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児童養護施設などの支援に取り組むNPOチャイボラの道のり

子どもの心と成長に寄りそう児童養護施設などの職員の不足を解消する

児童養護施設などの社会的養護施設には、虐待や貧困など様々な事情をかかえた子どもたちが生活しています。
子ども達の成長や幸せのために、子どもの心と成長に寄りそっているのが、施設職員です。
しかし現在、施設の多くが職員不足という課題をかかえています。
このような状況では、職員にどんなに想いがあっても、子どもたち一人ひとりに出来ることに限界がでてきます。

私たちNPO法人チャイボラは、人と施設をつなぐことで「子どもたち一人ひとりが大切に育てられる世の中」を目指し活動しています。

この記事では、代表大山の幼少期時代からNPO立ち上げ、運営までを紹介します。

NPO立ち上げまでの経緯

話は私の子ども時代にさかのぼります。
私の父は小さな個人塾を経営しており、そこにはさまざまな特性や家庭環境の子どもたちが通っていました。
今でこそ虐待に関心は高まって来ていますが、当時は世の中としても感度は低かったように思います。
それでも父は疑いのあるお子さんがいたら、お家の方を呼んで話し、決して見放すことなく親子が笑顔で過ごせるようこれでもかというくらい寄り添ってました。
そのため、私の家にはよく生徒がご飯を食べに来たり、時には泊まったり、生徒と家族の境があまりない環境で育ちました。

そんな環境で育った私は、家庭環境やそこでの学習環境に強く関心をもつようになりました。
その中でも、父の塾にて、小学校低学年時点で学びに対する意欲の差はとても大きなものだったことから、幼児期の家庭環境にダイレクトにアプローチしている(株)ベネッセコーポレーション・こどもちゃれんじ事業部 (幼児教育教材部門)に入社しました。

マーケティング部の所属になった私は、恐らく会社で一番だと自負するほど多くの家庭を訪問し、多様な親子関係を見てきました。
そんな中、入社8年目になったとき、転機が訪れます。

児童養護施設の現状を知ったきっかけ

実は、会社の商品である教材が、リニューアルするたびに破棄されているという現状を知り、 何か活用ができないかと考えました。
そこで、知り合いが児童養護施設で働いていたので問い合わせをしてみたのです。

寄付なので当然喜ばれるだろうと思っていたのですが、返ってきたのは「ほしいのは物じゃなくて人なんだよ」という言葉

私が問い合わせをした施設職員の彼女は当時25歳でした。
1ユニット男女混合の8人の子どもを、基本的には一人で見る時間帯がほとんどとのこと。
重度の育児放棄という環境で育った子でトイレで用を足す習慣がない子どもや、ケガの危険性もあるほどのケンカをするほど中高生は荒れている。
命を守るだけで毎日が必死とのこと。
「そこに教材が毎月送られてきても誰が見るの?」と。


私は衝撃を受けました。
私なりに親子の豊かな時間をつくりたいと強く想い仕事をしてきて、様々な家族に触れあってきたつもりでした。
でも、自分の見てきた親子関係はごく一部なものだったのです。

「職員が足りないのであれば私がなるから、待ってて」と、衝動性が強い私は、1週間後に会社に辞表を出しました。

児童養護施設施設職員になるために保育の夜間専門学校へ

資格を取得するため保育士の専門学校に通いつつ、児童養護施設でのアルバイトを開始しました。

保育の専門学校なのですが、入学当初の就職志望調査では、社会的養護施設への就職を希望する生徒は私ひとりしかいませんでした。
保育士の専門学校には社会的養護の授業がありますが、私たちの担当教員は元児童養護施設職員であったこともあり、7月には、36 名中11人の生徒が社会的養護の施設に就職したいと希望を変えました
にもかかわらず、その後年末の志望調査では私以外の全員がまた希望を変えて、施設希望者は私ひとりに戻ってしまったのです。

この状況を不思議に思い、私はまずは進路を変えてしまったクラスメイト10名にヒアリングを実施。
さらにクラスメイトの力も借り、他の専門・短大・四大、保育だけでなく教員・社会福祉士などをめざす学生、総勢158名へヒアリングを実施しました。
なぜ、社会的養護の施設が就職志望先とならないのか?
最大のボトルネックは、施設側からの情報発信の弱さにありました。

