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【写真日記と詩】紫に溶ける夢

忙しい1日の終わり、
駐車場脇の大きな木。
紫色の花が満開で、
ジャカランダかと思ったけれど
北の街に咲くはずもない。
落ちた枝を持ち帰り、それが桐だと知った。

桐?
アメリカでは paulownia(ポローニア)。
princess tree とも言う。
観賞用として愛されているけれど、
一方で繁殖力が強く
国立公園では外来種として駆除対象だとか。

芝生の上に散らばる花、花、花。
夕暮れ間近の淡い時間の中で
失われつつある紫が
なんとも幻想的だった。
少しだけ「今」から離れ、
思考の海をさまよってみた。


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散り落ちた紫が地面を覆う
日没は木立の向こうで
刺すような光は届かないから
やがて紫は静かに世界に溶け入る

見たこともない花が
ありもしない記憶を作る

穏やかな春の午後の
誰かの笑い声
幸せという言葉を噛みしめる
そんな時間は
指先に絡まる蜜を通して

それは欲しかったものなのか
そんな気はちっともしなかったけれど
きっと悪くはないのだろう

私の人生は
果たして今
私が見つめているものなのか

何もかもが本当は
よくできた物語なのではないかと
それは喜びなのか悲しみなのか

生きるということは
たぶん夢見ることで
呆れながらもおそらく
それなしではいられないのだろう

影を引き寄せる花の横顔
紫がふと笑ったような気がして
香りの中でそっと目を閉じる

夢の続きはなんだろう


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