シリアの民間人に化学兵器を使用したアサド大統領に逮捕状のニュースを歓迎したい一方でシリア人民に対する米英仏の武力行使も問題でありシリアであっても法の支配が守られるように私は求めます。

シリアの民間人に化学兵器を使用したアサド大統領に逮捕状のニュースを歓迎したい一方でシリア人民に対する米英仏の武力行使も問題でありシリアであっても法の支配が守られるように私は求めます。



ダマスカス市内に住む人々からすると、いつどこに飛んでくるかわからないロケット砲の攻撃が、ようやく収まる日が近づきました。

そんななか、4月3日にトランプ大統領は、IS掃討作戦はほぼ終了したとして、シリアから米軍をすみやかに引き揚げると発表しました。突然で事前の相談もなかったので、国防省や国務省の高官たちが慌てて大統領を説得しました。しかし、アメリカの著名な大型シンクタンク・ランド研究所の外交・安全保障の専門家たちからも、アサド政権を認めて国の再建に向かわせるために、米軍だけでなく外国の民兵たちも段階的に撤退させるべきだ、との提言もなされる時期だったのです。

 この撤退発言の翌日、4月4日にはトルコの首都アンカラで、ロシア、トルコ、イランの首脳会談が行われ、プーチン大統領のリーダーシップのもとでシリアの今後について協力しあうことが確認されました。



 アサド大統領からすれば、首都近郊の厄介な民兵集団をようやく追い出し、全国の主要な都市部を完全に押さえて、あとは北部の反体制派の巣窟となっているイドリブ地方と、トルコ軍が入り込んだアフリン地方とその周辺、そしてユーフラテス川の東のクルド人支配地域をどう回復するかに専念すればよい状況となったのです。



 そこに突然、4月7日、化学兵器使用の疑われる映像が反体制派メディアから流れました。シリアへの関心を失ったかのように見えたトランプ大統領は、アサド大統領のことを「けだもの」と呼んで1年前の化学兵器疑惑事件の時と同様の敵がい心をむき出しにしました。サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は対イラン強硬派として知られますが、直後にフランスでマクロン大統領と会談する日程になっており、このシリア情勢について意見が交わされたことは確実です。12日にマクロン大統領は、アサド政権の化学兵器使用の証拠を持っている、と発言しました。

 一方、OPCW(国際化学兵器禁止機関)は、すぐにこの事件に強い関心を持ち、現地調査する方針を固め、シリアとロシアもOPCWに調査を依頼し、両方の意志が一致して直ちに準備が開始されます。現地調査は14日に実施される予定でした。

 この間、国連安保理ではアメリカとロシアとの間で現地調査団に与える任務をめぐって決議の潰しあいが演じられます。そして11日にトランプ大統領がシリアをミサイル攻撃する、との脅しをツイッターで発信しました。しかし、この攻撃予告はまたも国防省や国務省の高官との事前相談なしに行われたことが知られています。

 そして14日の未明に米英仏3か国の軍の共同作戦という形でシリアにミサイルが多数撃ち込まれました。シリア軍の戦力や人々の生命や生活を大規模に破壊することがないよう、またロシア軍の戦力に影響が出ないよう、配慮がなされた攻撃ではありました。しかし、この攻撃の意味するものは重大です。



 まず問題点を4点指摘したいと思います。

第1に、化学兵器をアサド政権が使ったことを根拠に、懲罰としてこの戦争行為がなされましたが、これまで米英仏3か国から、その証拠が示されていません。マクロン大統領は証拠があるとしながらもそれを明らかにしていません。事後になってイギリスのメイ首相は、メディアに流れた映像だけが根拠だったと認めています。これでは極めて薄弱です。明らかな証拠をまず国際社会に示して戦闘行為を正当化する手続きがすっ飛ばされました。

第2に、ミサイル攻撃が、まさにOPCWが現地調査を行なおうとしていた、その日の未明になされたことです。これはどう説明すればよいのでしょうか。なぜOPCWの調査を待てなかったのか。

第3に、軍事的・政治的状況からして、アサド政権がこのタイミングでドゥーマにて化学兵器を使用する理由は見出されません。もう決着はついていたのであり、あとは明け渡しを待つばかりでした。これについては、イギリスのBBC放送のラジオとテレビで、それぞれイギリスの元シリア大使と、海軍の元長官も同じ指摘をしており、反体制派が仕組んだ可能性を述べています。

