芳川雄人

思ったことを書き連ねます

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最近の記事

小岩狂想曲

僕は最後になるであろう友との会合を終えた後、僕に音楽を教わろうと躍起な若者と共に思い出の酒場に向かった。 そこはかつて、我々3人が通った酒場であり、扉を一度開けるとマスターが僕に声をかけてくれる。 「ヨォーカズちゃん!今満席なんだけど入れてあげたいから、椅子がゴミ箱で良ければ空いてるよ!」 そうして、初めてこの店に来る僕の教え子は困惑しながらも一緒に席についた。 いつもの通り、酒場は人々の声で盛り上がり、決して褒められた訳じゃあない歌声が僕の心を遠慮なく傷付ける。いつ

    • 思考メモ7-ぼく/ぼくらの言語ゲーム

      君はそうなんだよ。 と人から言われると、たちまち「確かにそうかもしれない」と思い込んでしまう事もあれば「そんな訳ないじゃないか!」と反発し受容できない事もあるだろう。 しかし、時間が経つと「そうだったかも...」と収斂してしまう事の方が多いような気もする。 それは言葉を吐く彼等の「呪い/祈り」であり、“そうであって欲しい”という態度の表れ、言語ゲームである。奇しくも、呪いや祈りというものは得てして届いてしまうのだ。 ここでは「呪い/祈り」についてこう定義する事にしよう

      • 思考メモ6-踊る

        “だから踊るんだよ。音楽の続く限り” 彼は羊男のセリフを引用して、そう僕に語りかける。 ここ最近では、幾つもの星々に線が引かれ、星座として意味を成すように、様々な事が繋がり、そのゲシュタルトが輪郭を表そうとしている事を感じる。 「きっと今僕が今やっている事は未来の自分という他者を救う為の“ケア”なんだと思うんだ。」 「ずっと先の、自分宛の郵便って所かい?」 そうさ、誤配のない事を祈るよ。そう呟き考えを巡らす。ここ最近では、僕は様々なモノを失い、それでも続けられる言語ゲ

        • 思考メモ5-プリマイアー

          中学生の時から、僕の人生を面白がって殆どその全てを文字にして記録している友人がいる。 それは僕が23歳になっても未だ続いているが、彼と話す度に時折僕より僕の人生に詳しい彼に驚く事がある。 そして僕らは中学生の時から、もっぱら言葉遊びをする事に夢中だった。 どこに公開するでもない小説、ルポルタージュ、エッセイなどを書き連ね、これまでに夥しい文量が積み重なっている。そしてそれらの一貫したテーマが「全て嘘」という所なのだ。登場人物から著者、ルポルタージュであれば取材内容、場所

        小岩狂想曲

          リフレイン(詩)

          「“そうさ、君はひたすらに沈黙を貫けば良い。” 鼠は僕にそう語りかけた。形を持たない彼らの声は、僕の頭にこだまする。 携帯の通知音が鬱陶しく、僕はその電源を切りソファから立ち上がる。棚から一枚のレコードを取り出し、その静寂に針を落とした。 Brian Enoの1/1が流れる。 “沈黙” 僕はもう一度繰り返した。テーマは反復されなければならない。そして“語り得ぬ事については、沈黙せねばならない”。 栞の無い読みかけの本を開き、僕はこれからの事を考える。 “これからの事を

          リフレイン(詩)

          僕を思い切り抱きしめてよ(詩)

          時刻は既に深夜1時を回っていた。明かりはあっても、何かが足らないその部屋を満たそうとしていたのは、スピーカーから流れるBrian Enoだった。 ぼんやりと目を霞ませながら、ジャックラカンに関する本を読んでいた。 その本が丁度エディプス・コンプレックスの項に差し掛かり、読み進めていく内に僕は泣いていた。 僕の家族はあべこべで、僕自身もきっと誰に“父”や“母”の役割を押し付けて良いか、常に迷っていた事と思う。俗にある機能的な家族ではなく、正確にはどこの縁故なのかよくわからな

          僕を思い切り抱きしめてよ(詩)

          思考メモ4-コナトゥス

          かつての僕は、人々のコミュニケーションを“お互いの誠実さを貨幣とする契約の元、相互に欲されている物を渡し合う事”と考えていた。 だが自らの“嘘”により僕はいつまで経っても“ほんとうにほしいもの”を受け取れないのではないかと考えていたのだ。 そうして、その解決策として僕は一度それを世界から”既に受け取っている“と仮定し、返礼しようと試みている。 全てを”正しい位置“に戻していくのだ。 これは言い換えれば、以前の僕が怠惰にも不正により受け取り続けた物を手放していく物語である

          思考メモ4-コナトゥス

          思考メモ3-でもやるんだよ(2)

          それはまた小岩の街外れのソウルバーで繰り広げられた我々の社会的詭弁の一節であった。 「そういえば君の好きそうな本を思い出したんだよ」 彼は少しの無邪気さと共に僕に語りかける。 「因果鉄道の旅って言ってね...」 それはサブカル雑誌周りでは有名な方が書いた本だそうで、因果を持つ者たちの愛すべき矮小さを教えてくれるモノらしい。 僕らはそれからみうらじゅんの話に花を咲かせる。 「君、一見無意味なモノに熱を注いでそこに何かを見出す活動好きだろう?」 コクリと頷き、僕はみうら

          思考メモ3-でもやるんだよ(2)

          思考メモ2-でもやるんだよ

          人と人とのコミュニケーションは、それぞれが持つ役割を当人同士で納得した擬似貨幣の使用の元交換し合う事がすべてだと思っていた。 小岩の街外れの(小岩と街外れは既に等価なのでそれは街外れの二乗になってしまうがさておき)一杯390円のバーで僕はマスターに管を巻いていた。 「きっとその人が望む物を僕が与えられなければ、その人は僕の望む物もくれないし、僕を愛してくれないと思うんですよね」 そう伝えると安酒場のマスターである彼は 「それはビジネスだからさあ、友人ってそういう関係じゃ

          思考メモ2-でもやるんだよ

          思考メモ1-適正価格

          人と人の間には取引や役割の押し付け、闘争への制定や戯曲への約束事が蔓延してしまう。 それらを信じる事はお互いの誠実さを通貨に利益を交換する我々の社会活動であるが、その制度の崩壊を予期する時、人々はよもやその利益の適正価格さえ定める事が出来なくなるだろう。 それを僕等は”混乱“や“傷心”、あるいは“怒り”などと一重に呼んでいるが、事実はもっと入り組んでいる。 それは巨大で最も入り組んだ迷宮なのだが、一度触れれば崩れ落ちてしまう砂状の楼閣のような物であるため、またそうであると

          思考メモ1-適正価格

          私が音楽を創る時/或いは音楽によって私が造られる時

          目を閉じ、耳を澄まそう。 深く深く、音の中に潜っていく。 奥底で私は何かを見つける。とろりとしたその球体は、いつのまにか水晶の様な素体に変化しているのだ。 私はそれをそっと覗き見る。 時に愛する人を慈しむ様に。 時にいつかの子猫を殺した隣人を蔑む様に。 時に永遠を彷徨う流浪人を羨む様に。 するとその内に、一つの形が見えてくる。 それは、その水晶が本来持つ姿なのだ。 彫られるべき姿。 それを見つけた私は歓喜して、せっせとその水晶を在るべき姿に戻していく。 そうして

          私が音楽を創る時/或いは音楽によって私が造られる時