オンラインで施設のことを検索しても、どこにどんな施設があって、どんな仕事内容で、どんな人が働いているのか?どんな子どもたちがいて、就活はどうしたらいいのか?が分からない。
そもそもホームページが存在しない施設もあり、今時の学生はSNSやYouTubeで情報を収集するがそのような媒体で情報発信している施設はほぼありませんでした。
見学や説明会に出向くには、電話やFAXで連絡する必要があり、相当意欲が高まっていない学生にとってはハードルが高い。

このような状況下で学生は、「なんだかよくわかんない」「お呼びでないのかな」「募集はないようだ」という認識を持っていたのでした。
そして、結局施設のことを知ることなく、接点を持つことなく、他職種へと就職していく。

このボトルネックを崩せば、少なくとも施設に関心を持ったクラスメイトは就職するのではないかと考え、2017年、保育士のクライメイトと共に活動を始めました。

活動の立ち上げは「遊びボランティア」から

学生に対して「就職」「採用」というワードを出すと、そこまで意欲が高まっていない人が引いてしまうと考え、あえて「施設の子どもたちと遊ぶボランティア」という活動から始めました。
月一で実施した活動ですが1回目は10名程の参加、半年後には60名以上の申込までに拡大。
「チャイボラ」の団体名は、この子ども向けのボランティア活動 =チャイルドボランティア=チャイボラというサークル名から来ています。

「施設に関心のある人はいる。つなぎがうまくいっていないだけだ。」この頃には予想が確信へと変わっていきました。
徐々に「遊んだ後に施設職員と交流、質問、見学」ができる内容に形態を変化させました。

そして、この活動が評価され、都内の児童養護施設と自立援助ホームからなる人材対策を目的とした委員会と連携し、自立援助ホームで初めて採用を目的とした大規模な施設見学会を開催

前年度4名しか見学者がいなかった施設でしたが、今時の学生に合ったツールで告知物のデザインも工夫し、訴求を絞り広報。
申し込み方法もGoogleフォームで簡易化した結果…
1回の見学会で昨年度の8倍以上の方からの申込があり「施設に興味がある人が少ないのではなく、やり方次第で人は来る」ということが実証できました。

これ以降、都内施設からの依頼が一気に増え、さまざまな形で施設見学会を実施するようになりました。
そして、この頃には自分ひとりが職員になるだけでなく、施設に関心のある人と施設をつなぐチャイボラの活動を拡大することで、社会的養護の業界に対して大きなインパクトが出せると考えるようになり、2018年、NPO法人格を取得しました。

ここに至るまでに最も苦労したこと

人材不足に悩んでいたとしても、全くの外部者に頼ることに抵抗があるものです。
NPO法人チャイボラでは、代表である私自身が施設の職員になり、非正規職員ではあるが、一人で遅番宿直勤務を回し、現在6年目となりました。
また、団体のメンバーに元施設職員を採用していきました。
施設職員の心情と状況を理解したアプローチが可能になり、施設からの絶対的な信頼を得ていきました。

徹底的に足を運び対話を重ね、時にはぶつかることもあり、全ての事業をここまで施設の職員と共に作り上げる。
だからこそ、プロダクトの利用者が増え、発信情報が濃厚になり、施設から必要とされるまさにニーズをついた事業をつくり上げることができてきたと思っています。
弊団体が運営するプラットフォームから10名程の採用を出した施設もでてきており、口コミ等で全国からの問い合わせも殺到するまでに至りました。

チャイボラの活動について

チャイボラの活動内容は大きく2つ(職員の確保と定着)に分かれています。
興味喚起から、接点創出、理解を深め、就職後も長く働けるようサポートする、一気通貫の支援を行っています。

1.興味喚起

これまで多くの子ども領域に就職を検討している学生の声や、世間一般の方の施設に対するイメージをヒアリングする中で、「仕事がきつそう」「子どもから暴力を振るわれそう」「給料が低そう」「施設がボロボロで子どもたちもひもじい想いをしていそう」「職員も暗そう」という声が多くありました。
また、保育士、社会福祉士、心理士の養成校で実施される社会的養護の授業は、講師の社会的養護に対するイメージや知識量、経験値によってその内容は大きく異なり、資料教材も充実していないことでドキュメンタリー番組などを映像資料として使い、学生からの施設へのイメージは決していいものとはなっていません

