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【ネタバレあり】Netflix映画「シティーハンター」感想

シティーハンターファンによる原作と比較しつつの感想です。長いです。

シティーハンター抜きでも一本の映画として楽しめた。素直に続きを観たいと思わせてくれる作品。
語弊を恐れずに言うと原作やアニメの冴羽獠と槇村香たちがそのまま抜け出して来たというものではなく、もし令和の新宿に冴羽獠と槇村香たちがいたらという観点で芯となる部分は変えずにキャラクターが再構築されている。
それはシティーハンターが実写化という媒体を変え、そして時代を現代にする上で必要なことであり、本作は上手くシティーハンターが令和の新宿へマイグレーションされている。
新宿で撮影出来るというのは日本で制作するかなりのアドバンテージ。本当に冴羽獠と槇村香が新宿という街にいるのではないかと思わせてくれる。
今回のNetflix版はキャラクターの性格や設定などの改変はされているものの、そこに至るまでの説得力があるから違和感なく受け入れることが出来た。
また、シティーハンター見たことない人や現在劇場版アニメが向かおうとしている海原編への導入に非常に適した作品になっている。(ありがとう‼︎)

■冴羽獠

鈴木亮平さんのスタイルが冴羽獠。そして立ち姿が冴羽獠だった。
ノールックでのリロードや動作のスピード感、一瞬での銃の分解、あらゆる武器を使いこなす様は裏社会No1という存在感を視覚的に訴えてくる。改めて実写で冴羽獠の動きというものを見せつけられて冴羽獠は凄いと認識させられた気がした。
邦画でこのレベルのガンアクションを実現したのはただただ頭が下がる。また、作中、公の場では極力銃を隠すが徹底されていたのも好印象。唯一、香が狙われた場面では、かなぐり捨てて銃で応戦してしまうのも良かった。

■コメディシーン

ところどころシティーハンターらしいギャグシーンが挟まれるが決してストーリーを止めるものではなく、テンポよく進むので笑えるものになっている。
格好つけているのにズボンを履いていない、格好良いアクションをふざけた格好で行う…など。間のとり方もこれぞシティーハンターという間になっていた。
個人的にはズボン履いてないのが好き。2回目からは周りの視線やそれを香で隠してるのが分かって更に面白い。
「大人の話だ。黙ってなさい」→「何も言ってないけど…」のやり取りも初期のちょっと年齢差を感じさせる獠と香のやり取りらしさを感じさせる。
100トンハンマーも実写としておかしくない登場のさせ方でかつ、ツッコミの道具としても機能していた。
これはあらゆるところで言われているが三枚目の冴羽獠が出てくるシーンでの鈴木亮平さんの声が神谷明さんの声に似ているのも驚いた。

■獠と槇村

原作で描かれている獠と槇村のシーンはそう多くはないが、今回パートナーとして、親友としての二人の関係性をしっかりと描いている。
鈴木さんと安藤さんの身長差がこれぞというもので…二人並んだシルエットが完全に冴羽獠と槇村秀幸だった。
獠と槇村が親友で獠にとっても槇村が大切な存在だったことや、獠が相棒としての槇村とのやり取りに心地よさを覚えていているのも伺えた。(槇村が獠の性格や実力を熟知して対応してるのも相棒感がある)
後に香にも槇村と同じ心地よさを感じている描写につながるのも構成として見事。
個人的には槇村が「(香に)手を出すなよ!」を二回言っていたのも良かった。健在な槇村との最後の会話。これは一生獠の心に残るんだろうな…
槇村の戦闘シーン最高だった!!!!!!!!!!!!柔道で制圧しているのがいいよね!!!流石元刑事!!!!!!槇村格好い!!!!!!!!!ありがとうございます!!!!強いっていうのがポイントなんですよ!普段交渉役に徹してるのは槇村が強いからこその強さを正しく認識してその方が良いと判断しているのが…(以下略
でもトラックにひかれて更にナイフで刺されるの辛すぎる!!!!!!!!!何回見届けなきゃならないの……

