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グループの「今」を切り取る——櫻坂46 8th Single BACKSLIVE!!


グループの「今」を切り取るライブ

全体ライブが映画や小説だとすれば、BACKSLIVEはドキュメンタリーであり日記である。
BACKSLIVEは、グループやメンバーの「今」を切り取る。全体ライブがクリエイティブの純粋なアウトプットであるのに対し、BACKSLIVEはその過程を見せてくれる。「バックス」という言葉が、どうしてもアンダーのイメージを抱いてしまうが、8th Single BACKSLIVE!!に参戦して、BACKSLIVEは当初からそのような視点があったことに気づかせてくれる。

2ndでバックスメンバー個々に問われた自身の存在理由は、エイトメンバーも自問自答していたはず。3rdでは小池・藤吉を投入することで、自分たちが戦えることの「自信を確信に変える(小池)」過程を見せてくれた。
7thでは初めて厳密な表題選抜が実行されたグループの状態を正直に開示する。スタートオーバーしたグループの最初の一手は選抜制度の導入だった。「自分には何ができるのだろうか」という自問自答が再び行われる。そのせいか2nd Single BACKSLIVE!!でもあった悲壮感が漂うライブになった。過密スケジュールによる疲労も影響していたと思う。
8thでも選抜/非選抜のしこりは残っていただろう。さらに、これまでの経緯からすると、すでに9thの選抜も発表されていると推測される。残酷な舞台装置はまだ機能している。でも、本ライブで悲壮感を感じることは一瞬もなかった。4th ARENA TOURの充実感がそのまま引き継がれ(むしろパワーアップすらして)、櫻坂の「今」が提示された。

BACKSLIVEの本質が凝縮される——大沼晶保

その意識の流れを丸ごとパフォーマンスに落とし込んだのが大沼センターの『無念』だ。本曲全体を通して苦しい表情を見せていた大沼が、楽曲とメンバーとBuddiesにエンパワーメントされ、最後は晴々とした決意の眼差しを見せる。個人的には、3th TOURの頃、どうしても好きになれなかった『無念』がようやく心に響く楽曲になった。

小池・小林問題を乗り越えたライブ

今回のセットリストは、初期の楽曲中心だった前回のBACKSLIVEの続編的な意味合いもあるのか、ほぼ4th以降のカップリング曲で構成されており、小池・小林のシンメがセンターを支えている楽曲が多数ある。BACKSLIVEの、いや全体ライブの隠れた課題として、小池・小林ポジションをどう補完する問題があると勝手に想像している。というのは、4th ARENA TOURで唯一パワー不足を感じたのが小池・小林がフロントを務めた『Cool』だったからだ。ツアーでは、センターステージでの変則フォーメーションだったので比較は難しいけど、この曲だけは「3rd YEAR ANNIVERSARY LIVE」2日目のほうがよかったと思う。

ライブを成功に導いた影のMVP——齋藤冬優花

その状況でこの楽曲のポテンシャルを力づくで引き上げてくれたのが齋藤である。彼女は1人でセンター&フロント3人分の働きをすることで終盤のクライマックスを大成功に導いてくれた。グループでこんな力技ができるのは彼女だけだと思う。まだ全体ライブでの懸念は残るがアップデートする手段はいくらでもあることが示された。
オリジナルメンバーでは実現不可になってしまった『風の音』もBACKSLIVEならではの選曲。この[小池→齋藤]という[一期→一期]のパターンは、前回のBACKSLIVEでも上村『無限の宇宙』、齋藤『僕のジレンマ』があったが、一期生の絆を感じさせるキャスティングだ。『ジャマイカビール』も齋藤センターにすると新しい魅力が生まれるのではないか。

ソニアの眼差しの先にあるもの——遠藤理子

遠藤理子については、1日目前半はまだ表情やパフォーマンスが固いように見えていたが、『ソニア』のパフォーマンスがはじまってから2日目ラストまで、どんどん柔らかさを増していった。彼女としては、以前からリスペクトしている小池のセンター曲を自分がやっていいのかという葛藤があったに違いない。でもイントロが流れてセンターに遠藤が立ったとき、すべてのBuddiesはそれを歓迎し、さらに大きな声援を送った。
『ソニア』は少女が大人になる物語。小池はそこに大人になるうれしさと切なさを描いた。遠藤は目標となる大人(小池)を目指して進んでいこうという純粋な思いを伝える。この2日間で彼女は大きく成長したと思う。