そこで、施設の正しい情報(魅力だけでなく職員として働くことの苦労も含めて)を広め興味関心層を増やしています。
学校への出張授業や、一般向けのオンラインセミナー、SNSでの広報などを実施しています。

2.接点創出

関心層を増やすだけで、施設と接点を持てなければ採用には繋がりません。
関心を持った人がまずすることはオンラインでの情報収集。
施設の情報を手軽に集めることができ、さらには気軽に施設と直接やりとりができる状況を作り出すことが重要です。

ここでポイントとなるのは「施設からのリアルな現状を吸い上げ施設の負担がなく情報を発信できる仕組み」
多くの施設を知り、その施設ならではの魅力を見つけ、それらを施設に関心がある人が欲している情報に集約できる仕組みが必要です。
また、多くの施設が使用している電話、郵送、FAX、メールと言ったツールだけでなく、今時の若者が使用するツールを駆使し施設と直接やり取りする環境を整えることで、施設への理解を深めたうえで施設に関心のある人と施設が接点を持ちやすくなる状況を作り出す。

チャイボラが運営するプラットフォーム「社会的養護総合情報サイト  チャボナビ」は、社会的養護の施設に特化した人材確保プラットフォームで、現在30以上の都道府県から、300を超える施設情報(掲載準備中含む)が登録されています。

これにより、ホームページなどがない施設でも、プチHPとして、情報発信をすることができます。
単に情報を掲載するだけでなく、多くの施設を見てきたモデレーターが施設一つ一つを丁寧にヒアリングしPR記事を書いていることや、利用者と施設職員が直接チャットでやりとりができる機能なども特徴です。

3.理解促進

紙面上の情報だけでなく、実際に施設の中に入り施設のリアルを知ることで就職意欲が高まるだけでなく、就職後のギャップが減り離職率低下にもつながります。
そのためには、施設が門を広げ施設をより深く知ってもらう機会を作る必要があります。
オン・オフラインで施設の中を知り体感する場の提供を作り出すことで採用に繋げていく施設見学会をサポートしています。

現在でも、見学会開催に難色を示す施設も多いので、すでに多く開催している施設の施設長陣を招きオンライン学習会を実施したり、個別メール、電話で連絡をとったり、まずは一度一緒に開催することを提案し開催数を伸ばしてきました。

現在では、一度に数施設を見学できる合同オンライン見学フェアを開催するにいたりました。

4.職場定着

就職後の離職を低減させるために重要なのは
①悩みや不安を吐露できる場がある
②仕事をする上で必要なスキルや情報を手軽に収集できる
③同じ志を持った仲間との交流の場があるの3つです。

コロナの影響で大量離職した施設もでてきており、チャイボラにも多くの相談が寄せられたことを受け、2021年1月に施設職員向けの相談窓口アプリを開発。
窓口には元施設職員、現役の児童養護施設長、心理士、子どもの権利擁護に精通した弁護士、社労士、税理士と連携し相談に対応。
完全匿名で、かつエリアも広範囲でしか聞かないので自分の施設を特定されることなくかつチャットでやり取りでき、また施設長も相談できることが特徴です。

さらに施設職員同士が交流や知識のインプットができる機会として、施設職員向けのオンライン研修会を開催。
施設職員のニーズに沿ったテーマで月に2〜3回実施。
単に情報のインプットだ けでなく、全国の施設職員が同じテーマで学び、議論を交わすことで「モチベーションがあがった」「みなそれぞれの立場や環境で頑張っていることがわかってうれしかっ た」といった声もいただいています。
現在では多い時には全国から約300名の申込が来るほどになっています。

2023年からの挑戦

せっかく内定を出しても、その後のフォローが行き届かず、内定辞退や早期離職をする施設も多くあります。
施設に就職するまでにモチベーションを上げ、不安や疑問の解消、また職員になるにあたりインプットしておきたい情報を提供する研修を開始することにしました。
交流や学びの場を提供することで内定者辞退と早期離職の軽減を図っています。

このようにチャイボラでは、現役・元施設職員が連携し施設が今必要としている支援を一緒につくりあげてきました。
今後は、サポート範囲と質をさらに高め、それぞれの施設に合ったやり方で職員確保定着を促進していきたいと考えています。
今後とも、皆さまの応援をよろしくお願いいたします。