【対談#6】 北海道大学大学職員×チャレンジフィールド北海道 「変わる大学」
「将来世代のために、希望あふれる地域社会を共につくりたい」
「人と組織と地域が『自分ごと』として関わり、共に成長したい。」
そのために私たちができることとは、どんなことでしょうか?
第6回の対談相手は、北海道大学 学務部学務企画課 大学院教育改革推進室の内藤さんです。内藤さんは大学職員として大学院生と社会とをつなぐ仕事をしていますが、実は「大学職員っぽくない職員」として界隈では有名な方。北海道大学の「えぞ財団」加入の立役者でもあります。対談の最中もキレキレの発言が相次ぎました(ここではマイルドに書いています)。その言葉を支えるのは、現実とあるべき姿をしっかりと見定め、そのギャップをどう埋められるかを合理的に考える視点です。
地域活性化支援のために大学の知を社会に還元していく支援を行うチャレンジフィールド北海道の山田総括と、大学職員である内藤さんから見える大学や、社会の中であるべき大学像について語り合っていただきました。
―――――内藤さんは、どんな北海道大学職員なのでしょう?
内藤さん(以下内藤):あまり大学が望む理想的な職員ではないかもしれません(笑)。
大学職員以外にもNPO法人や任意団体でも活動しています。その前はエンジニアとしてWebアプリケーション開発に従事していました。でも今の妻と結婚する時に、より安定した仕事を求めて北海道大学に転職しました。バックオフィスの仕事であれば、エンジニアの強みが生かせるだろうと考えながら研究者・教職員の人事労務を担当して、約8年間その業務に携わっていましたが、昨秋から大学院生と社会をつなげることで知の循環を生み出す、大学院教育改革推進室で仕事をしています。
山田総括(以下山田):北海道大学に転職してみていかがですか?
内藤:良く言えば真面目で伝統を重んじる気風で、和を大切にするけど個人主義だったりドライだったりする側面もあります。働き方に関しては、私はもともと「サイボウズ式」な考え方が好きで、チームワークをどう引き出せるかを重要視しています。
私自身は社会人になってから勉強する機会を作るようにはしていましたが、Cybozu Daysというイベントに行ったことをきっかけに、それまで自己完結していたインプットから一歩飛び越え、もっと有志でつながってチャレンジできるような場づくりがしてみたいと思い、「EZOの和」という任意団体を立ち上げました。その後、「NPO法人ハタモク」や「えぞ財団」の理念にも共感して、そちらの活動にも顔を出しています。
山田:職員の数だけで小さな市町村の人口くらいある大組織の北海道大学では、大戦略が重視され、ボトムアップの活動は日の目を見づらいのではないかと思います。この「組織」とご自身の「有志活動」を融合しようとしているのでしょうか?それとも二足のわらじ?チャレンジフィールド北海道でも、有志活動や自発的な活動をどう集合知として生かすか、頭を悩ませています。
内藤:融合できたら嬉しいですし、でも二足のわらじでもよいと思ってます。以前の会社では直接仕事に関係するかは気にせず勉強している人が多くて、常に学びのある環境が刺激的でした。ただ根底にあるのは、ふつうに毎日楽しく過ごしたいと思っているだけで、日々をもっと前向きにという感じです。逆に、それが大学の中で目立つかどうかは気にしたことはないですね。
山田:北大生含め、若い人たちがこれから社会に出るときには、生活の糧を稼ぐほかに、副業・兼業などでパラレルキャリアを築いて自己実現をしていくようなスタイルが良いのでしょうね。
内藤:おっしゃる通りですね。大学の研究者に接していて、研究者ほど「職業研究者」しかキャリアが無いと思ってしまいがちに見受けられます。研究者になりたいのか、研究がやりたいのか、どっちなのだろう?と。産業界も競合は多いですが、研究の世界こそ競合が多い。だからこそ、シーン毎に使い分ける何人かの自分の集合体として、1本の人生を創っていくのが良いと思いますね。
山田:いいですね。世界における日本の低学歴化や、博士人材不足の原因を、すぐ平均値的な話を持ち出して「生活資金が無いからだ」と結論付けたがるけど、そうじゃないですよね。GAFAを中心に世界では新しいことが次々に生まれてくるのに、5年間同じ研究をやるなんて、普通に考えたらつまらないと感じてもおかしくない。そういう当事者意識、常識的な感覚と、組織の大戦略とをうまく組み合わせたところで大学改革が進むでは、と思いますね。
その大学改革が担当業務となった今、組織の大戦略の中で、内藤さんがもつ豊かな経験、当事者意識、見る人によってはチャラついたと見られるような活動を組み込んで、オーソライズしていく必要がありますよね。それは大変ではないですか?
