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第264号(2024年5月13日)プーチン政権5期目の行方と国防大臣の交代


【インサイト】プーチン政権5期目の行方と国防大臣の交代

悲願としての5期目

大統領就任式会場に入場するクレムリン連隊

 5月7日、プーチン大統領の任期が5期目に入りました。
 プーチンが大統領になったのは2000年のことですから、もう24年もロシアの最高権力者をやっていることになります。首相に退いていた2008-12年を除いても20年。もういい加減満足したらどうかと思うのですが、今回始まった5期目の任期は2030年まで続くことになっていますから、少なくもそれまでは権力を手放すつもりはないのでしょう。
 さらに2020年に改正された憲法の規定では、プーチンは2030年の選挙にも出られることになっています。こうなると2036年までプーチン、という未来も見えてきそうです。21世紀の実に3分の1がプーチン時代。プーチン政権下で生まれた若者が、大学を出て就職して家族を持っても、大統領はまだプーチン、ということが十分あり得るわけです(なんとなく東海道新幹線における静岡のポジションを想起させないでもない)。
 ただ、この長い権力の中でも、今回の第5期目は特別なものと言えるでしょう。プーチンは合法的な選挙で大統領となり、その後もエリツィン政権期に作られた憲法の規定に従って再任したり一時期に首相になったり(憲法で連続三選が禁じられていたため)してきました。ところが今回の2024年大統領選では、プーチンはとうとうこのパターンを破り、憲法の方をいじって出馬・当選を果たしています。具体的に言えば、連続三選を禁じる憲法の規定自体は「生涯二期まで」と明確化する一方、「憲法改正以前の大統領経験者についてはこれまでの任期をカウントしない」という付帯条項を設けました。これでプーチンは今回の大統領選挙に「新人」として立候補できたわけです。
 なんだそれ、という話ですが、そこまでして権力を手放したくなかったのでしょうし、それを国民に認めてもらう儀式が3月の大統領選だったわけです。そしてプーチンは権力者で居続けることを国民から認められ、5月7日の就任式に臨みました。とすると、2024年というのはプーチンが終身権力を国民に認めさせた画期、と言えるのかもしれませんし、そうであるが故に5期目というのは特別の、プーチンにとっては「悲願」であっただろうと思うのです。

新政権の顔ぶれ

 その上で注目したいのが、新政権の顔ぶれです。
 5月7日にプーチンが大統領に就任した時点で第4期目政権の大臣たちはみんな自動的に失職しました。その後は、新内閣ができるまでの間、それぞれが「XX大臣代行」という形で失職直前までの職務を引き継ぎます。5月9日の戦勝記念パレードでショイグが「国防大臣代行」として出席していたのはこのためです。したがって、プーチンが就任したら、今度はこれらの大臣たちがどういうポストに配置換えされるのか、誰が政権を去るのかという人事の季節がやってくるわけです。
 まずプーチンが決めたのは、ミハイル・ミシュスティン首相の続投でした。ロシアの首相は経済・社会・産業等の政策をまとめる役割とされていますが、少なくとも現時点ではロシア経済は戦時景気で悪くない状態にあり、軍需産業も制裁に耐えて大増産さえ達成しています。その舵取りを担ってきたミシュスティンをここで降ろすことは考えにくい、というのが事前の大方の予想であり、これがその通りになったという形です。政府を構成する省庁についても大きな変更はないことがプーチンの大統領令から確認できます。

留任が決まったミハイル・ミシュスティン首相

 とすると、次に問題になるのは首相の部下となる副首相や各省庁の大臣・長官人事でしょう。ここにおいて首相は、職掌内にある各分野の担当大臣を大統領に提案する権限を持つと憲法で定められています。これに大統領が同意することで内閣ができるわけです。例えば2020年に成立したミシュスティン内閣の顔ぶれはこんな感じでした(本メルマガ第70号)。

 今回も、ミシュスティンからは早速新たな内閣の顔ぶれ案が公表されました。第一副首相(経済・財政・運輸・インフラ等担当)のマンドレイ・ベロウソフが国防大臣に移動となり(後述)、これまで産業・貿易担当副首相だったデニス・マントゥロフが新たに第一副首相となったのが最も大きな変化でしょうか。ただ、ベロウソフが管轄していた諸分野のうち、経済部分はアレクサンドル・ノヴァク(元エネルギー大臣。今回新たに副首相に任命される見込み)が引き継ぐようです。また、環境・農業担当副首相のヴィクトリア・アブラムチェンコに代わってドミトリー・パトルシェフがその地位につきましたが(これまでは農業大臣)、この人は旧KGBの大物として知られる「あの」ニコライ・パトルシェフの息子です。
 これらの人事案は今後、大統領の承認を経て正式決定される見込みです。

荒れた国防大臣人事

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