「セックスワーカー」を差別しているのは誰か(Who discriminates against sex workers)( 2021.1.7)Seiya MoritaChuo UniversityとAV救済法案 可決衆院内閣委、全会一致性交契約禁止 本村氏が迫る赤旗PDF魚拓及び私が立民のAVにおける本番強要違法化法案に賛同する理由。





問題にされているのは業者と買春者

菊地夏野氏はさらに次のように述べている。

ベストではないがベターな選択、あるいはギリギリの選択としてセックスワークに就く
当事者(ベストと考える人もいる)に、どうしてそれを「女性差別」……として禁止でき
るのだろうか?

だが、問題にされているのは、当事者の「ギリギリの選択」ではなく、当事者の貧困・
差別・性虐待の経験・障害等々につけこんで、女性の性を利用し搾取し金銭的ないし性的
利益を得ている人々、すなわち業者と買春者による「選択」(搾取という選択)である。
あるいは、自分の「恋人」や「妻」に強制して(ないし心理的に操作して)売春をさせて
いるピンプによる「選択」(強制という選択)である5。アボリショニストは一貫してそう
した連中の「選択」をこそ問題にしているのに、セックスワーク派は常に問題をすり替え、
「ギリギリの選択としてセックスワークに就く当事者」を都合のいい盾にする。何と卑怯
な連中だろうか。被買春女性を盾にして、その陰で常に買春者と業者は守られるのである。
これを「人質理論」という。貧困な被買春女性を人質にして、業者と買春者を擁護するの
である。
たとえば、家庭内の子どもたちは親からレイプされても、生きていくのに「ギリギリの
選択」として、家庭内にとどまろうとするだろう。その時、われわれはどう言うべきだろ
うか? セックスワーク派のように、子どもたちは「ギリギリの選択」をしているのだか
ら、性虐待を禁止するべきではないと言うべきだろうか?
この例は子どもだが、大人の場合も同じである。夫からの DV を受けている妻も同じく、
シングルマザーで生活するのが困難だったら、「ギリギリの選択」として家庭内にとどま
る「選択」をするかもしれない。その場合、われわれはどう言うべきだろうか? 妻は
「ギリギリの選択」をしているのだから、DV は禁止するべきではないと言うべきだろう
か?

5 セックスワーク派の議論ではいつもこの「ピンプ」(日本語で言えば「ポン引き」)の存在が無視され
ている。しかし多くのサバイバーや支援者たちの証言から明らかなように、売買春の中にいる女性たちの
多くにはピンプがおり、このピンプによって売春が強制されているのである。この場合、本人の「ギリギ
リの選択」ですらない。ちなみに、セックスワーク派のある「論客」は、家庭内暴力の存在を持ち出して、
性産業より家庭の方がよっぽど危険だと主張するが、この家庭内暴力の最も重要な形態ないし手段の一つ
がまさに、自分の「妻」や「恋人」や場合によっては自分の「娘」に売春を強要することなのである。し
たがって、家庭内暴力の存在を持ち出して性産業を正当化するのは、まったく的外れである。家庭内暴力
を克服するためにも、その重要な一手段である性産業を根絶しなければならないのである。


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あるいは職場で、女性従業員が社長から「俺と寝ないと解雇することになるよ」と言わ
れたとき、解雇されると生活できないので、「ギリギリの選択」として社長の命令に従う
選択をするかもしれない。その時、われわれは、彼女は「ギリギリの選択」をしたのだか
ら、セックスの代わりに解雇の脅しをすることは禁止するべきではないと言うべきだろう
か?
買春とはこれらの行為の職業版、社会版である。買春者は貧困女性に対してこう言って
いるのである。「生きていくのに必要な生活の糧を手に入れたければ、俺と寝ろ」と。こ
のような行為を禁止するのは当然であり、また、誰もがそのような弱みにつけこむ卑劣な
行為に応じなくてもいい社会をつくることに、国家と市民社会の双方が努力するのは、文
明社会として当然である。

売買春と暴力

菊地夏野氏はさらに次のように述べている。

性産業の現場は、リスクや不合理の多い世界だ。不要な管理、締め付け、あるいは
(性)暴力も存在している。実は最も重要なことは、法的保障によってその労働環境を改
善し、セックスワーカーへの差別や暴力を禁止すること。

