共同親権について憲法学者の木村草太さんに伺う。Session 2024年5月17日放送TadTad2024年5月18日 00:3PDF魚拓



荻上チキさん:まず今回、共同親権を柱とした民法の改正。この成立についてどういうふうにお感じになっていますか。
木村草太さん:長年、離婚後の共同親権の危険性を訴える声はありましたけれども、しかし各弁護士会が慎重審議を求める声明を出したり、あるいはメディアが危険を報じ始めたのは衆議院の通過後でした。法務省の強引さは非常に不誠実と感じておりますけれども、弁護士会やメディアの対応の鈍さというのも非常に残念だったなというふうに思っています。

荻上チキ:あらためて今回の改正案、その中身というのはいかがでしょうか。
木村草太:今回の法律はどういう場合に共同親権にすべきなのかについて実はほとんど書いてありません。なので裁判所がほとんど共同親権を命じず改正前と何も変わらないという可能性もありますし、一方で何か明白な危険がない限りは何でもかんでも共同親権となる可能性もある、ということです。
 なので法務省から見ると何をやっても裁判所に出来る法律であるというところがポイントであるのかなと思います。

荻上チキ:裁判所に押し付けられるということですか。
木村草太:そうです。例えば法律にはDVを考慮しろとは書いてあるので、DVを見逃せば裁判所のせい。あるいはDV加害者から、ちょっと殴っただけなのに単独親権にされたとクレームをつけられればですね。考慮しろと書いてあるだけ、将来のおそれがある場合には除外しろと言っているだけで、反省を考慮してくれなかったのは裁判所のせいです、というふうに言い張れると。
 ということで何をやっても裁判所のせいに出来るっていうのが法務省から見た法律ですね。

荻上チキ:またどういったケースが共同親権となり、どういったケースが共同親権とならないのか。ここはあまり踏み込まれていないというか、分かりにくいということなんでしょうか。
木村草太:ほとんど書いてないし、議会でも議論されたようにはちょっと見えないですね。

荻上チキ:ではなぜ、共同親権の導入ということになったのでしょう。
木村草太:現在の法律とどういう点が変わってくるかというところなんですが、実は共同親権の合意が出来るようなお父さんとお母さんは、現在の法律の下でも日常的に話し合って色んなことを決めているので、合意型の共同親権が何かを変えるわけではありません。
 なので審議の焦点は非合意強制型、お父さんお母さんが不合意の場合の共同親権でしたが、非常に奇妙なことに法務大臣は5月14日の答弁で、合意が出来なければそれは共同親権の共同行使が困難な場合にあたる、単独親権にしなければならない、と答弁していて、法務大臣の答弁の通りだとすると非合意の場合には強制しないということなので、現在の法律と何も変わらないということになりますので、本当に何のためなのかが分からない法改正になっています。

荻上チキ:これ実際に離婚後の協議で親権が決まらない場合というのは、裁判所が判断することになるんですか。
木村草太:そういうふうに条文上はなっています。なので裁判所は、父母が不合意の場合でも強制的に共同親権を命じられます。ただ法務大臣は非合意の場合には共同親権にはしないけど、裁判所が命令権を持っていることによって当事者に合意を促せるんだと、そういう説明をしているわけですね。つまり共同に合意しなくてもどうせ裁判所が命じるよ、というような形で強要する、とも取れる答弁をしておりまして、そうならないように強制型の共同親権は法案から削ってほしいと思いますし、裁判所も当事者に何かの結論に強要する、圧力をかけるというのは止めてほしいですね。

荻上チキ:多くの離婚された当事者の方、あるいはDV被害者の方が、そうしたDVやつきまといなど加速するという懸念の声を挙げ続けていました。そうしたリスクについては、法案はいかがでしょうか。
木村草太:当然リスクはあります。アメリカの研究ですが、DVや虐待の加害者はそうでない人よりも熱心に共同親権を獲得しようとします。そういう傾向がある。というのも普通の人は強制がなくても子どもや元パートナーと関係できるので強制の必要は無いんですが、加害者は法律の強制が無い限りは相手や子どもに拒否されてしまって関われないからということなわけですね。
 今回の法律ではDV虐待のおそれがある場合は除外していますが、過去のDVの事実があっても反省している、もう止まったと認定されると共同親権を命じてもよいとそういう条文なので、過去の事実があっても裁判所の認定次第。またDV虐待の見落としもあるということになるので、これはDV虐待のおそれは当然あるということです。
 共同親権は子どもの生活に深く関わってまして、例えば外国だと別居の父親が母親と離れられなくなって面会時間が減るから母乳育児をやめろと親権に基づいて要求したケースなどがありまして、要するに嫌がらせの手段になるんですよね。日本でも婚姻中、離婚前の別居中、形式的に共同親権が継続しているので嫌がらせで手術に同意をしなかったとか、私立学校を退学しろと要求された例などが、参議院の参考人質疑で専門の先生から報告されています。
 なので今回の法律に賛成している人たちは、結局今回の法律でDV虐待はどうなのかということについて、完全に除去出来ないけどその位はしょうがない、あるいは完全に除去出来ると言ってるんですが、除去出来ないけどしょうがないというのは残酷すぎますし、除去出来るというのは無知の産物ということになります。

荻上チキ:合意について、例えば消極的、つまりコミュニケーションに対して消極的な人が決定権を持つと色んな意思決定が行われるようになりますし、関わりたくないのにそうした人が嫌がらせに使うことも出来てしまう仕組みになるわけですか。
木村草太:そういうことですので非常にDV虐待も含めて懸念される。虐待とかDVがなくても話し合いで決定が出来ないということが懸念されますね。