第4に、昨年4月にシリアの反体制派支配地域のハーン・シャイフーンにて発生した、やはり化学兵器使用が疑われた事件、そして2013年のダマスカス郊外の東グータを含めた数カ所で発生した化学兵器事件をいま一度振り返って検証する必要があります。

詳細をお話しする時間はありませんが、今回の事件と共通する問題点は多く見られます。

 最後に、今回のシリア攻撃が今後の国際社会にもたらす意味を簡単に述べたいと思います。

 化学兵器の使用が疑われながら、それが調査されぬままに、アメリカ大統領のツイッター発言をなぞるような軍事行動が、国連安保理も、各国の議会も無視する形でなされました。国家による恣意的な軍事力行使に歯止めをかけるという、第二次世界大戦後の国際社会が曲がりなりにも作り上げてきた規範が、その国際社会をリードしてきた主要国によって無残にも破られたことになります。このたびカナダで開催されたG7外相会議でもシリア攻撃は支持されました。ロシアに対抗するばかりのために、あまりに大事なものを失っていないでしょうか。

戦争で最初に犠牲になるのは真実だ、という言葉があります。また、戦争を遂行するためには「法の支配」は無視しても良いとの考え方は、過去にいくらでも見出すことができます。

7年が経過したシリア内戦は、まさに今、こうした拡がりを見せているのであり、この国際社会の総崩れ現象が、今後さらに悪化しないという保証はどこにもありません。

https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/296200.html
「シリア『化学兵器事件』と米英仏の攻撃」(視点・論点)

2018年04月25日 (水)



東京外国語大学 教授 黒木 英充



法の支配(ほうのしはい、英語: rule of law)は、専断的な国家権力の支配を排し、権力で拘束するという英米法系の基本的原理である。法治主義とは異なる概念である。

「法の支配」とは、統治される物だけでなく統治する側もまた、より高次の法によって拘束されなければならないという考え方である[1]大陸法的な法治主義とは異なり、法の支配では法律をもってしても犯しえない権利があり、これを自然法憲法などが規定していると考える[1]。法の支配における「法」[注釈 1] とは、全法秩序のうち、「根本法」と「基本法」のことを指す[2]
法の支配は、歴史的には、中世イギリスの「法の優位」の思想から生まれた英米法系の基本原理である[3]
法の支配は、専断的な国家権力の支配、すなわち人の支配を排し、全ての統治権力を法で拘束することによって、被治者の権利ないし自由を保障することを目的とする立憲主義に基づく原理であり、自由主義民主主義とも密接に結びついている[3]
法の支配は、極めて歴史的な概念で、時代や国、論者により異なる様相を呈する多義的な概念である点に留意が必要である[3]

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B3%95%E3%81%AE%E6%94%AF%E9%85%8D
法の支配出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』



【ブリュッセル共同】ロイター通信は15日、フランス司法当局が2013年のシリアのアサド政権による化学兵器の使用に関連し、人道に対する罪や戦争犯罪の疑いで、アサド大統領ら4人に対し国際逮捕状を発付したと報じた。アサド氏に対して国際逮捕状が出されたのは初めてという。

 シリアでは13年8月に首都ダマスカス近郊で猛毒サリンが使用され、米軍が一時、軍事介入を検討した。ロシアの提案でアサド政権は化学兵器の全廃を約束した。

 シリアは13年に化学兵器禁止条約に加盟。化学兵器禁止機関(OPCW)は16年に政権が申告した化学兵器の廃棄を完了した。政権は一貫して使用を否定している。

https://news.infoseek.co.jp/article/kyodo_1097517739611832526/?tpgnr=world
シリア大統領に初の国際逮捕状 仏当局、化学兵器使用巡り

共同通信 / 2023年11月15日 22時46分



 製造コストが安く、殺傷能力が高いため「貧者の核兵器」とも呼ばれる化学兵器。ロシアのウクライナ侵攻でその使用が懸念される中、中東では実際に同兵器の被害を受け、後遺症に苦しむ人がいる。2012年以降、内戦が続くシリアでは100件以上の被害が報告されるが、調査は進まず、責任の所在はほぼ不明のままだ。シリア住民が被害の実態を語った。(カイロ・蜘手美鶴)

