要」
東京都福祉保健局ウェブサイト「シングルママ シングルパパ くらし応援ナビtokyo」
こども家庭庁支援局家庭福祉課「ひとり親家庭等の支援について」2023年
江戸川区ウェブサイト「ひとり親・母子家庭のための施策」
黒田 有志弥「社会手当の意義と課題――児童手当制度及び児童扶養手当制度からの示唆――」『社会保障研究 』vol.1, no.2, pp.370-381 2016年
ひとり親家庭支援策の実態に関する事例集(平成29年3月)-江戸川区
厚生労働省「令和3年度母子家庭の母及び父子家庭の父の自立支援策の実施状況」2023年
厚生労働省「令和2年度ひとり親家庭支援者等会議」資料5東京都江戸川区提供資料 2020年
厚生労働省 「令和4年度賃金構造基本統計調査」


【関連レポート】福澤涼子「ワーキングマザーの活躍支援~「両立」だけではなく、「活躍」もできる社会に向けて~」第一生命経済研究所,2022年
福澤涼子「母子家庭のためのシェアハウス~シングルマザーの育児時間の不足をいかに補うか~」第一生命経済研究所,2023年

https://www.dlri.co.jp/report/ld/253048.html
母子家庭の貧困問題と就労支援制度

~シングルマザーへの就労支援(1)~

福澤 涼子



1.育児時間が不足しがちな母子世帯

新型コロナウイルス感染拡大に伴い、食料が買えないなどの母子世帯の厳しい経済状況が多くのメディアで伝えられた(注1)。シングルマザーは非正規雇用で働いている人も多く(注2)、経済の停滞、小学校や保育園の休園など生活に大きな影響を受けた。生活基盤が脆弱な母子世帯の抱える問題が、ここ数年でさらに顕在化したといえる。

そのような母子世帯は、育児時間の不足という問題も抱えている(注3)。6歳未満の子どもを育てる有業の母子世帯では、平日の育児時間が共働きふたり親世帯の半分に満たない(図表1)。







母子世帯の場合、家事・育児を基本一人で行わなければならない。なおかつ稼ぎ手でもある母子世帯の母親は、ふたり親世帯の母親と比較して長時間の就業となる傾向にある。一方で先述した通り、シングルマザーにはパート等の非正規雇用で働いている人も多く、家事代行などの外部サービスを依頼したり、最新の時短家電を購入したりするなどの経済的余裕は生まれにくい。結果として、仕事と家事の時間のために、育児時間を削らざるを得ない状況だ。

こうした育児時間の不足は、子どもの教育や生活習慣にも影響を及ぼす可能性がある。内閣府「令和3年子供の生活状況調査」によると、「ふだんの勉強の仕方」について、家の人に教えてもらうと回答した中学生は、ふたり親世帯で26.0%なのに対し、母子世帯では15.1%となっている。「朝食や夕食などを毎日食べる」や「ふだん、ほぼ同じ時間に寝ている」と回答した中学生も母子世帯の方が少ない。また、中学生の子供を育てる世帯のうち、「子供に本や新聞を読むように勧めている」、「テレビ・ゲーム・インターネット等の視聴時間等のルールを決めている」と回答した世帯も、ふたり親世帯より母子世帯の方が少ない。

これらの結果には、経済的な問題、親自身の教育への関心などの影響もあろうが、親が子どもに関わることのできる時間のゆとりが不足することで、教育や生活に関する声掛けの機会が減ったり、食事の提供が日によっては難しかったりするなどの状況があることは想像に難しくない。

そのため、母子家庭に対しては、経済的な支援に加え、子育ての時間や親子の交流の時間をいかに増やしていくか、そのためにどのような支援が考えられるかといった視点も重要であるといえるだろう。

2.母子世帯のためのシェアハウスとは

以下では、母子世帯の子育て時間確保への支援策の1つとして、「母子世帯向けのシェアハウス(母子シェアハウス)」を取り上げる。そもそもシェアハウスとは、非親族同士が台所、風呂などの水回りを共用しながら住まう物件のことである。設備をシェアして利用することで、コストメリットや住人同士の交流が生まれやすいという特徴があり、主に単身の若者を対象に広まっている。

筆者は以前、「シェアハウスで子どもを育てるという選択」(2022年9月)」で、ふたり親家庭と単身者らが共に住み子育てをする事例を取り上げたが、それらは子育て支援自体を目的としていないケースが多い。他方、母子シェアハウスの入居者募集サイトをみると、集住による育児負担の軽減や孤立の防止、子ども食堂や働く場の提供など母子世帯への支援を打ち出しているものが多く、より福祉的な特色を持つシェアハウスだと捉えることができる。