荻上チキ:裁判所で争われる場合、どういった流れでやり取りがされると考えられますか。
木村草太:法務大臣の答弁通り、一方が嫌だと言えば共同親権にしないという運用が徹底されるかどうかがポイントです。しかし裁判所から見ると共同親権の命令って父母どちらからも親権を奪われたと恨まれない飛びつき易い結論で安易に共同親権命令が出ないかということが危惧されます。また単独親権にこだわると相手の単独親権にすると言って共同親権の合意を半ば強制するという可能性もあって、実際海外ではそういうケースも報告されたりしていますので、そうならないように非合意強制型の共同親権をどれだけ死文化出来るかというところがこれから勝負になりますね。

荻上チキ:今回、附則などが盛り込まれていますが、この点はいかがでしょうか。
木村草太:共同親権に合意した場合、双方の真意を確認する措置を検討するそうなんですが、そもそも合意がなくても共同親権を強制する前提だと合意の真意の確認てあまり意味がないと。それから法務大臣は共同親権を命じるぞと脅して合意を促すんだと言ってるんですが、そうすると裁判所は自分で脅して促した上で合意の真意を確認するという意味の分からないことになってしまうということで、この辺りも今回の法律がいかに適当に作られたかということが表れているように思いますね。死文化するしかないと思います。

荻上チキ:これ、どんな子どもの幸福を願って作られた法律なんでしょう。
木村草太:そうですね。法に賛成した人たちは、自覚が生まれるとか、共同親権にすると責任感が高まるとか言ってるんですけれど、そういう精神論で通していいような内容ではないと思いますし、そもそも今回の法律の(■この部分聞き取れず■)には、シングルの子育てはまともではないという差別があったように思います。法案の推進者というのは父母の子育て両方がそろっている方がシングルよりも良い、だから推進すべきという価値観を陰に陽に表明してますけれども、これはとても失礼な考え方でシングルでも一生懸命子どもの幸せのために頑張っている親御さんがいらっしゃって、加害的な親から離れてようやく安心できる環境を得られた子どもさんもたくさんいらっしゃるわけですね。子どもにとっての生活の環境の安定っていうのはとても大事なことで、今の環境の安定はすごく大事なので、共同親権の意向の申し立てが増えても裁判官のみなさんは安定を破壊してでも共同親権にするだけの理由があるかしっかり考えてほしいです。

荻上チキ:その他、気になる論点などありますでしょうか。
木村草太:そうですね、今回の法律で子どもさんと関係が持てない別居親の方、もっと会いたいとかもっと関係したいという親御さんの方が強制的に共同親権に出来るという制度に期待している向きがあるんですが、一歩立ち止まってほしいと思います。確かに子どもともっと関わりたいというお気持ちはすごく強いものだということは分かるんですが、しかし相手が望んでないのに、また子供が望んでないのに共同親権にしろと裁判を起こしたりすれば、相手や子どもからの拒否感というのはますます強くなり信頼は失われます。一時的に強制的に共同親権を獲得できても、強制をしたということによって相手や子どもに拒否をされれば、子どもが大きくなった時には関係が途絶えてしまいます。ですからぐっと我慢して、あなたが望まないのであれば共同親権を命じてくれと訴えることまではしませんよという態度をきちんと示して、養育費をちゃんと払って、相手や子どもの気持ちをきちんと考えて行動する。そういう形で相手や子どもの信頼を獲得する努力をしてほしいと思います。そうした一つ一つの積み重ねが合意型の共同親権につながるんじゃないかと思いますね。

荻上チキ:共同親権の議論はしばしば養育費の支払いや面会交流の形などと混同されて議論される点があります。こちらいかがでしょうか。
木村草太:これもメディアの責任は重大です。共同親権と今言っているのは医療や教育、引っ越しなどの決定権のことで、養育費や面会交流と直接の関係はありません。また共同親権になると養育費を支払うんじゃないかというような議論もあるんですが、養育費を支払っていない人というのはまず経済虐待の加害者なわけですね。またそういう人に無理やり関わらせることによって無関心でいてくれた加害者と被害者が接触しないといけない可能性も出て来るということもあるので、養育費とか面会交流、それから共同親権て全部別の問題としてきちんとくっきり分けて話してほしいと思いますし、メディアもそこは混同しないでほしいです。今もそういう報道、たくさん今回のこの法律の成立でありますけど、逐一誤報は訂正してほしいですね。

荻上チキ:面会の件もそうですけれども、権利をくれないのであれば例えばお金を払わないぞとか、自分の言うことを聞けないのであれば会っても仕方がないというようなバーターかのように言い続けるような議論の中で共同親権の議論をされるとより危険性が増すように思いますが、この点いかがでしょうか。
木村草太:面会交流もそれから養育費も子どものための制度なわけですね。だから会ってくれないならお金を払わないとかそういう関係じゃなく、養育費は払わなくてはいけないものですし、面会交流も子どものために必要であれば子どもの予定に合わせてやるべきものですので、それを会いたい側、払いたくない側の意向で考えてはいけないと思います。

荻上チキ:子どもの健康や子どもの権利の観点からどういった環境が必要なのか。そのために法務省や裁判所などがどういうふうに考えるべきなのか。この法律が制定して以降も議論を進めてほしいなと思います。
木村草太:はい、まだまだ議論は終わっていませんので、ぜひこれから頑張っていきたいと思います。

(TBSラジオ Session 2024年5月17日放送より)

共同親権について憲法学者の木村草太さんに伺う。Session 2024年5月17日放送

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2024年5月18日 00:34