つ!ら!い!あああああああああ
心の底から、冴子と幸せになって欲しかったーーーー涙

■野上冴子

冴子も難しいキャラクターで原作やアニメそのままにしてしまうと周りの刑事から浮いてしまう。
だから今回の木村文乃さん演じる冴子は色気を残しつつも過剰にはならない、非常にバランスが取れていたと思う。
話し方もちょっと砕けた感じになっていたが時折、アニメ版の声優一龍斎春水さんを彷彿とさせる台詞回しもあった。
槇村へのこだわり、そして香への慈愛が表現されていて良かった。槇村と冴子の関係性(本作では両思い設定)がバックボーンとして存在する演技になっていた。
原作でも冴子は香を危険な目に合わせたくないと思っており、どこか香を特別視している。今回冴子の香への態度が明確にほかキャラクターに対するものと比べて優しく、より分かりやすくなっていた。

■獠と香の出会い

原作では3/26に獠と香は出会う。しかし今回のNetflix版は香の誕生日である3/31に獠と香は出会っている。ただ、鈴木亮平さんはここは絶対に変えないと思うので獠と香の出会いは前日譚があると思う。もし続編があるならそこがどう描かれるのか楽しみ。

■エンジェルダストの描写

Netflix版のエンジェルダストの描写は原作に一番近いものだと感じた。一時的に超人的な力を得られる代わりに数日で命を失うという大きな代償。
自動販売機を人間が投げる、非人間的な跳躍力という視覚的に分かりやすい描写。エンジェルダストを打たれて生き延びることが出来る特異さから、くるみが狙われるというのも将来的な伏線になっている。
槇村が死の直前、ナイフで一矢報いるシーンも通常であれば致命傷になるはずの攻撃が意味をなさない。ここもエンジェルダストの恐ろしさを物語っている。ここでテーブルナイフ来るか~~となったシーン。レストランという場所だからこその原作6話のオマージュ!その後の展開が辛いが、素晴らしい。
そして少年兵冴羽獠の回想シーンで海坊主を出しているのは思わず膝を打った。単にファンサービスではない登場のさせ方で、海坊主との墓場の決闘や海原編までを見据えているような入れ方だった。

■槇村香

森田さんがシュガーボーイの頃の香を意識したと言っていたがまさに、シュガーボーイ(高校生の香)と連載初期の香となっている。
一般人の女の子(香)の視点でストーリーが進むので視聴者も香視点で冴羽獠というキャラクターや裏社会というものを体感できるように見せている。とは言いつつも大量の死体を見ても立ち向かおうとするなど香のメンタルは常人のそれではない。
森田さんがとにかく上手い。屋上のシーンは本気の演技で心を揺さぶるものになっていて、それでいてシュガーボーイ編やミック編の香の感情の爆発を彷彿とさせる香らしさがある。
「サラッといえよそんなこと!」は香と槇村が本当に「家族」だったことが伝わってきて胸を打たれる。
原作の槇村香は悲しみという感情を基本人前には出さない。槇村の時もミックの時も独りで泣いている。本作では悲しみだけを出すのではなく、何もできなかった自身への怒りから感情を発露させるのは自然な流れに感じた。「私は戦う」は槇村香というキャラクターの核心に触れてる良い台詞。

■香の槇村の死への向き合い方

原作の香は高校生のときに獠と出会っており、兄の仕事(シティーハンター)もある程度その時点で理解しているので、いつか槇村が死んでしまうのではないかと怯えている一方で、どこか覚悟をしている。だから獠が槇村の死を告に来た時ショックは受けるものの取り乱さず即座に獠の相棒になる決断をする。
また、原作では槇村を殺した男は、既に獠が始末をつけていた後だったというのも大きな違いとしてある。
原作の場合、もし仕事を引き継がなければ香の元に残るのは指輪だけ(後述)。
兄の仕事を引き継ぐことによって、後に香は"アニキと同じ仕事をすることでその悲しみをまぎらわそうって気持ちもあって…"(原作185話)と語っている。
Netflix版の香は原作の香ほどシティーハンターの仕事を理解していない。何となく危険な仕事をしている、槇村が仕事について嘘をついていることは分かりつつも、いつ命を落としてもおかしくない仕事とまでは認識していない。だから急に目の前で兄が殺され、戸惑い、何故兄が死ななくてはならなかったのか追求したくなるのは自然な流れだ。

