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読者について語るときにメディアの語ること ー広告主様と考えるコンテンツマーケティング/花王 廣澤様インタビュー 後編

皆さまこんにちは。CCI Lifestyle Digital CONNECTです。

前回の投稿では「広告主様と考えるコンテンツマーケティング」シリーズ第一段といたしまして花王株式会社 廣澤 祐 様のインタビュー記事 前編をお届けいたしました。今回はその後編となります。

後編では前回の流れをうけて、メディアが自身の読者を語る重要性クッキーレス時代のコンテンツメディアとは、メディア自身が広告枠と向き合うことなどをテーマに廣澤様にお話をお聞きいたします。

<ゲストプロフィール>

廣澤さん

廣澤 祐
花王株式会社 DX戦略推進センター DXデザイン部 戦略企画室

2015年に花王株式会社へ入社し、デジタルマーケティングを経験したのち化粧品ブランドのマーケティングに従事。
2021年1月より現職。
2021年4月より一橋大学大学院経営管理研究科博士後期課程へ在籍。

<インタビュアープロフィール>

加工舟山②

舟山 隆明
株式会社CARTA COMMUNICATIONS 
メディアソリューション・ディビジョン

2007年株式会社オプトに新卒入社。
2011年株式会社サイバー・コミュニケーションズ入社。
IT・ビジネス系媒体担当などを経験後、株式会社電通へ出向。
某大手トイレタリー・化粧品メーカーのWeb広告担当営業として従事。
帰任後、Amazon、美容系・ファッション系メディア、生活系メディアのチーム・マネージャーを経て、2021年にCCI社内プロジェクト『CCI Lifestyle Digital CONNECT』を立ち上げ。

「SNSだけ」では決め手にならない

廣澤「個人的な話になってしまうのですが、今日(※インタビュー当日)のお昼に近所のオープンしたばかりの焼肉屋でユッケ丼を食べたんです。

それで、何故そのお店に入ることになったかというと、地元の商店街でチラシや看板は見かけていたのですが、新しいお店でしたし看板などのデザインやコンテンツがいまいちピンとこなくて入る気がしませんでした。笑

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舟山「なぜその状態からお店に入ったのか気になりますね。笑」

廣澤「ある日Instagramでフォローしているグルメアカウントの方がそのお店について投稿していたんです。Webではまだ何の評価もされてないっぽいけど、入ってみたら美味しかった、と。そこですこし興味が湧きました。

とはいえ、そのグルメアカウントの方をよく知ってるわけではなく、熱心なフォロワーというわけでもないので、Googleでそのお店を検索してみました。そうしたら某有名店から派生した隠れ家的なお店であると紹介しているWebメディアの記事を見つけまして、一気に気になったんです。

つまり、Instagramのグルメアカウントの投稿だけでは決め手にならなかったんですね。実際に行ってみようという気になったのは検索して出てきた記事のおかげです

グルメアカウントの投稿はいくらフォロワーが多いアカウントでも、結局は個人の感想にすぎないので信頼して行ってみる、というところまでは至りませんでした。しかし、それが調べたく成る程度のキッカケとして作用し、検索した結果、ちゃんとした取材に基づいたWEBメディアの記事にたどり着き、詳細情報を知り、最終的に行くという意思決定をしたことになります。

このような行動経路を計測することは難しいですが、だれもが同じような経験をされたことがあるのではないでしょうか

舟山「私も似たような経験を何度もしているのでよくわかります。

一方で、広告主様から「バズり」を目的にしたSNS施策を求められることも多々あります。バズった内容を見て商品を購入する方もいらっしゃると思いますが、廣澤さんと同じく決め手にならない方も多いのではないでしょうか。先ほど仰ってた通り、バズったあとにはWebなりSNSなりでの検索がされると思います

検索してみて信頼度が増す情報があれば、それが決め手になると思います。コスメ商材であれば@cosmeやLIPSの口コミを調べるようなことですね。ただ、信頼できる情報をどう配置させるかが非常に重要だと思います。そして、その情報はオウンドサイト以外でも発信されていることで信頼性が増すのではないでしょうか。生活者の受け皿になることもコンテンツメディアの役割の一つだと思います

いかに「読者」を語るか

廣澤「はい、そうだと思います。

このような導線を広告主側に信じさせるのはなかなか難しいと思いますが、まずはメディア自身が信じなければいけないと思います。ただ、昨今ではWebメディア自身がこのようなストーリーを信じられなくなっているのではないかという印象も受けております

