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アオメキバタンの夢。

アオメキバタンという鳥を見た。
気づけばずっとずっと昔のことだった。

一緒に行った人は、外にいるのに風切り羽根を切られ飛べない彼らを
一人静かに、ずっと見ていた。

この前数年ぶりに行った動物園で
彼らがいるはずのスペースには何もおらず
「感染症予防のためキバタンは室内にいます」と書かれた貼り紙がしてあった。

もうきっとみることはない彼ら
もうきっと一緒に行くことはない人

そんなことを考えていたからか
懐かしいところに行ったからか

夢の中で私は、その人とアオメキバタンを見て
間に合ったなーと思いながら思い切り笑って手を取って走っていた。
一緒にいろんな物を見た、絵画も、映画も、動物も植物も魚もクラゲも
夏の光の眩さを、夜に流れる雲の速さを。

双子みたいに暮らしていた。
旅には一度も出なかった。

確かに、恋人だったその人と
一番一番好きだったその瞬間を凝縮したような夢で

その幸福さに起きてから、一瞬混乱していた。

私たちはとても青く
吹けば飛ぶような理由で別れた。

何かの流星群がみられるとか、彗星が近づいているとか遠く旅する人工衛星が見えるとか
そんな頻度でたまに会う。

男女もなく、同じところを通ってきた同志のようで
同じ周波数の中にいる。
声は変わらずに少し掠れてやわらかく
熱の消えた目はやさしくて
もう私の知っている人ではないと、いつも思い知らされる。

お互いに降る年月は、確かに私たちを大人にした。

「じゃぁ、また」の「また」が本当にあるのかわからないまま
その人が次もこの世に存在しているのかわからぬまま
「どうか元気で、どうか体を大事に」と付け加えることを忘れない。

あれは、ほんとうに初恋のようなものだったから、
かつてのその人の残像が、ピカピカと心のどこかを周回して
たまに目が合うと思い出して、きゅぅっと小さな音を立てる。

シワができても、白髪が増えても、腰が曲がってもきっと

もういない人の手を取って、キバタンを追った夢のこと。


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