◆毒ガスでは 目がかすみ始め、息ができない…

 17年4月4日、シリア北西部イドリブ県ハンシャイフンでは、早朝からアサド政権軍側の空爆が続いていた。空爆は既に「日常」だったが、この日は少し様子が違った。

 「初めて聞く小さな爆発音が1発あって、何だろうと思った」。午前6時半過ぎ、着弾現場から約300メートル先に住むアラー・ヨウセフさん(30)が家の窓から外を見ると、道路に穴が開いていた。1人の女性が穴に近づき、いきなり倒れるのが見えた。外に出ると、他に何人も倒れていた。



 「毒ガスでは」。においも煙もなかったが、直感した。すぐ家に戻り、妻(29)や息子(7)を車に乗せて郊外の妻の実家に逃げた。途中で目がかすみ始め、妻はせき込み、「息ができない」と訴えた。家族を送り届けると、親戚の様子を見に町へ戻った。

 町に落ちたのは、化学兵器サリンの爆弾だった。サリンは目の異常や呼吸困難を引き起こし、町では90人近くが亡くなった。ヨウセフさんが現場近くの姉(37)の家に着くと、いとこや叔父、おいやめい、10人以上が床に横たわっていた。「これは悪夢か?」。ぴくりとも動かない姿を見て、気が遠くなった。

◆「世界が止まり、自分も彼らと一緒に死んだようだった」



サリンガスを吸って亡くなる前の双子のきょうだいを抱えるアブドルハミドさん=本人提供

 ヨウセフさんのいとこアブドルハミドさん(33)も、生後11カ月の双子と妻(18)ら親族計25人を亡くした。自身は着弾現場を見に行って気を失い、目覚めたときには、地下シェルターに逃げた妻と子どもたちは命を落としていた。「世界が止まり、自分も彼らと一緒に死んだようだった」。今も後遺症があり、時々気を失うという。

 国連と化学兵器禁止機関(OPCW)はハンシャイフンでの事件を合同調査し、同年10月、アサド政権軍がサリンを使用したと結論づけた。しかし、政権側は「でっち上げだ」と否定し、後ろ盾のロシアは調査の中立性を疑問視。調査継続を決める国連安全保障理事会で拒否権を行使し、現地調査は実施されず、責任追及もなく幕が引かれた。

◆ウクライナでの使用懸念「人ごとに思えない」

 アサド政権は19年、ハンシャイフンの住民を別の町に移住させ、ヨウセフさんは現在約70キロ離れた町で暮らす。シリア内戦は15年以降、ロシア軍の空爆で被害が拡大。ロシアのウクライナ侵攻を「人ごとに思えない」という。

 今年4月にはロシア軍がウクライナ南部で化学兵器を使用した疑いが浮上したが、「シリアで起きたことを考えると、ウクライナで化学兵器が使われてもおかしくない。私たちのような残酷な目に遭ってほしくない」と訴えた。

◆シリア人権団体所長「国際社会は実行者に処罰を」



7月上旬、カイロ市内で、化学兵器使用について「国際社会には調査と処罰の責任がある」と話すシリア人権監視団のラミ・アブドルラフマン所長=蜘手美鶴撮影

 中東では1980年代から化学兵器の使用が確認されている。イラン・イラク戦争ではイラクのフセイン政権が使用し、88年3月にはイラク北東部ハラブジャで約5000人の犠牲者を出した。現在も呼吸器官の後遺症に苦しむ人は多い。

 近年はシリア内戦での被害が顕著だ。13年8月にはダマスカス近郊の東グータ地区で数100人が死亡。使用したアサド政権は国際社会から責任を問われ、保有する1300トンの化学兵器の廃棄を約束したが、その後も被害は続いた。英BBC放送などの調査によると、14〜18年に少なくとも106件の被害が確認されたという。

 調査は進まず責任の所在も不明なまま、17年にはハンシャイフンで、18年には再び東グータ地区で大きな被害が出た。シリア人権監視団(ロンドン)のラミ・アブドルラフマン所長は「実行者が何の処罰もされなければ、同じ行為が繰り返される。国際社会には調査し、処罰を行う強い責任がある」と訴えた。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/189293
「貧者の核兵器」の恐怖 シリア住民が化学兵器の被害証言 家族失い後遺症今も