■指輪

(泣く泣くカットしたとのことだが一応)
原作では槇村の形見として香に指輪が渡される。この時獠は槇村の香への誕生日プレゼントだったということで渡しているが、本当は香の実母が香と生き別れの実姉さゆりのために贈ったもの。獠は槇村の死を伝えた後も、槇村と香が実の兄妹ではないということまでは伝えられずにいた。(ただし香はそのことは高校生のときには知っていた)
Netflix版では物語のキーアイテムである指輪がない。推測になるがNetflix版の香には姉は居ないと思われる。原作ではさゆり登場回で香が槇村と実の兄妹ではないということを知っていたことが読者に明かされるが、Netflix版では屋上の香の慟哭シーンの中で獠にも視聴者にも明かされる。
また、獠は獠で槇村の最期の言葉が「香を頼む」だったことを香に告げる。(原作既読としてはどちらも結構驚いたシーン)
※補足:原作ではシュガーボーイ編で香は獠に兄と実の兄妹ではないと告げているので、獠は香が槇村と実の兄妹でないということを知っていることを認識している。

■香の父親

ここが原作とNetflix版の一番の違い。原作では警官をやっていた槇村の父、槇村伸幸(なお、名前初出)が追跡中の殺人犯、久石純一を事故死させてしまい、その久石の娘でありまだ赤ん坊だった香を引き取ったという設定であった。
今回のNetflix版では、香の実父はユニオン・テオーペのメンバーで脱退しようとした際にエンジェルダストを打たれ、結果槇村伸幸に射殺されたという設定になっている。
ユニオン・テオーペとの因縁が原作より更に深くなり、後の海原編への布石になっている。
(私は海原のことも一人の人間としてフラットに見ていた原作の香が好きなので続編があるならどうなるか気になるところ。)

■香の選択

槇村香は憎しみや怒りで銃口を向けるという描写は原作では一度もない。
香が銃を持つ理由は誰かを守るためであり、敵討ちをしても死者が戻ってくる訳ではないという考え方を持ってる。そんな香に憎しみで敵に銃口を向けさせるにはそれなりの理由がないといけない。そういう面で今回の香の父親の設定を変えたことは香を極限まで追いこみ、行動に説得力を持たせている。

「槇村香は撃たない」

今回ここを守ってくれたのは本当に大きい。多分ここで当てずとも撃っていたら正直この作品を見る目が変わっていたと思う。私が思う槇村香は憎しみではトリガーを引かない。ここで自らの意思で銃を下ろす香の心の強さが出ていた。
そしてその香の選択を隣で黙って見守る冴羽獠に「らしさ」を感じた。
香の選択を見届けた上で、獠は敵討ちという香からの「依頼」を槇村の形見であるコルトローマンにて完遂。冴羽獠は香には背負わせない。完璧。

■現代においてシティーハンターを描く際の配慮

これは映画.comのインタビュー等でも言及されていたが冴羽獠が嫌われてしまうことは避けるという配慮がされていて、それが伺えた。
冴羽獠 は女性と見ると飛びつくし覗きもする(※香が止めてくれるという前提があるからだが)
昔も駄目だが今はよりその行動が嫌われる原因になってしまう。だが冴羽獠の女好きという側面を無くしたら冴羽獠とは違ったキャラクターになる。
自分からは無闇に女性に触らない、そしてその女好きな面を周りから利用されるのを前面に出すことによって憎めないキャラクター性を出している。
香に関しても少し変えていて、Netflix版の香は原作より自立心が強く描かれている。槇村すらも守りたいと思っていたという程。原作では獠に守られてみたいと甘えが出て獠から叱責される場面がある。(獠への恋愛感情から来ている側面もある)そこから香が奮起し成長していく面白さが原作にはあるがNetflix版の香は最初からかなり自立した女性として存在しており、より今の時代に受け入れやすいキャラクター像になっている。
原作のキャラクターの秀逸さに加え、そのバランス調整が今回の絶賛に繋がっているのだと思う。配慮に感謝。