また、シングルマザーのうち、母子世帯になる段階で正社員として働いている人の割合は高くないため、一般的な賃貸物件だと住居確保に困難が伴うケースもある(注4)。他方、こうしたシェアハウスでは、就労形態を問わない施設も多いため、母子世帯の住まいの受け皿にもなっている。さらには、一部の家具・家電・調理器具などが揃っていて、初期費用が抑えられることもメリットである。

3.時間資源の不足を補う

このように、コストメリットや入居のしやすさの他、母子シェアハウスに暮らすことで育児時間の不足を補えるケースもある。

筆者はある平日の夕方に母子シェアハウスを訪れた。そのシェアハウスは、数人のスタッフが交代で平日の夕食提供と20時までの託児を行っていて、運営者も住み込みでその生活を見守る。その分、多少高価格ではあるが、シェアハウス住人で費用をシェアできているので、一般的なベビーシッターや家事代行、宅食などのサービスを利用するよりは安価だ。また、母子世帯だけではなく単身の女子大生らも住み、子どもたちの遊び相手になってくれることもある。

取材の日は、まだ明るい16時頃に順次小学校から子どもたちが帰宅して、スタッフやほかの住人らとリビングで談笑しながら母親の帰りを待っていた。子どもたちとスタッフの間では、「良い匂いがする、今日のごはん何?」「手洗い・うがいしてから遊んでね」といった家庭でなされるような会話が繰り広げられている。18時頃には出来立ての夕食が提供されて、賑やかな雰囲気のなかで食事が始まった。その夕食の場で、ある女児がふりかけだけを食べようとしていたところ、住人の女子大生から「ふりかけだけ食べちゃダメだよ、ごはんに乗せて」と注意され、白米の上に乗せ直す場面もあり、家族ではなくとも、生活習慣に関しての声掛けがなされていた。

また19時頃には多くの母親たちも仕事から帰宅し、大人同士で談笑する姿も見られた。運営者によれば、離婚調停中の母親と離婚が成立した母親で、日頃から情報交換や励ましが行われているという。離婚は増加しているとはいえ全体を見渡せば少数の中、同じ境遇や経験者と出会い情報交換できることは、ストレスの発散、不安の軽減など情緒的な支援にもつながっていると考えられる。

このように母子シェアハウスでは、就労によりどうしても不足しがちな母親の時間資源を、家事や見守り、共食などを通じてほかの大人たちが補い、子どもたちの育ちを支える。さらには、あえて交流の時間を捻出せずとも、生活を通じて大人同士の会話が可能となることで、母親に対する情報的な支援、情緒的な支援にもつながっている可能性もある。







4.母子世帯を支えるネットワークの重要性

こうしたひとり親世帯向けのシェアハウスは、シェアハウスのなかでも福祉的な価値を持つ住宅として社会的に注目されている。国としても支援していく方針で、令和3年度には改修費用や入居者の家賃を補助するセーフティネット登録住宅の基準に、ひとり親世帯向けシェアハウスの基準が新たに設けられた。

その一方で、助成金があるとはいえ、母子シェアハウスは簡単に運営できるものではないという認識も必要だろう。なぜなら、一般的なシェアハウスのターゲットである若者の単身者と比べて、母子世帯はさまざまな課題を抱えているケースも多いからである。

中にはDVの被害から逃れるために住むというケースもあり、居場所が明らかにならないための配慮や、DVを受けたことによる心のケアも必要となるかもしれない。もし精神的に不安定な状況を無視して入居させると、共同生活によってかえってストレスが増長され、ほかの居住者とトラブルになりかねない。

そもそも、シェアハウス運営者だけがそうした精神面のケアや自立の支援をしていくのには限界もある。そのため、母子シェアハウスの運営サイドと、福祉センターや母子世帯を支援するNPOとの協働のスキーム作りが必要となってくるのではないだろうか。実際、今回取材したシェアハウスの運営者も、母子の生活を支援するNPO法人を紹介したり、地域の保健師とつないだりと、ネットワークを生かして母子を支援している。内見に来た段階から、給付金制度やハローワークなど生活を整えるための情報を提供したり、状況によってはシェアハウスよりも母子生活支援施設を勧めたりすることもあるとのことだ。そして、スタッフや住人同士だけではなく、地域の住人たちも季節行事の手伝いなどでその運営を支援している。

今後一層、家族の形が多様化すると考えられるなか、すべての子どもたちが孤立せず健全に育っていくことができる社会に向けて、家族か否かに関わらず色々な大人たちが関わり、子育てを支えていくという視点が求められているのではないだろうか。

