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【自由詩】矢車菊色に染まりたい〜企画:色のある風景〜

矢車菊色の海
その単語を見たとき
思わずわあっと声がこぼれた

そんな海だったら行ってみたい
そんな海だったら人魚になってもいい

矢車菊という単語をそっと指でなぞる
正直言うと人魚姫は好きじゃない
だって女の子としては悲しすぎるもん

最後は風の精霊なんていう
人を超越した何かになった彼女は
本当の意味での幸せを掴んだのかもしれない

でも夢見る年頃の私たちには
やっぱり今が大事なわけで
だから人魚姫にはなれないと思ったけど
だけど矢車菊色の海だったら

海はいつか
色というより花に埋め尽くされて
薄いレースみたいなさざ波が
そっとそっと私に触れれば
鱗は硬くて冷たい何かじゃなくて
柔らかで羽のように軽い矢車菊色

あゝ素敵
人魚姫になりたいわ
矢車菊色の海に飛び込みたいと囁けば
向かいの席で顔を上げた彼

静かな館内に似つかわしい
吐息みたいなその声は
だけどどこか切羽詰まって

それは困るな
そんな遠くに行かれちゃったら
いくら矢車菊が好きだからって
それはあんまりだ

私は真正面で揺れる青を見た
矢車菊色の青
大好きな大好きな青
その青を見つめて心の中で呟く

あなたの瞳が矢車菊色だからよ
だから行ってみたかったの
それだとあなたにずっと
包まれているみたいでしょ

焦れたように彼が口を開く
矢車菊色の何か買ってあげようか
そしたらもう
人魚になるなんて言わない?
さっきより下がった眉尻
何よりも大切な青が揺らめいている

私は静かに腰を上げ
机に身を乗り出して顔を近づけた
鼻と鼻を擦りあわさんばかりの距離

もう持っているから大丈夫
一番近くにあって
一番好きなものだから

そう答えてそっと口づければ
無数に舞い踊る矢車菊の花びら
華やぐ青が世界を包みこむ

あゝここはもう矢車菊色の海

満ち足りて満ち足りて
あぶくなんかになる筈もない
私は静かに目を閉じた

遠く聞こえるのは潮騒かしら
いいえ
きっと風に揺れる花たちのざわめき
私の青の優しい呼びかけ


何色にするか迷ったんですが、やっぱり青に。
それも一番好きな矢車菊色で。

コーンフラワーブルー。
最も高貴なサファイアの色。
思い浮かべれば妄想爆発間違いなしの色。

同じようなシチュエーションの2人を
かつて140字の詩としても書いたのですが、
ちょっと物足りなかったので。

今日は思う存分書けました、楽しかったです。
相変わらず青い目がす(以下、自主規制)。

三羽さん、素敵な機会をありがとうございました!

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