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舟山「何故そのように思うのでしょうか」

廣澤「メディアの方は「読者にはこういう人がいまして」ということを広告主に対してしっかりと商談の場で説明するべきだと考えています。それは20代女性が多いとか主婦が多いといったプロフィール的な情報だけではありません。そのような全体傾向も大切ですが、どのような生活スタイルや消費行動をとっているのか、どんな人柄のなのかといった定性的な部分も含めて、どんな読者であるかを具体的にイメージできるよう語る必要があると思います

舟山「確かにそうですね。
私も広告主様にご提案の際にはメディアそのものよりも読者について詳細に話してましたそのようなご提案のほうが広告主様から喜ばれるケースが多かったです。まずは読者の行動を分析した内容を語り、そのうえでどのようなコンテンツを作ればいいかを議論していました」

廣澤「ただ、Webメディアではそのように読者を語る力が弱まっているように感じます」

Webメディアは読者を語る力が落ちているのか?

舟山「それはどんな時に感じられるのですか」

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廣澤「商談の際に、Webメディアの方に「読者はどんな方ですか」と尋ねると、Google Analyticsで取得してきたようなデモグラフィックデータがまず返ってくるんですね。ただ、媒体資料がメディア側のWEBサイトで公開されている場合は事前に大まかなデータは確認していますし、外部WEBサイトの分析ツールもあるので、調べればわかります。私が「読者はどんな方ですか」という質問をする時の意図は、もっと具体的な読者イメージに関する質問です。例えば、読者と実際にお会いした際のエピソードや公開したコンテンツに対して読者から○○という意見をいただいた、といった話です。定量的なデータも重要ですが、これだけでは読者像が見えてこないですよね

舟山「読者のペルソナが語られてない、ということですね」

廣澤「はい、そうですね。

データを元に読者のデモグラを出すのはもちろん大事ですが、それは最低限必要な情報になります。メディアの特色を決めるもののひとつとして、読者の好みや行動があると思いますが、そういった読者からの生の声がWebメディアから出てこないように思えるのです

舟山「昨今ですと口コミや閲覧行動などのユーザー行動をデータマイニングして広告主様へ提供するメディアも増えていると思います。こうした動きについてはどうお考えですか?」

廣澤「先ほどの繰り返しになりますが、データマイニングも定量的なものですよね。一方で私が述べている「読者」とは定性的なものになります。

データマイニングから意外な相関関係を見つけ出し、そこからコンテンツの切り口を考えるアプローチもそれはそれで面白いですし、重要な取り組みではあります。しかし、それだけで読者を語る、データだけで読者を語るのは危険だと思います。データは読者像とは異なりますので、やはり実際に読者と接してみない限りは読者像を理解しているとは言い難いのではないでしょうか

舟山「雑誌メディアでは読者の方が実際に誌面にでてきたりしますからね」

廣澤「そうですね。私は雑誌のプロフェッショナルというわけではないですが、雑誌の方がしっかり読者イメージをもっていると思います」

舟山「Webメディアならではの読者の語り方もあると思いますが」

廣澤「例として以前担当していたキュレルのシャンプー商材で話しますと、Webメディアの方から「『フケ シャンプー』という検索ワードで流入するユーザーや口コミが非常に多い状況です。なので、フケ対策のコンテンツ作りましょう!」というご提案をいただくとします。

ただ商材の特性上そのようなワードで流入してくることは想像に難しくないのですよね広告主側からすると「フケ」周辺でなにを気にしているのかのほうが知りたいわけです。その時に「フケ 中学生」「フケ 子供」というワードが出てきたとしましょう。これだけでもコンテンツの切り口のヒントにはなりますが、より読者に寄り添ったコンテンツに仕上げていくには、どんな背景でこうしたワードを調べているのか、具体的なストーリーが見えてこないと方向性が定まりませんし、想像だけではぼやけたコンテンツになってしまいます
そこを明らかにするのが読者の声だと思います
具体的には読者インタビューやOAなどで読者の声をすくいあげるやり方ですね。このようにデータを活用して課題の大枠をとらまえ、その背景にあるストーリーは読者の声からとらまえる、これを行うことによってその媒体ならではのコンテンツ施策が打てるのではないかと思います」

クッキーレスでコンテンツメディア回帰なるか?