唯一無二のポジションを受け継ぐ——石森璃花

『断絶』『僕たちのLa vie en rose』の両曲で小池ポジションを務めたのは石森。オリジナルがほぼ同じメンバーでありつつ真逆な印象の2曲で同一ポジションを担当しているのは興味深い(他にも同様のケースがあったかもしれないけど)。
『僕たちのLa vie en rose』は、オリジナルメンバーの8人でパフォーマンスされたことがないので元々どういう想定だったのかわからないが、この楽曲において、小池は唯一の女の子役が与えられていたのではないかと思う(『コンセントレーション』で小池だけがスカートを穿いていたように)。歌詞にあるような、狼たちの群れにフラフラ入っていく女の子をネイティブにできるのは小池と石森だろう。この石森の100%天然のぶりっ子がハマりまくっていて、前回の『ブルームーンキス』のセンターよりも彼女のキャラクターにマッチしてたのではと思う。だからこそ、オリジナルの小池バージョンが恋しくなる。
『風の音』もそうだけど、楽曲のクオリティが上がれば上がるほど、小池が戻ったときにどこまでグレードアップさせるのかという期待が高まる。それが小池美波なのだ。

最高の笑顔を取り戻す——小島凪紗

『僕たちのLa vie en rose』でセンター、『断絶』で小林ポジションに入った小島は、特に後者においてこれまでと違うプレッシャーを感じていただろう。結果、彼女も遠藤と同様、1日目と2日目で表情がすごく変わったメンバーだ。初日の『断絶』を乗り越えた2日目の『僕たちのLa vie en rose』は、もともと彼女のセンター曲だったのではと思うほどナチュラルな笑顔が印象的だった。
個人的には、彼女の躓きは最初期のポニーテールキャラを早々にやめてしまったことだと思う。もう少し、他のメンバーのキャラが立ってくるのを待ってから髪をおろしたほうがBuddies側の戸惑い(?)が少なかったのでは。
表題選抜からさらに選抜されたメンバーがパフォーマンスするこの2曲は、櫻坂の中でも特別な位置にある楽曲であり、そこで重要なポジションをやり切った彼女は、この自信を確信に変えられるか。これからの注目・応援しどころだ。

欅坂の後継者をめざす——遠藤光莉

『ブルームーンキス』そして『隙間風よ』で小林ポジションを担った遠藤は、別次元のかっこよさを見せる。他の楽曲ではメンバーと一緒に楽曲を盛り上げるが、自分にスポットがあたる場面では、無二の存在感を醸し出す。
『隙間風よ』のセンターに立ったとき、彼女は小林の思いを受け継ぐ決意をした。そして、小池の思いも。遠藤の目指すところは、『避雷針』や『もう森へ帰ろうか?』の欅坂につながる世界線のように思える。勝手な想像だけど、彼女はかつての卒業生も含めた「かっこいい欅坂」を継承しようとしているように見える。これは、三期生のダンスメンたちとも一線を画す、他の追随を許さない特異性だ。
今ではもう新二期生という言い方はしなくなったけど、遠藤・大沼・幸坂の三人の逞しさを強く感じたライブだった。

Anthem timeを体験するライブ

全Buddiesが下僕と化す——小田倉麗奈

2日通して、体感的に一番Buddiesの声が上がったのは2日目『Dead end』の玉座で佇む小田倉が登場したシーンだ。たぶん『Dead end』史上一番ではないか。おそらく、初演後セットリストとセンターが拡散され、Buddiesの期待値がここに集中した結果だろう。他の楽曲でもセンターの後ろにちょくちょく映り込んでいたので、裏センターポジションが多かったのではと思う。本ライブにおいて、小田倉は、遠藤理子とともに格段に表現力を上げてきたメンバーだが、まだまだポテンシャルの底が見えない。もっともっと魅せるパフォーマンスができると思う。一番期待値の高いメンバーだ。

2日間参戦してみて、最高だった初日がたった1日で更新される様は、まさに櫻坂の「今」を映し出している。「常に最高を更新し続ける(たぶんグランジ遠山校長がネタ元)」を誰もが実感した2日間だったと思う。そして、これまでは彼女たちがどんどん進化していくイメージだったが、今回のBACKSLIVEでは、私たちBuddiesも最高の更新の手助けができた実感もある。これって、まさに『Anthem time』の世界だ。この思いは、配信勢にも共有されただろう。

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