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韓ドラに見る韓国の刑事司法制度


韓国ドラマで韓国の刑事司法制度を学ぶ


韓国語の勉強と韓国の刑事司法制度についての調査を兼ねて、弁護士がでてくる韓国ドラマをいろいろ見た。

弁護士がでてくる韓国ドラマは多い。私が見たものは、「ウヨンウ弁護士は天才肌」「なぜオスジェなのか」「真心が届く」「優雅な一族」などである。

法務法人街路樹の柳先生に弁護士ものののドラマは見ますか、と尋ねたところ、私はあまり見ないのですが、とのことだった。多忙な弁護士がゆっくりドラマを見ている時間もあまりないのだろう。また、ドラマにでてくる弁護士や法廷などは、現実のものとはだいぶ違う、とのことだった。

これは、日本でも同じで、弁護士が法律考証をしたドラマであっても、一般の視聴者受けするようにだいぶデフォルメされていて、弁護士が見ると違和感を感じるものも多い。

それでも、弁護士ものの韓国ドラマを見ると、韓国の司法制度の一端を垣間見ることができるのも確かだ。また、ソウル中央地方法院の建物はしばしば韓国ドラマに登場するので、実物を見たときには、ああ、ここがそうか、とちょっと感動した。


ソウル地方中央法院

冒頭にあげた弁護士もののドラマは、いずれも比較的最近のもので、「ウヨンウ・・・」「オスジェ」が2022年、「真心が届く」「優雅な一族」は2019年のシリーズだ。いずれも韓国の改正刑事訴訟法が定着した後の時期のものなので、取り調べシーンなどにもそれがよくわかるものがでてくる。

取調べへの弁護士立会い

オスジェでは、主人公のオスジェ弁護士自身が捏造された証拠により逮捕されて取調べを受けるシーンがある(第14話)。オスジェの後輩弁護士ソン・ミリムが弁護人について、検察官の取り調べに駆けつけてオスジェの隣に座った。弁護人立会が当たり前になっている韓国ならではのシーンだ。

オスジェ14話では、その後、取調べにあたる警察官が席を外した際にオスジェと弁護人との会話を隣室で警察官らが盗聴しているシーンがでてくる。警察官が席を外したのも、その間になされる弁護人と被疑者との会話を盗み聞こうという策略だった。マジックミラー越しに取調室の2人が見え、録画もされている上に、マイクが会話を拾っているのだ。

オスジェも盗聴されていることを意識していて、取調べの警察官が席を外した後に重要なことをこっそり弁護人に耳打ちする。部屋に戻ってきてそれを見とがめた警察官が何を話しているだ、と気色ばむシーンが続く。

黙秘権保障と捜査妨害

こうしたシーンはドラマならではのデフォルメかも知れないが、黙秘権保障や秘密交通権の確保という点についての意識の違いも感じるところだ。

韓国では弁護人立会いでの取調べに際して、弁護人が取り調べを遮って被疑者に黙秘を勧めることは捜査妨害になることがある。そのため、弁護人が注意を促すときは婉曲な表現を使ったり、テーブルの下で被疑者の足を蹴飛ばして合図をするようなこともあるらしい。

優雅な一族3話にも主人公のモソッキが捏造された証拠により逮捕されて検察での取調べに弁護人が立会うシーンがでてくる。かけつけた弁護人がただちに接見させない事務官に対して抗議するシーンからはじまる。弁護人がきたら速やかに接見させなければならないことが前提だろう。この点は日本と同じだ。

また、ここでも、検察官は、弁護人と被疑者との打ち合わせを盗み聞きしている。検察官が取調室にある録音録画用機材のスイッチを密かに入れて退室し、そこで弁護人と被疑者が打合せをする、という流れだった。警察や検察の取調室に録音録画装置があるのは、一定の取調べについて録音録画がされる制度が定着しているからだろう。ただし日本のような可視化の法制度はないらしい。また、弁護人と被疑者との会話の録音を秘密にやっている描写は、秘密交通権があることが前提になっているのだろう。

警察での取調べは密室で行われないこと

優雅な一族第6話では警察での取調べに弁護人が駆けつけるシーンがでてくる。同話に限らず韓国ドラマにおける警察での取調べは、たいてい他の警察官も執務するオープンな場所で行われている。日本でいうと交番にきた市民の相談をお巡りさんが聞いているシーンのような雰囲気だ。

あるいは、取調べは外から見える窓があったりガラス張りの部屋で行われている。個室であればCCTV(監視カメラ)がある。オープンな場所での取調べやCCTV付きの場所での取調べとすることで、密室での警察官による暴行を防止するという意味があるようだ。

警察の取調室には、被疑者用の椅子のとなりに弁護人立会用の椅子があり、立会が当然のことになっていることがわかる。


警察の取調室(ビデオ録画室) 立会用の椅子がある。
CCTVが設置されている


取調室の鏡はマジックミラーで隣にも捜査官がいる

映画「1987、ある闘いの真実」で取り上げられた韓国軍事政権時代の警察による21歳の学生の拷問死は民主化の大きなきっかけになった。しかし、その後も、2002年に殺人事件の被疑者が捜査官から暴行を受けて死亡した事件が発生した。警察での取調べのあり方やその後の弁護人立会の進展には、そうした出来事への反省が背景にあるのだろう。

接見がアクリル板のないところで行われること

日本では、一般の面会も、弁護人と被疑者との接見もアクリル板で遮られた状態で行われる。韓国では、一般の面会についてアクリル板越しでも、弁護人との接見は遮るもののないところで行われている。

ソウル江西警察署の一般面会室
ソウル江西警察署の弁護人面会室

また、拘置所や検察庁での弁護人の接見シーンも、たいてい普通の個室で行われている。弁護人に対する一定の信頼と、弁護人による実質的な援助の重要性の認識があるのだろう。


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