【注釈】保育園や小学校が休園になることで仕事に行くことが出来ない、もしくは経済の停滞によりシフトが減らされるなどして、収入減となり、経済的に困窮する母子世帯がメディアで多く報道されていた。「母子家庭18%で食事減 コロナ禍でNPO調査」日本経済新聞 (nikkei.com)(2020年9月7日)など。
厚生労働省の「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査」によれば、母子世帯の母のうち就業している割合は86.3%で、そのうち「アルバイト・パート」と「派遣社員」で働いている割合の合算は42.2%となる。
父子世帯も同様に、育児時間の不足の問題を抱えていると予想されるが「令和3年社会生活基本調査」のサンプル数が少なく比較が困難であったこと、本稿で紹介するシェアハウスに父子世帯をターゲットとしたものが、筆者の調査によればないことから、今回は母子世帯にフォーカスをあてている。
ちなみに、こうした母子家庭を支援する居住施設としては、児童福祉法に基づく「母子生活支援施設」もあるものの、「支援施設」という印象から、人によっては抵抗を持つ人もいる他、公営住宅も離婚が成立しないと入居が可能とならないため、別居から離婚へと至ることも多い母子世帯の状況やニーズと合致していないと述べる意見もある。対して、母子シェアハウスは、民間の不動産事業者が行っているので、離婚が成立しているか否かなども関係なく住むことができる。/参考:葛西リサ「子どもの成長と健康を阻害する居住貧困の実態-母子世帯の事例研究からー」


【参考文献】福澤涼子「「シェアハウス」で子どもを育てるという選択~選択の背景にある現代の日本の育児課題」第一生命経済研究所2022年
福澤涼子「親になる前に、子育てを体験する価値~シェアハウスで他者の子育てに触れる経験から考える~」第一生命経済研究所2023年
厚生労働省「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果の概要」2022年
総務省「令和3年社会生活基本調査」2022年
内閣府「令和3年子供の生活状況調査」2021年
国土交通省ホームページ「ひとり親世帯向けシェアハウスの基準を新設します!」2021年
葛西リサ『母子世帯の居住貧困』日本経済評論社2017年
社会福祉の動向編集委員会『社会福祉の動向2023』中央法規出版2023年
周燕飛『母子世帯のワーク・ライフと経済的自立』労働政策研究・研修機構2014年
杉野衣代『居住支援の現場から―母子世帯向けシェアハウスとハウジングファースト―』晃洋書房2022年
水無田気流『シングルマザーの貧困』光文社2014年
南野奈津子,結城康博『地域で支える子どもの貧困~これからの地域連携の課題と実践』ぎょうせい2020年
石井加代子,浦川邦夫「生活時間を考慮した貧困分析」『三田商学研究』第57巻第4号2014年
葛西リサ「子どもの成長と健康を阻害する居住貧困の実態-母子世帯の事例研究からー」『家族関係学』40巻2021年
江楠「母子世帯と社会的孤立-ソーシャルサポートの側面から-」『北海道大学大学院教育学研究院紀要』第138号2021年
山野良一「母子世帯と子どもへの虐待―抑うつ分析も含め―」『社会保障研究』2(1)(5)2017年


福澤 涼子

https://www.dlri.co.jp/report/ld/236839.html
母子家庭のためのシェアハウス

~シングルマザーの育児時間の不足をいかに補うか~

福澤 涼子




1.育児をしながら正社員として働く女性の増加

働く女性にとって「キャリアか、育児か」の二者択一から、「キャリアも、育児も」と両立を目指す時代になりつつある。国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、2000年代前半までは、女性正社員の約半数が第一子出産をきっかけに無職に転じていた。だが、出産後も正社員としてキャリアを維持する女性は年々増加し、2015年以降では74.8%、すなわち4人に3人にも相当する。







正社員として働き続けることには、雇用の安定、相対的に高い賃金水準、福利厚生の充実などに加えて、スキルアップや昇進などキャリア形成の面でもメリットがある。「デュアルキャリア・カップル」などの言葉も広がりを見せるように、夫婦ともにキャリアを築いていこうという動きが加速している。

2.勤務時間に関する「両立支援」の現状

出産後も復帰する女性が増えた背景の1つとして、育児休業や短時間勤務といった「両立支援」が整備されてきたことがある。厚生労働省の「雇用均等基本調査」によると、「育児短時間勤務制度(子どもが3歳までは雇用形態を変えずに1日の所定労働時間を6時間などに短縮することができる制度)」の導入事業所は、2021年時点で約7割にのぼる。そして、厚生労働省の別の調査によると、2021年時点で3歳未満の子どもを育てる女性正社員の6割以上が1日8時間未満で勤務している(図表2)。







さらに、育児短時間勤務制度は、法律上、事業所に義務付けられているのは、子どもが3歳未満の養育者に対してであるが、事業所の裁量で3歳以降も認める割合が増加傾向だ(注1)。先の「雇用均等基本調査」によると、本制度の導入事業所のうち、およそ5割は、子どもが3歳以降であってもその制度の利用を認めており、本人の希望次第で時短勤務を延長することができる。このように、勤務時間に関する育児中の女性への「両立支援」への理解や制度整備は進みつつあるといえる。