つまり菊地氏も、性産業の現場で「性暴力」が頻繁に生じていることを認めているわけ
だ。これについては二つの論点が存在する。まず第一に、売買春そのものが、女性の貧困
や低い地位に付け込む暴力であり性的搾取であるということ、第二に、それ自体が性暴力
である売買春には、当然ながら、さらなる不当な暴力がつきものだということである。第
一の点についてはすでに述べた。買春者がどれほど親切で丁寧であろうと、相手の弱みに
つけ込んで性行為をしているのだから、それ自体がすでに暴力の行為である。それと同時
に、それ自体が性暴力である産業には、さらなる暴力(サービスにない行為をさせられる、
避妊されない、身体的暴力を受ける、侮辱的言葉を浴びる、等々)がしばしば伴う。最初
から買春者は、女性を、自分の性欲を満たすために金で買われた存在であると思っている
のだから、相手を人間的に扱うことを彼らから期待するのはきわめて難しい6。またすでに
指摘したように、他の店との競争や客の指名を取るため、「ワーカー」の安全性は絶えず
軽視される。
全体として売買春そのものが合法であるかぎり、このような店や客の行為を規制するの

6 売買春サバイバーの貴重な証言集として以下の文献を参照。Caroline Norma & Melinda Tankard Reist eds,
Prostitution Narratives: Stories of Survival in the Sex Trade, Spinifex Press, 2016. 日本に関してはやや古いが、
やはり以下の文献が必読である。兼松佐知子『閉じられた履歴書――新宿・性を売る女たちの三〇年』朝
日文庫、一九九〇年。


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は限界がある。売買春が何らかの意味で社会的に有益なサービス提供業務であるとしたら、
全体としての合法性の枠内で法的規制によって安全性や労働者の権利を保護するというこ
とは合理的選択であろうが、売買春はそのようなものではない。それが提供するのは、女
性の性と身体を、男の支配欲と一体となった性欲を満たすために使用する(搾取する)と
いうことであり、そこにはそもそもいかなる正当性も社会的有益性もない。その行為自体
が性差別の実践であり、女性に対する暴力の一形態である。それ自体が本質的に暴力的で
あるものを許容しておいて、その中の個々のよりあからさまな暴力だけを規制する(実際
には口先だけだが)というのは、不合理かつ非現実的である。
菊地氏は「セックスワーカーへの暴力を禁じる」と安直に言うが、誰に対する暴力も現
在すでに法的には禁止されている。問題は「禁じる」ことではなく、現実になくしていく
にはどうすればいいかである。菊地氏は、売買春を合法化(非犯罪化)しつつ、いったい
いかなる手段を通じて、現実に「セックスワーカー」への暴力をなくすことができるのか、
何も語っていない。

北欧モデルの可能性

売買春に対するオルタナティブとして、現在、アボリショニストが提起しているのは、
北欧モデルと呼ばれる政策体系である。これは、スウェーデンとノルウェーが先進的に導
入した法体系なので、北欧モデル(ノルディック・モデル)と呼ばれている。これは次の
三つの柱に基づいている。
一、売買春を女性(主として)に対する性的搾取のシステムないし性暴力の一形態とみ
なすこと、二、このシステムにおける被害者の位置にある被買春者を非犯罪化し、支援と
保護を提供し、性産業からの離脱に向けたさまざまな手段を提供すること、三、業者およ
び買春者をこのシステムにおける加害者とみなし、積極的に処罰の対象とすること(場合
によっては、買春者に対して再教育を施すこと)、である。これは、業者や買春者を含め
て非犯罪化しようとするセックスワーク論と正反対の政策体系である。
今日、世界各地で、北欧モデル型の立法の導入ないしそれに向けた本格的な動きが活発
になっている。すでに、スウェーデン、韓国(部分的)、ノルウェー、アイスランド、カ
ナダ、フランス、北アイルランド、アイルランド、そしていちばん最近ではイスラエルで
導入されている7。
売買春がもたらすあらゆる暴力や差別を効果的に減らし、最終的になくしていくことは、
売買春そのものを縮小していくことによってしか達成できない。売買春そのものを合法化
ないし非犯罪化したうえで、その中での(よりあからさまな)暴力だけを減らすという試
みは完全に失敗した実験である。すでに売買春を合法化ないし非犯罪化した国々(オース

7 さらにこの論文執筆後、アメリカのハワイ州で2021 年6 月に北欧モデル型立法が可決成立している。こ
れは全米で最初のものである。


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トラリア、ニュージーランド、ドイツ、オランダ、スペイン、等々)では、セックスワー
ク論が約束したプラス効果(セックスワークがより安全になり、人身売買が減少し、ステ
ィグマが払拭される、等々)が実現するどころか、セックスワーカーに対する暴力・殺人
事件はますます多くなり、人身売買は急増し、スティグマは何らなくなっていないことが
わかっている。スティグマがなくなったのは業者と買春者だけであった。合法化ないし非
犯罪化路線はすでに行き詰っている。それゆえ、ドイツ、オランダ、スペインのような合
法化国でも、現在、北欧モデルへの転換の強力な動きが広がっているのである8。世界は確
実に北欧モデル型立法へと進んでいる。日本も、売春防止法を改正して、この道を進むべ
きである。