2022年7月13日 17時00分








 化学兵器禁止機関(OPCW、本部・オランダ)は12日、シリアのアサド政権軍が2018年2月に同国北西部イドリブ県で塩素系の化学兵器を使ったと結論づける報告書をまとめた。政権軍の化学兵器使用を認定するのは2例目。アサド政権は一貫して関与を否定してきている。

 報告書によると、シリア空軍のヘリコプターが18年2月4日夜、少なくとも1点のシリンダーを投下。塩素系ガスの拡散で12人が被害を受けた。居合わせた人の証言、残留物、被害者の症状、衛星写真の分析などから、政権軍の化学兵器使用だと考える「合理的根拠がある」とした。

 現場は政権軍と反体制派が衝突したイドリブ県の交通の要衝サラキブの東部。OPCWは昨年も、政権軍が17年に別の場所の空爆で猛毒のサリンなどを使ったとの報告書をまとめた。

 OPCWの報告に対し、欧州連合(EU)の外相にあたるボレル外交安全保障上級代表は「あらゆる化学兵器の使用が国際法違反だ。関与した人物は責任を問われなければならない」と指摘した。EUはすでにシリアの高官らに制裁を発動しているが、さらなる措置を検討すると表明した。(ブリュッセル=青田秀樹)

https://www.asahi.com/articles/ASP4H30RZP4DUHBI037.html
朝日新聞デジタル
記事


「シリア政権、化学兵器使った」と認定 国際機関2例目

ブリュッセル=青田秀樹2021年4月15日 17時00分


だが、化学兵器となると話は別だ。

第1次世界大戦のさなかに欧州の大国が最初に使用して以来、化学兵器は多くの意味で、その物質的もしくは軍事的効果とは不釣り合いなほど大きな心理的、そして政治的な衝撃を与えてきた。生物兵器の脅威と並び、化学兵器は突出した恐怖をはらんでいる。

第1次大戦の塹壕で軍医たちは、通常の砲爆撃の方が死者の数がはるかに多いにもかかわらず、毒ガス攻撃に対する身もすくむような恐怖の方が、砲爆撃のそれを上回ることが多いのに気づいた。大戦終結の頃には、基本的なガスマスクと化学防護装備により、多くの兵士は毒ガス攻撃を受けてもほとんどダメージなく生還できるようになっていた。

にもかかわらず、大半の国が化学兵器を禁止するに至ったのは、こうした兵器に対する恐怖だ。

1993年に署名された化学兵器禁止条約の調印国は現在192カ国に達しており、世界で備蓄されていた既存の化学兵器の90%以上が昨年末までに廃棄されたと考えられている。

だがシリア内戦によって、時と場合によっては、さほど深刻な結果を抱え込むことなく、政府が自国民に対して化学兵器を使用することができるということが確認されてしまったようだ。

ここ数週間、ティラーソン国務長官やマティス国防長官を含む米国高官は、「シリアのアサド大統領の排除はもはや優先課題ではない」と示唆していた。アサド政権は、ほぼ何の報復を受けずに国内反体制派に対する行動を起こせると感じていることを誇示しているかのようだ。(編集部注:米軍は6日、化学兵器の使用に対する対抗措置として、アサド政権下の空軍基地に対するミサイル攻撃を実施した。)

大量破壊兵器に関する国際的なルールと規範を損ない、米国の力と影響の限界を露呈するという意味で、これは警戒すべき兆候だ。今も政権側と戦っているシリア市民にとっては、さらに抵抗を続けることによる犠牲について残酷な警告を受けたことになる。

化学兵器による反体制派への攻撃は目新しい戦術ではない。1920年代や30年代には大英帝国が、同じような狙いでイラクの村落に対して毒ガスを使用した。ムッソリーニ政権下のイタリアもアビシニア(現エチオピア)に対して同じことを行なった。イラクのサダム・フセインはハラブジャ周辺のクルド人市民に対してサリンガスを使って推定数千名を殺害し、残虐な独裁者というイメージを確定させた。

