The power of Us 『わたしたち』のパワフルさ。アディダス・カナディアン・Think Different・キング牧師
ひとは何かしらの社会、集団に所属している。
「〇〇会社の✕✕部門の△△です」と自己紹介するとき、わたしは個人ではなく集団のアイデンティティを背負っている。
「じぶんらしさってなんだろう」と考えるとき、日々いっしょに過ごす人たちの存在にじぶんがどれだけ密接に影響を受けているか。人が集まり、同調し、アイデンティティを共有する。その理由やメリットについて、『The Power of Us』から学んだことを紹介したい。(ちなみに「私たちは同調する」がセンターにでかでかと書かれたこの装丁に、わたしは同調しない)
兄弟げんかが街中のけんかに
二人の兄弟げんかが、町をまっぷたつに分けることがある。
ドイツのヘルツォーゲンアウラッハは、世界大手シューズメーカーであるアディダスとプーマの本拠地がある。この2社が、まさに町を分断させた2人の兄弟の対立からうまれた。
兄弟の対立がどうして深まったのかは、諸説あるようだが、同じ街に住む住民たちも総出でこの対立に参加するようになる。
同じ会社の社員ならまだしも、どうして町の住民たちまでこの争いに足をつっこんだのか。それが本書がつきつめようとしている一番の問題だ。
ひとが同調する3つの理由
仲のいい人が履いてる靴をじぶんも履いたり、同じ本を読んだり、同じお店に行ったり。人は周囲の人になるべく合わせて、協調性を示したり、共通の話題をつくって、さらに仲良くなる。
じぶんたちとは別の集団がしているから、じぶんたちはしない、ということを選択することもあるし、別の集団がしないからじぶんたちはする、ということもある。
はたからみるとそこまでしなくても、、と思うことは多い。転職して入った会社に独自な文化(毎日同じ制服を着てたり、無意識に同じ口癖がうつっていたり)があると、ちょっとした宗教性のようなものを感じてしまう。
アイデンティティを共有するメリット
カナダで最も歴史あるビール会社、モルソンの2000年のキャンペーン。
「I am Canadian」というタイトルのとおり、カナダとアメリカを対比することでじぶんたちが何者なのかを強く意識させる内容だ。(ちなみにビールの名前もカナディアン)この1分のCMは成功し、ビールが売れただけでなく、カナダ人の一体感と独自性の2つで多くの人々から共感された。
国や企業やコミュニティ。集団の一員になることは、なんと健康にもいい。
『Think Different』は最強のアイデンティティ
どんな集団の一員になりたいか、と聞かれて、まっさきに思い浮かぶ会社のひとつはAppleだろう。ユニークさを大事にする革新的な会社というイメージは1984年の『Think Different』キャンペーンで強く打ち出された。
アインシュタイン、パブロ・ピカソなど、これまでの常識や社会通念を打ち破ってきた著名人たち。彼らのように「ひととちがうことを考える」ことを大事にするブランドは最強だ。
iPhoneをもつ=みんなと同じ&みんなと違う。日本人の多くがApple製品を好んでいるのも、協調性をおもんじる国民だからこそ。Apple社員にはなれなくとも、Appleのファンとして支持することはできる。多数派でありながらユニークでもあるなんて、たしかにそんなブランドなかなかない。
道徳的な『目の上のたんこぶ』
「I have a dream. (私には夢がある)」と演説をしたキング牧師。人種差別と闘い、演説をして、その翌年のノーベル平和賞を受賞した直後、彼を好意的に評価する人は多かったことだろう。とおもいきや、そうではない。
1966年に彼を好意的にみていたのはたったの33%。一方で否定的な意見は63%もあった。黒人を支援するためのアクションを継続的に推し進めるキング牧師は、白人からすると脅威であったのはまちがいない。しかしそれだけではなさそうだ。
身近ないい人は、目の上のたんこぶ。「わたしたち」とはいえない良い人は、むしろ邪魔で嫌われ者になってしまう。自分ができないことをやってのけてしまう善人は、自分の存在を小さくしてしまいかねない敵なのだ。
わたしたちと、わたしを生きる
みんな自分が素晴らしい存在とまでは言えなくても、平均以上だとは思っていたい。数えきれないほどに人がたくさんいて、自分なんて大した存在じゃないんだってわかっていても、かけがえない唯一無二のじぶんだと、こっそりひっそりとでも思っていたい。
正解がない、確実なものがなにひとつない現代。だからこそ、周囲と手を取り合い、協力しないといけないし、じぶんらしさも必要。
わたしらしく、わたしたちと、わたしを生きる。
「じぶんってなんなんだろう」
「ひとと生きるのってなんでなんだろう」
そんなことを考えることがあるあなたに、おすすめの一冊です。