P.S. 私は、ポルノ・買春問題研究会のメンバーとして、売買春とセックスワーク論の問題
についてこれまで多くの文献で詳しく語ってきたので、本稿で論じきれなかった諸論点に
ついては、以下の拙文・拙書を参考にしてほしい。
・ 「 『 季 刊 セ ク シ ュ ア リ テ ィ 』 問 題 と セ ッ ク ス ワ ー ク 論 」 、 二 〇 一 〇 年 、
https://www.academia.edu/40714165/
・ 「 売 買 春 問 題 に つ い て ど う 考 え る べ き か 」 、 二 〇 一 九 年 一 〇 月 、
https://www.academia.edu/40786467/
・「非犯罪化か北欧モデルか」、ポルノ・買春問題研究会編『ポルノ被害と売買春の根絶
を め ざ し て 』 、 二 〇 二 〇 年 七 月 。
https://appinternational.org/2020/07/20/app_20th_anniversary_special_pamphlet/
・ 売 買 春 が 合 法 化 さ れ て 誰 が 得 を す る の か 、 二 〇 二 〇 年 一 〇 月 、
https://www.academia.edu/44332583/
・ 性 産 業 を め ぐ る 北 欧 モ デ ル と 合 法 化 モ デ ル 、 二 〇 二 〇 年 一 二 月 、
https://www.academia.edu/44738043/
・『マルクス主義、フェミニズム、セックスワーク論』慶応大学出版会、二〇二一年。

8 合法化国の悲惨な実態や北欧モデルに向けた新たな動きなどについては、ポルノ・買春問題研究会
(APP 研)の国際情報サイトを参照してほしい。https://appinternational.org/

https://www.academia.edu/49850739/_%E3%82%BB%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%83%BC_%E3%82%92%E5%B7%AE%E5%88%A5%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%81%AE%E3%81%AF%E8%AA%B0%E3%81%8B_Who_discriminates_against_sex_workers_2021_1_7_?email_work_card=view-paper
「セックスワーカー」を差別しているのは誰か(Who discriminates against sex workers)( 2021.1.7)



Seiya Morita

Chuo University










AV救済法案 可決

衆院内閣委、全会一致

性交契約禁止 本村氏が迫る






(写真)質問する本村伸子議員=25日、衆院内閣委

 アダルトビデオ(AV)出演被害の防止・救済法案が25日の衆院内閣委員会で全会一致で可決されました。

 法案は、超党派の実務者会合での議論を経て自民党、立憲民主党、公明党、日本維新の会、国民民主党、有志の会が提案したもの。事業者に書面での契約と説明を義務付け、契約に違反がなくても公表後1年は無条件で契約を解除できる規定などを盛り込みました。AVを性交など「性行為に係る人の姿態」を撮影した記録などと定義したことに対しては、「性交を伴う契約を合法化するのでは」と懸念の声が上がっていました。

 日本共産党の本村伸子議員は25日の衆院内閣委員会で、支援団体などや日本共産党はAVでの性交等を禁止する規定を求めてきたと指摘。「性交を含む契約を合法化するように読めるとの声にどうこたえるか」「性交させる契約が無効になる場合がある」と述べ、見解をただしました。提案者の自民党の山下貴司衆院議員は「本法案はAVで本来無効なものを合法化するものではなく、禁じられたものを解禁するものではない」と述べました。

 本村氏は、2年以内の検討でAV性交契約を禁止すべきだと迫り、支援団体などの声を聞くよう要求。山下氏は「AV出演で、有償性交を実際に行うといった行為の条項の有効性も検討事項に含まれる」「検討は被害者、救済にあたる方の実態に照らして行われる必要がある」と答えました。

 本村氏は、困窮などを背景に出演した人の救済や、アウトリーチ(積極的働きかけ)を含め性搾取されない取り組みを国が財源や体制を示して進める必要があると強調。「AVに関する被害はAVでの性交そのものに原因があるという切実な声も寄せられている。この声を重く受け止め、2年以内の見直しに力を尽くしたい」と表明しました。

https://www.jcp.or.jp/akahata/aik22/2022-05-26/2022052602_01_0.html
2022年5月26日(木)

AV救済法案 可決

衆院内閣委、全会一致

性交契約禁止 本村氏が迫る

上記PDF魚拓記事を踏まえた私個人の意見を追記するならば、立憲民主党さんのドラマの殺人事件は実際に人殺ししない事をたとえにして、AV本番強要を防ぐ対策としてAV新法について別途本番の性行為させる業者及び買春者側の行為を違法化して警察が摘発できるようにすることは重要であると思いました。