3.「活躍支援」に関する課題

他方、育児中の女性正社員に対する企業の「活躍支援」については、いまだ課題も多い。そもそも、育休復帰後の女性社員に対しては、仕事量や難易度などについて一律に過度な配慮をするのではなく、継続就業による長期的なキャリア形成を見据えた支援を行っていくことが望ましい。

だが、小さい子どもを育てる女性については、先述したように週40時間未満で働く人も多く残業は難しい傾向にある。加えて、子どもの体調不良などで、突発的に休まざるを得ないなどの状況も起こりやすい。会社側としてはそうした女性への配慮や活用の難しさから、残業や緊急対応が発生しにくく、突発的に休んでも支障が少ない業務を任せがちとなる。その結果として、難易度や責任の度合いが低く、キャリア展望が持ちにくい業務だけを任される、いわゆる「マミートラック」に陥り、就業意欲を減退させる女性が増えている。21世紀職業財団の調査によると、2021年時点で子どものいる女性正社員の約半数がマミートラックに該当している(図表3)。さらに、短時間勤務制度を利用している人の5割以上がマミートラックの状態にあり、育児中の女性正社員のキャリア形成における課題となっていることがうかがえる。







4.多様な人材の活用が求められる時代の到来

1992年に育児休業法が施行され、2010年に短時間勤務制度が義務化された。近年、出産を機に離職する女性は大きく減少し、育児中でも正社員としてキャリアを維持する動きは一般化しつつある。そのことからも、「両立支援」の次なるステージとして、「活躍支援」が社会的にもより注目されることを期待したい。

今後、時短勤務をはじめ多様な働き方を求める動きはさらに広がっていくだろう。育児中の女性はもとより、家族の介護をする人、別の企業で副業する人、学校に通う人など、生き方・働き方が多様化し、自社とは別の役割を社外に持つ社員も増えていく。正社員で継続就業するだけでなく、パートやフリーランスといった働き方を希望する人もいるだろう。そうした多様な就労ニーズに応え、一人ひとりがエンゲージメント高く働けるような環境を整備することが、今後も多くの職場における共通の課題になるはずだ。

そして、こうした多様性の受容・活用こそが、新しい価値を創出することにつながるという見方もある。一人ひとりが能力を高め、エンゲージメント高く働くことができる社会を実現するため、多様な人々が持つ能力を最大限発揮できるような制度整備やマネジメントの進化が求められているといえるだろう。その意味で、フルタイム勤務・時短勤務にかかわらず、能力開発やキャリア形成の機会をすべからく提供していくことが大切だ。未来のための教育機会は、短時間勤務者にも与えられるべきものである。

【注釈】短時間勤務制度がある事業所のうち、短時間勤務制度の最長利用期間が「小学校就学の始期に達するまで」以上の割合は2011年の33.0%から、2021年は41.9%まで増加。2021年時点で、子どもが3歳以降の制度利用を認める事業所は46.4%とおよそ半数となる。/厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査 事業所調査」2021年、および「平成23年度雇用均等基本調査事業所調査」2011年より


【参考文献】国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」2022年
厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査 事業所調査」2021年/「平成23年度雇用均等基本調査事業所調査」2011年
厚生労働省「令和2年度 仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業」2021年
21世紀職業財団「~ともにキャリアを形成するために~子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究」2022年
厚生労働省「令和4年版労働経済白書」2022年
厚生労働省「正社員転換・待遇改善実現プラン」2019年
厚生労働省「平成29年度版労働経済白書」2017年
厚生労働省「国民生活国民生活基礎調査」2019年
冬木春子,佐野千夏「母親の就労が幼児の生活習慣に及ぼす影響」2019年,日本家政学会誌
佐藤博樹,武石恵美子「ワーク・ライフ・バランス支援の課題 人材多様化時代における企業の対応」2014年
佐藤博樹, 武石恵美子, 坂爪洋美「多様な人材のマネジメント (シリーズダイバーシティ経営)」2022年
脇坂明「女性労働に関する基礎的研究」2018年
武石恵美子「短時間勤務制度の現状と課題」2013年,法政大学学術機関リポジトリ
的場康子「育児のための短時間勤務制度の現状と課題」2011年,第一生命経済研究所ライフデザインレポート
持田聖子, 岡田昌毅「総合職ワーキングマザーの仕事と家庭の両立方略と働き方の変容プロセス」2021年, 産業・組織心理学研究


福澤 涼子

https://www.dlri.co.jp/report/ld/223661.html
ワーキングマザーの活躍支援

~「両立」だけではなく、「活躍」もできる社会に向けて~

福澤 涼子