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【アルギュストスの青い翅】第5話 人魚の試練
ヴィーの両親は運河沿いの邸宅の半地下に運河の水を引き入れた部屋を作ることにした。 ベッドや書棚やデスクなども置いてあるけれど、半分以上がプールになっている部屋だ。
ヴィーはそこで思う存分身体を動かせるようになった。気がつけば一日の大半を水の中で過ごすようになり、ずば抜けて泳ぎがうまくなった。彼はまさに「今を生きる人魚」のように水と戯れたのだ。
傍目にはずいぶん異常な日常だろう。けれど、それを
【アルギュストスの青い翅】第4話 深夜の小舟
ヴィーは俺の言葉に目を丸くしたあと弾けるように笑った。
「神秘的なって。いつから気味が悪いことが神秘的になったの?」
「大きく括ればさ、想像を超えた異次元的な? 俺はさ、綺麗なものが好きなんだよね。言葉だって同じさ、やっぱり綺麗な方がいい。気味が悪い、じゃないよ。神秘的な、だ。だからヴィー、今夜はきみの神秘的な話を頼むよ」
「……ありがとう。じゃあ……」
そっと舟を寄せ、ヴィーは濡れている
【アルギュストスの青い翅】第2話 満月の運河
黄金色の巨大な月が、建物の角から顔を出した。すり減った石畳が照らし出される。光の道だ。導かれるようにその上を歩く。
運河はまっすぐ目の前。レンガ作りの建物の間を抜ければ、運河と平行して走る道に出る。そこを左へ折れてしばらく行くと小さな船着き場が見えてくる。
運河に張り出したその場所には柵などなく、すとんと切り落とされてすぐに水面だ。俺のお気に入りの場所。いつものように縁に腰を下ろせば、水はま
【アルギュストスの青い翅】 第1話 始まりの青
あらすじ
第1話 始まりの青
「J、きみの生まれ故郷って本当、聞けば聞くほどおとぎ話の世界みたいだよね」
「あぁ……すごすぎてため息しか出ないな。そんな場所がこの世界にあるなんてな……」
「ありがとう、みんな。気に入ってもらえて嬉しいよ。だけど、まだまだなんだよな……もどかしいよ……。あの風景はね……そうだな、やっぱり自分の目で見て感じてもらわないとダメなのかもしれない」
俺の言葉に、集ま