舟山「今後3rdParty Cookie活用での規制が入りますが、その状況に期待を寄せているコンテンツ系媒体の方は多いのではないかと思います。ターゲティングでも制限がかかる分、コンテンツメディアへの純広出稿がまた盛り上がるのではないか、ということですね。しかしながら、私にはそのような楽観的な未来が待っているとは思えません。この「人から枠へ」の流れについて、廣澤さんはどうお考えでしょうか」

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廣澤「「人から枠へ」の流れは可能性としてはあると思います。純広枠の良し悪しがここ5~6年と比較して相対的に重要となってくるのは間違いないでしょう。なぜならば、クッキー規制によりプラットフォーマーでの配信オプティマイゼーションも厳しくなるからです。ただ、完全に純広枠のみのプランニングなるとは思いませんし、ターゲティング配信も残ると思いますすでに進行してしまった環境が、以前と全く同じ環境へと回帰することはありません。したがって、舟山さんのおっしゃる通り、楽観的に構えているのは危ういですね。

他方で、これまでプラットフォーマーの広告優位が続いたのは精緻なターゲティング等が非常に強みだったわけですが、この優位性が減退し、プラットフォーマーの広告でもリーチ重視に移行していくならば、改めてTV広告が重要視される可能性もありますね。例えば、少々乱暴ですが、プラットフォーマーの広告を用いて「美容関心」くらい広いターゲティング設定でimp重視の配信を行うならば、TV広告の方が良いと考える広告主も増えるかもしれません」

舟山「大まかなターゲティングであればTV広告のほうがいいとのことですが、それは何故でしょうか」

廣澤「現在のような精緻なターゲティングであれば顕在層にアプローチできるので、imp単価が高くても出稿するという判断ができました。シンプルな話で、ざっくりしたターゲティング設定でリーチ重視ならTV広告の方がリーチ単価が安く効率の良いケースは多分にあるからですね。TVはTVでコネクテッドTVなどの取り組みが進んでいますし、そこの差別性が弱くなれば、改めてTV重視の考え方が出てきても不思議ではありません

枠もコンテンツも知り尽くした先で

廣澤「これもキュレルを担当していた時ですが、同じ部署の先輩が「これだ!」と思った枠を全部純広で買ってみたことがあったんです。ターゲット層とコミュニケーションテーマを定めた上で、アドネットワークを全て止めてみたんですね。小さい案件だったので予算も少なかったですが、その時は先輩ご自身でメディアのコンテンツや枠を細かくチェックした上で出稿を決めていました

舟山「細かくチェックとは?」

廣澤「どういう風に広告枠が掲出されるのか、ユーザーの導線はどうなっているのか、ですね」

舟山「それはスゴい!笑」

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廣澤「結果としてはどの枠もアドネットワークに比べるとCPCもCPAも悪かったんです。ただ、それはわかりきってたことで、それを踏まえて「どうしでした?」と先輩に聞いてみました。

その返答は、

自分として(広告主目線で)は良いと思っていた枠が、意外とクリックもされないし数値が悪いという結果を踏まえると、恐らく読者にとってはあまり良い枠ではないのだろうね。UI的には目立っていて良いと思ったのだけど、読者が見たいのはココじゃないのだなと勉強になったよ。あらためて、枠を一つ一つ比較することで、結果がどのように異なってくるののか、なぜ結果が異なるのか、考えるきっかけになったよ』

と仰ってました」

舟山「まさに前編で廣澤さんが仰っていた「確からしさ」のお話に通ずることですね」

廣澤「そうですね。

このような知見はメディアの方がご自身で持つべきだと思います。知見をもとに枠の位置や導線を管理できるかがひとつの大きなポイントで、これができればより枠のマネタイズすることもできるはずです。

そして、こういう経験を積んでいくと、広告主から媒体社へ枠設計のオーダーもできるようになるでしょう。

もちろん、WEB媒体の広告枠は業界的に一般的な枠のパターンというものもありますし、その上で、日進月歩でUI・UXは洗練されていますので、効果の出やすい広告枠のフォーマットというのがある程度決まってくる可能性はあります。

しかし、自身のコンテンツを知り尽くしているメディアの方々が広告枠のマネジメントにさらに深い知見を持たれたら、面白い広告の見せ方や取り組みも出てくるかもしれません

舟山「そうですね、TV広告や紙面広告とちがって「枠」そのもののデザインができるのもWebならではですからね」

廣澤「ちなみに、媒体の個別枠を細かく検討していたのは先輩ですが、そのプランニングを横で眺めながら口出していた僕も、広告枠に向き合ってる感じが楽しかったですね。笑」

舟山「今どきそんなプランニングの仕方は珍しいですからね。笑
本日はいろいろとお話いただきまして、ありがとうございました」

いかがでしたでしょうか。
ご自身の経験も踏まえた廣澤様からのご知見が、皆様のコンテンツマーケティングにおける具体的な一助となるようでしたら、幸いです。

LDCでは今後も業界キーパーソンへのインタビューも行い、発信していきます。具体的な広告プランニングのご相談などは下記までお問合せください。

■お問合せ:ldc@cartahd.com

筆者:舟山 隆明

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