■冴羽獠の思考

冴羽獠は自分の心情をとにかく語らない。モノローグすら殆どない。
原作の冴羽獠は瞳で語る。それは北条先生の圧倒的画力があるからなせる技であり、では実写ではどうするのか。
鈴木亮平さんの表情の演技と、演出で見せている。
くるみに「死んだら駄目」と告げる香や、屋上のシーン、戦闘の中の香とのやり取りで槇村とセリフが重なるところ等、要所で獠の表情を抜いて、「槇村香」への見方が変わっていく過程を描いている。
今まで断っていた香の依頼を引き受けたのも「心が震えた」と分かるようになっている。森田さんの演技が真に迫るものだったのも、よりそこの部分が伝わりやすくなっていた。
今回特に怒りの演技が素晴らしかった。冴羽獠 は相棒を殺されてずっと怒っていた。
ただそれを表に出すことはせずに「香を守る」という最期の槇村の依頼を胸に、自分の為すべきことを粛々と進めていた。
隠れていた冴羽獠の怒りが「俺のパートナーを殺ったんだ。黙ってあの世で土下座してろ!」で爆ぜる。
そして香を追い込む今野(狐)を黙らせる防弾ガラスへの銃弾。間髪入れずのワンホールショットに怒りを感じるものの、ただ怒りに任せるのではなく次の行動につながる冷静さを見せているのも流石冴羽獠という描写だった。防弾ガラスを破るための撃ち込みとなっており、残弾数も計算されていてる。
冴羽獠は銃の腕前だけでなく、この常に先を見据えた迅速かつ冷静な判断、思考力が故の裏社会No1という説得力を持たせている。

■シティーハンター

パラレル作品の「エンジェルハート」でとくに語られていたが、依頼人に寄り添う優しい心がシティーハンターの資格というのが根底にある。香は兄を喪った直後にも関わらず常にくるみに寄り添い、彼女の夢を応援していた。自分がどんな目にあっていてもくるみの元に駆け寄る。ここが作中徹底できてたのも、獠が相棒として香を受け入れる流れの理由付けに一役買っている。

すべてが終わった後、香は槇村の墓(西洋風墓石!)へ花束を手向け、清々しい笑顔を見せている。くるみも希望を持って未来へ踏み出していく姿は非常にシティーハンターらしい。依頼人の心も救ってこそのシティーハンター。

最後の最後で獠と香がお互いの名前を呼び、本当の意味でのシティーハンターとしての二人が始動する。鈴木さんの「香ぃ〜」呼びに喜びが乗りすぎている。

原作でも香が大切に持っていた香と槇村の写真のアップと共に、Get Wild Continualが流れ始め、アニメで定番の「ハンマーオチ」がシティーハンターを観たという充足感を与え、非常に心地良い。

Get Wild退勤という言葉も流行ったが、この爽快感が何よりシティーハンターにおいては重要だと思う。

■オマージュ(おまけ)

※独断と偏見(意図してないものや漏れあると思います)

  • 獠の「お待たせ」という台詞
    →新宿プライベート・アイズの「待たせたな」の台詞

  • 下品なアラジンや発砲時のスロー演出
    →フランス版

  • ミニのキーホルダー
    →トンボモチーフ

  • カラスのステッカー
    →ずっこけカラス

  • 槇村のテーブルナイフでの攻撃
    →原作(6話)

  • 獠の裸踊り
    →新宿プライベート・アイズ

  • 虹の橋
    →CHパラレル「エンジェル・ハート」で槇村秀幸が殺害された場所(79話)

  • ボンテージファッションの敵
    →原作(97話)

  • 香のハンマーの柄が粉砕される
    →原作 (215話)天野翔子回

  • 香の防弾ベスト
    →フランス版

  • ナットを撃って回す
    →アニメ シティーハンター2「さらばハードボイルドシティー」通称セイラ回

  • タンクが噴射するシーン
    →フランス版

  • 防弾ガラスで仕切られた部屋
    →原作(315話〜)

  • 冴羽獠の部屋
    →原作、アニメ、その他
    (ブラインド、部屋の小物:ラッキーストライク、キャッツカード、岡村靖幸「SUPER GIRL」CDなど)

  • ラストの獠と香の衣装
    →アニメシリーズと同じ原色の赤Tシャツ。香は新宿プライベート・アイズの衣装。

  • 槇村と香の写真
    →原作(8話)他

  • ホトトギスの押し花のキーホルダー
    →原作(336話) 尊い…

  • 香が獠をハンマーで追いかけるところからの止めて引いてGet Wild
    →アニメ

  • ラストの伝言板のXYZの文字が浮き出る演出
    →新宿プライベート・アイズのラストと同じ演出。

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