今回のケースは、多くの点が意図的にボカされて分かりにくくなっている。恐らく、他国からの反発や報復の可能性をさらに低下させるためだろう。西側諸国の政府も、独立した監視機関も、シリア空軍による意図的な攻撃を示す証拠があると述べている。だがアサド政権を支持しているロシアは、政権側による空爆によって反体制派側の武器倉庫から化学物質が流出したとしている。

そうした可能性もゼロではないとはいえ、空爆による着弾箇所が道路や見通しのいい原野だったことを示す画像など、これまで得られた大半の証拠はその逆を示している。過激派グループはこれまでにも定期的に化学兵器の製造を試みており、特に「イスラム国(IS)」は、イラク第2の都市モスルの支配を維持するために毒ガスを用いている。

だが5日の攻撃には、2013年にダマスカス郊外で発生したアサド政権絡みの化学兵器による攻撃との顕著な類似点が見られる。このときは市民数百名が殺害されており、一時は、米国がアサド政権との直接的な武力対決に踏み込む契機になるだろうと見られていた。

それ以前から米国のオバマ前大統領をはじめとする西側諸国の指導者は、化学兵器が使用されれば、外部からの介入の引き金となる限度を越えることになると宣言していた。だがアサド政権側は2013年に入ってから、ごく少数の死者しか出ないような、小規模の化学兵器攻撃を行うことで、この限度を探ってきた。

シリアは2013年に化学兵器禁止条約に調印し、ロシアの仲介による取引の一環として、米国による軍事行動を回避すべく、化学兵器の備蓄をすべて引き渡したものと思われていた。今やそれは事実ではなかったように見える。5日の攻撃以前にも、はるかに限定的な規模の化学兵器による一連の攻撃が見られたからだ。

アサド大統領とその背後にあるロシアが、トランプ政権にはいかなる軍事的対応をとる意志もないと考えているのはほぼ確実である。何しろ、オバマ政権時代のホワイトハウスと同様に、長期的に介入しようという意欲もなければ、そのための戦略も持っていないからだ。

皮肉なことに、化学兵器が政治的な武器としていかに効果的かをシリア政府が示しつつある一方で、国境を越えたイラクでは、戦場において化学兵器の効果がどれほど限定的かをISが悟りつつある。米国やイラクなどの連合軍や人権監視団体の報告によれば、昨年9月、10月、そして今年の3月にやや原始的な毒ガス攻撃が数回にわたって行なわれたというが、被害者は比較的少数にとどまっているとみられる。

過激派グループによる化学兵器・生物兵器を利用した攻撃への懸念は何十年も言われているが、実際の例はきわめてまれであり、多くは効果をあげていない。

専門家によれば、アルカイダやISはいずれも化学兵器・生物兵器を利用したいと考えているが、どちらも高い優先順位を与えているわけではないという。これらのグループは最近、テクノロジーという点では対極的な方向に関心を注いでおり、ブリュッセルやパリ、そして3月の英ウェストミンスターでの攻撃に見るように、トラックやナイフ、小火器といった、利用できる限りで最もシンプルな武器を使っている。

だが、これが常に真実であるとは限らない。

日本のカルト宗教であるオウム真理教は、生物兵器を利用する試みに失敗した後、サリンの製造に成功した。1995年にこれを使って東京の地下鉄への攻撃を行ない、死者13人の他、6000人以上が重軽傷を負った。専門家らは、さらに効率よくサリンを散布するシステムを完成させていたら、死者数は大幅に増えただろうと指摘する。

しかし一般的には、5日にシリアで起きた事件が示しているのは、化学兵器による攻撃のリスクが最も大きくなるのは、ある国の政府が自国民の一部を見せしめとして使いたいと考える場合だ、ということだ。 これに対して、米国にせよ他の西側諸国にせよ、どのように対処すればいいのか手をこまねいている、というのが厳しい現実なのだ。

(編集部注:このコラムは米軍がアサド政権軍の支配下にある空軍基地をミサイル攻撃した6日以前に執筆されました。)

*筆者はロイターのコラムニスト。元ロイターの防衛担当記者で、現在はシンクタンク「Project for Study of the 21st Century(PS21)」を立ち上げ、理事を務める。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

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https://jp.reuters.com/article/apps-syria-idJPKBN1791J6
コラム:シリア化学兵器の「恐ろしい教訓」

Peter Apps, ロイター


https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bwc/cwc/gaiyo.html


https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol162/index.html