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第247号(2023年12月11日)効かない制裁? 対露制裁の実効性を強化するためには


【今週のニュース】守勢に回るウクライナ ほか

戦時下ウクライナ人の意識

 ウクライナ国民に対する興味深い世論調査の結果が発表されたので紹介したい。
 まずは身近なところから死者が出たかという質問で、2022年には7割程度であったものが2023年にはこれが8割を超えた。特に家族や友人といった近しい人の死については、2022年に2割以下であったものが、今回は4割以上に達しており、戦争が人々の生活に次第に忍び寄っていることが窺われる。その一方、ウクライナの勝利を信じるという回答の比率はほとんど変化しておらず、民主主義を重視するとの声も同様であった。

外国人がロシア軍に入隊

 リャザン州の軍事委員会は、ロシア軍に多数の外国人が入隊しつつあることを明らかにした。ベラルーシ、タジキスタン、ウズベキスタンなどの旧ソ連諸国だけでなく、モロッコ、エジプト、キューバなどの「エキゾチックな国」からも入隊者があったという。

 ロシアでは2015年に連邦法「軍事義務及び軍事勤務について」が改正され、外国人が契約軍人としてロシア軍で勤務できるようになっていた。詳しくは以下を参照されたい。

守勢に回るウクライナ ゼレンシキーへのインタビュー

 11月30日、ウクライナのゼレンシキー大統領はハルキウでAP通信とのインタビューに答え、この戦争についての見方を直接語った。夏の反転攻勢が全く不満足な結果に終わったことを認めつつ、それはロシアへの降伏を意味しないとも強調。同時に、大地の凍りつく冬の戦争が困難なものになるだろうとも述べた。

 また、このインタビューでは、米国からの軍事支援の縮小に対する率直な懸念も示されているが、この点は次回に詳しく扱うことにしたい。
 ゼレンシキーは日本の日経新聞を含む複数社とのインタビューにも答えている。内容はAPに対して語ったものと大同小異だが、注目されるのは停戦を強く否定している点であろう。2度のミンスク合意を経ても結局、ロシアがまた侵略に及んだことを考えるなら、今停戦してもロシアは戦力を回復してまた攻めてくるだろう、というのがその理由である。

 かといって今のままでは戦争の先行きは厳しい。以上の二つのインタビューとほぼ同時期に行われた軍幹部との会談で、ゼレンシキーはドンバス地方を中心として要塞の構築に注力するとの方針を打ち出しており、事実上、当面は攻勢を諦めて防勢に徹する姿勢を示唆した。


【インサイト】効かない制裁? 対露制裁の実効性を強化するためには

それでも潰れないロシア経済

 プーチン大統領が2024年度の連邦予算を承認しました。国防費が10兆8000億ルーブルと過去最高水準に膨れ上がり、社会保障費を抜いて最大の支出項目になったことなどはこれまでにも予算案の時点で紹介してきたとおりです。国防費の膨張によって歳出全体も約36兆6607億ルーブルと過去最大規模に膨らみました。
 ただし、ロシアの財政がこれで破綻するという兆しは全くありません。ロシア経済を支えるエネルギー価格が比較的高止まりしているため、歳入も約35兆653億ルーブルとそれなりにあり、赤字は1兆6000億ルーブル弱に過ぎません。国民福祉資金(FNB)で十分吸収できてしまう額です。
 ただ、G7は、ロシアのエネルギー収入を封じ込めるための措置をとってきたはずです。それが昨年12月に発動されたいわゆる原油価格キャップ制であり、ロシアの原油をG7が決めた価格(60ドル/バレル)以上で売れないようにするというもの。具体的には、それ以上の価格でロシア産原油を輸出するタンカーには西側の(要するにロイズとかの)保険を提供しないというのが制裁を担保する手段でした。
 しかし、最近のキーウ経済学院による調査では、8-10月期にロシアから輸出された原油の99%は60ドル以上の価格で販売されていたとのこと。なぜそれが可能になったかといえば、

・保険なしでタンカーを運航してしまう(開き直り戦術)
・西側以外の保険会社から保険を提供してもらう(回避戦術)
・原油の販売価格を60ドル以下と偽って西側の保険会社から保険を提供してもらう(詐欺戦術)

 という三つの方法をロシアが用いているためであるといいます。

イランとロシアの「保険同盟」

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