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サバ旅@徳島 サバニストの“聖地巡礼”「鯖大師本坊」へ行ってみた

 サバ好きのみなサバ、突然ですが、「鯖大師(さばだいし)」って知ってますか?
 「大師」とは、弘法大師、つまり平安時代の有名な高僧・空海のこと。
で、なぜにこの弘法大師さまに「鯖」がくっついているのか?今回は、その謎を解き明かしに訪ねた、(古めの話で恐縮だが)2014年のサバ旅を振り返ってみようと思う。

 2014年12月初旬。ぼくはサバ関係の仕事で高知の土佐清水市へ行った帰り、徳島の南部にある八坂寺へ立ち寄ってみようと思い立った。なぜなら、八坂寺は別名「鯖大師本坊」と呼ばれているのだ。これはもう、サバニストとしては行かねばなるまいて!

 というわけで高知市街から3時間半ほどレンタカーを走らせた(四国って案外広いんだね…)。室戸岬を廻り、県境を越えて徳島の東海岸沿いに国道55号をひたすら走り、海陽町へ入ると、「鯖瀬」という集落に至る。もう、地名からして何このサバ感。ここに、件(くだん)の「鯖大師本坊」はあるのだ。

鯖大師本坊の画像
鯖大師本坊

 正式な寺名は八坂寺。高野山真言宗の古刹で、四国別格霊場第4番札所という、四国八十八箇所霊場の番外札所。つまり八十八箇所には含まれないが真言宗の開祖・弘法大師空海ゆかりであるという由緒正しきお寺である。
 本堂の大師像は絶対秘仏だが、大師堂に祀られた「鯖を持つ大師石像」は常時拝観できるのが有難い。写真で拝見したときからぜひとも直に拝みたかったので、いたく感激。あと大師堂の前にはサバの石像(!)も鎮座。コレできればわが家の玄関にも欲しい(笑)。
  
 その後、お寺の方へ挨拶して本堂に上がらせていただき、鯖大師の由来についての額も拝見でき、大満足。その由来は同寺の公式サイトにも詳しいが、ざくっと説明すると以下のような話である。
 昔、土佐国との国境に近い阿波国の土佐街道には「八坂八浜」と言われる難所があった。一人の馬子(荷物運搬人)が馬に塩サバを積んで通りかかった。そこで馬子は旅の僧に会い、塩サバを乞われたがその願いを拒否して立ち去ろうとした。すると僧は呪歌を唱え、馬が腹痛で苦しみ出した。馬子が僧に謝罪しサバを施捨したところ、僧は再び呪歌を唱え、馬の腹痛は治ったという。
 実はこの伝説、江戸時代以前には奈良時代の高僧・行基にまつわるもので、明治時代頃、空海に置き替えられたとする説も。また、登場人物や動物のバリエーションはあるものの青森から九州まで各地に同じような話が伝わっているのだとか。

鯖断ち奉納の画像
鯖断ち祈願

 鯖大師には「鯖断ち祈願」という独特の願掛け法がある。絵馬に開運や子宝成就、病気平癒など願い事を書いて奉納するのだが、このとき「3年間サバを口にしないことを誓う」と、願いが成就すると言われているのだ。
 さ、3年?3日の間違いじゃ? と思わず二度見してしまったほど、サバニストにとってはインパクトのある祈願法だ。成就できる気が全くしない…。しかし本来願掛けってめちゃくちゃ好きなモノを絶って願うものと言われるから、サバが昔から多くの人にとって食べずに暮らすのは困難なほど馴染みのある魚だった証左とも言えるかもしれない。

 さて、境内で本堂・大師堂と参拝したら、ちょうど腹も減ってきた。鯖大師というくらいだからサバ料理の店があるのではと期待してお寺の周囲をウロウロしてみたが、1軒もなかった(注:2014年当時)。
 ま、そりゃそうか。“鯖絶ち祈願”の寺の参道でサバのいい匂いがしていたら煩悩この上ないよな。なくて正解!と、徳島空港への道中に徳島ラーメンを食べて帰路に着いたのだった。

 そもそも、徳島で魚といえばハモや鯛が有名で、サバの噂は聞かないな。とは言っても海岸線の長い県だからサバもそれなりに獲れるんだろうと思って調べてみると、鳴門あたりでは季節によっては漁獲があるようだ。八坂寺の鯖大師伝説に出てくるサバ運搬業者。そのサバは鳴門で揚がったものか、いや、どちらかというとサバ漁が盛んな土佐方面から運んでいたのかな――前日の足摺岬で食した「清水さば」のコリコリした刺身を思い出しながら、そんなことを想像してみたりもした。

 ちなみに、「鯖大師」はほかにも千葉、愛知、福岡など全国各地に点在している。これはもう、サバ好きのための“お遍路旅”と言えるのではないか。だとすると“鯖印帳”なんて集められると嬉しいな~。自分で作っちゃおうかな?! それはさておき、鯖大師本坊、やはり"聖地"と言えるだろう。


大師堂の画像
青地に白い「鯖」の字が染め抜かれた幕も魅力的な、大師堂の正面。この中に、鯖を持ったお大師様がおわします。全国津々浦々で数々の伝説を残すお大師さまが、サバを右手にぶら下げていらっしゃる…ありがたや。

鯖の石像の画像
寺社仏閣にはいろんな動物の像があることが多いが、ここには堂々たるサバの像が。なんとなくシュールだけど心ときめくなあ。

四国霊場開創1200年の記念御影の画像
偶然にも四国霊場開創1200年にあたる2014年に行けたことが嬉しかった。いただいた記念御影は今もデスクの前に置いていて、特にサバの仕事をするときは心の中で一礼している。

JR阿佐東線の鯖瀬駅の画像
JR阿佐東線の鯖瀬駅はホームから海が望める小さな無人駅。ここから歩いても鯖大師はすぐだ。

鯖瀬駅から見た鯖大師本坊の画像
駅から鯖大師本坊が見える

<サバ旅のヒント> 
八坂寺(鯖大師本坊)
高野山真言宗。四国別格霊場第4番札所(番外札所)。
2014年時点では「鯖大師へんろ会館」という宿坊が隣接してあったのだが、残念なことに2022年10月31日で閉館された。

<アクセス情報>
車で:徳島駅から67km 、徳島阿波おどり空港から79km、高知龍馬空港からは117m。
公共交通で:JR牟岐線で徳島駅から約2時間(直通の場合)、「鯖瀬」駅下車すぐ。停車列車は日に数本しかないので帰りの時刻表に要注意!

【追記】
冒頭でも述べたとおり、本記事は鯖大師本坊を訪ねた2014年12月を思い出して書きました。もう10年近くも前になるので、お寺や周囲の状況など変化していることもあるかもしれない。そこはご承知おきお願いします。

 たとえば、本文中で「徳島でサバは聞かない」と書きましたが、2023年1月、鳴門市の水産会社が「すだちさば」という養殖サバの出荷を開始。徳島特産の「すだち」の皮を飼料に混ぜて育てたサバは、新たな徳島ブランドとして期待されているそうです。
 なので次回、鯖大師本坊へ行くことがあれば、以前にも増して「鯖断ち祈願」ができそうにないサバやしなのです…。

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