内藤:こう見えて、色々作戦を考えて組織の中で動くのですごく気を遣ってます(笑)。昨年えぞ財団に法人入団したのですが、それだけだと結局大学が何を考えているのかという「魂」の部分が見えません。それで昨年10月のNoMapsでセッションを設け、寳金総長とえぞ財団の成田さん、サツドラの富山社長に登壇してもらいました。その場で寳金総長が、「大学をオープンな場にしていきたい、教職員や学生はオープンマインドをもってほしい」とお話されました。その言葉があったおかげで、私たちとしてはずいぶん動きやすくなったと感じます。
山田:担当理事も協力的なのでしょうか。
内藤:はい。ふたりのトップが同じ方向を向き、しかも早歩き以上のスピードで突き進んでくれています。そして自分の言葉でありたい大学像を語ってくれる。こんなチャンスはめったにないことだと思っています。こういう環境もあって、今は仕事がすごく楽しくて毎日ワクワクしています。
―――――北海道大学は、今変化の時を迎えているでしょうか?
山田:今の大学マネジメントについて、内藤さんはどう見ていますか?
内藤:北海道大学の中で経営者が大学マネジメントできるようになるように、そして研究者が研究に集中できるような組織に変えたいと思っています。そして、経営者が大学経営を担うからと言って、事務職員は関係ないとも思ってません。
山田:現場におられる内藤さんとしてはどんな大学像を望んでいますか?
内藤:自分の職種や立場を一旦置いて、ひとりの職員としての夢を語ると、どんな手段でもいいから、強い大学を作りたいとずっと思っています。北海道大学に転職した2016年当時は、TPPの議論が盛んでした。自由市場が拡大し、日本の教育市場も競争市場化して、もし海外の高等教育法人が入ってきたら今の日本の国立大学法人なんてあっという間に負けてしまうのではと不安になりました。
その後「強い」の定義は10年でいろいろ変わって来てはいますが、大事なのは経営ができる人による大学経営だと思っています。そのためにはプロ経営者と、その周りには大学のことを本気で考える、現場感覚を有した教員や職員が必要です。
山田:完全にアグリ―ですね。業務効率化のためには組織や役割を細分化し、こなす作業に落とし込んでしまいがちですが、実はそれではワークしない。どこかで全体像に関わることをしていかないといけないですよね。大学全体として、理念はどうあるべきか、大学の役割は「研究」と「教育」でいいのか等、一人ひとりが考えるようになると心強いです。
放っておいたら、アメリカをはじめとした海外勢が圧倒的な競争力で圧力をかけてきます。大きな流れに竿は差せませんが、すべてを持って行かれる前にしっかりと考えておかなければなりません。
内藤:大学は部局の壁を越えるのがとても難しい組織ですが、理念・意識を高くもった先生や研究者が「大学が方針を示して部局の壁を壊してもらわないと変わらない」と意見してくれています。大学院教育改革推進室ではそういう声に向き合って、博士課程の大学院生を社会で活躍させる取り組みを行っていますが、そこでは部局の壁を取っ払った状態で、やりたいことにチャレンジできる環境をどんどん増やしていっています。
山田:特区みたいでいいですね。個人・人に賭ける、ということが大切なのかもしれません。一国一城の主である所長やセンター長にいろいろ任せてみると、どんどん変化が起き、圧倒的に実績が上がっていきますからね。
―――――大学ができることって何でしょう?
山田:大学には、問題提起とアクションのトリガーをかけることを期待しています。そこが実は民間企業や自治体がやりにくいところでもある。でもだからといって大学に完璧を求める気風は違うと思いますね。
内藤:実は現在、大学から「世界観の提案」ができないだろうか、と考えていました。大学が社会と関わる取り組みをする場合、社会に還元しているのは多くの場合ソリューションです。それは理系の研究者が得意とする分野ですが、一方文系の研究者は人間社会のメカニズム解明やあるべき姿について研究をしています。技術開発と並行して、そうした世界観、哲学、あるべき姿も提案することが大学として大切ではないかと思っています。
山田:そういうことが大学中心にできていくといいですよね。目的志向で、ダイバーシティの考え方を取り込み、来るべき将来に提言していくようなことはとても健全だと思います。
内藤:ひとりの人間の場合を考えても、哲学をもっている人は幸せになれると思っています。それを組織として実行できればいいだけのことかなと。何かにつけて課題解決と言いがちですが、ひとりの人間としてどう考えるか、どう行動するかと同じように、組織の視点で考えられればよいだけだと思っています。
山田:文系の研究・学生にも期待したいですね。
対談は、内藤さんの子育て話にまで及びました。小学2年生の息子さんとは「ただひたすら遊んでいます」とのこと。息子さんは内藤さんには無い視点での発見を教えてくれるなど、子育てから学ぶことが多いそうです。
個人の集まりであるはずの組織も、規模が大きくなるほど組織の論理が働き、一人ひとりの「想い」や「魂」の部分が薄れてしまいがちです。教科書通りとはいかない子育てに日々奮闘し、自分の課題意識や気持ちに素直に活動をしている内藤さんが思い描く大学のあるべき姿は、組織のビジョンと個々の取り組み、それぞれの想いが循環し、とても“健康”だと感じました。チャレンジフィールド北海道も「想い」と「魂」を持ち、またそれらを持った人とつながり、“健康”な北海道をめざしていきたいと思います。(和田)
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