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エッセイ|第32話 薔薇と月光、創作の原点を追う旅

私は1/12スケールのドールハウス作りが趣味で、シャビーシック/シャンペトル・シャビーをテーマに色々と詰め込んでいる。

絵画もその一つ。大きさにはあまりこだわらない。気に入った額がある場合はそれに合わせて、ない場合は自分が見たいサイズで。

そんな風にあれこれ用意していたらかなりの数になった。部屋は6つだから全部は飾れない。しかし、名作を取っ替え引っ替えとか、美術館も真っ青の贅沢だ。

さらに最近、コレクションにアンリ・ル・シダネルが加わった。彼の作品を見たのは本当たまたまだった。けれど、一面薔薇に覆われた村の家の絵、その色合いにいっぺんに魅了された。

急ぎ他の作品も閲覧すれば、月光下の薔薇や家々の白壁、テラスの食事風景など、私が好んで詩や小説の中に書くような世界が広がっていた。これを飾らずしてどうする。私は嬉々として気に入ったものをダウンロードした。

そこでようやく一息ついて、作家自身を紐解く。彼は戦争で荒れ果てた中世の面影を残す村に移り住み、そこに薔薇を植えた人だった。村中を薔薇で埋め尽くしたのだ。今やその村は「フランスで最も美しい村」の一つに名を連ねている。

正直いうと、私にとって大切なのは彼の絵画の中の世界であって、現実世界で起こっている町おこし的なイベントではなく……。しかし彼の作った庭が公開されていると聞いて、俄然興味が湧いた。

私は、創作の原点は自然に中にあると思っている。だから庭を植物を愛し、そこからインスピレーションを得ている人には共感しかない。さらにそれが大好きな薔薇ともなればなおのこと。ガーデナーの端くれとしても心騒ぐ。

いつかシダネルの庭を訪れたい。もし許されるなら、薔薇の季節に、白い月光が投げかけられる静かな時間を、心ゆくまで楽しみたい。

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