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ニューヨークとひな祭り、そして素敵日本人マダムたちの精神

3月3日は言わずと知れた、ひなまつりの日。日本を離れても、忘れることはない。だが、何かするかと言えば、私は何もしていなかった。…日本でも何もしていなかったからだ。日本では有難いことに、別に自分が努力しなくても、ひなまつりの華やかな雰囲気は実感できた。お店のディスプレイや商品、都内ではビルの中に飾ってくれてたりもする。ニューヨークに来る前までの長い実家暮らしでは、親が雛人形を飾ってくれて、ちらしずしも作ってくれた。

しかし、ニューヨークでは、そういう環境はあまりない。よくよく考えると何軒かある日本食スーパーでも雛あられは見かけない。唯一見たのが、和菓子屋の源吉兆庵の店内装飾だ(冒頭の写真がそちらで撮ったもの)。…だが、そう頻繁に通う店でもない。NYに来て以来、ひな祭りとは疎遠な流れに身を任せたまま、他の日と全く変わらない3月3日を何度も過ごしていた。…まあ、海外だから仕方ないよね、程度の気持ちで。

ところが、私のお付き合いさせて頂いている、NY在住の素敵日本人マダムたちは違った。…皆さん、お雛飾りをお部屋に飾っているのだ!!!…そしてその方々は皆、すでに独立した年齢の「息子さん」しかいなかったり、そもそもお子さんをお持ちでなかったりという方々なのだ。(つまり、子供のいない私と状況は同じ、ということだ。)…百歩譲って、一時的に海外暮らしをしている私と違って、マダムたちは日本を長く離れる覚悟を持ってNYにいるので、生活様式をそのまま持ってきている、と言えるかもしれない。しかし、私はちらしずしを作ることすら頭になかった。(もちろん、NYで材料は手に入る。。)マダムの1人に言われた。「息子、娘の問題じゃないわよ。季節の節目を愛でるというのは大切よ。」…全くその通りだ。ゴーーーーンと頭に衝撃を与えられた。

きっと、それが素敵マダムたちの素敵さの所以だ。…3月3日という1日のために、お雛飾りを出して、ちらしずしやおいなりさんといった(私からするとかなり手の込んだ)料理を作って、春の到来を感じる。あるいは人を招いてひな祭りをお祝いする。そのスピリットが「素敵」なのだ。…翻って自分を省みると、そういう日本的細やかな心の素養を(日本で自然と)培ってもらったのに、自ら積極的にその心意気を育む意識が低かった。思いは形にしてこそ自分の心となり、人格になる。まさに、日本の型文化そのものだ。…私はその始めの「思い」から欠けていた。

また、別のマダムが教えてくれた。お雛飾りは別に、従来型のひな壇飾りでなくても良いということを。彼女は、日本のお盆の上に、陶磁器に絵付けされた雛人形と小さな屏風を飾った写真を見せてくれた。…一つの区切られた、和空間が作られていた。陶磁器とお盆なら、そこまで持ち運びに苦労しなくて済む。でも間違いなく、お部屋にひな祭りの風が吹く。

この久々のガツンとした衝撃が強すぎて、何もせずにはいられなくなり、取るものも取り敢えず、お招きいただいた家を出たのも遅い時間だったが、ちらしずしを作ることにした。「すし太郎」もないので人参とシイタケと水煮レンコンを細かく切って煮て酢飯に混ぜ、スナップエンドウを茹で、錦糸卵を作り、お刺身の代わりに冷凍のエビを茹でて、買ってあったスモークサーモンと一緒に載せた。

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作り終わるころにはヘトヘトだったが、改めて自分の作ったちらしずしを見て思った。…ちらしずしには春色が溢れている。オレンジ色、黄色、緑色。なんて目にも美しい食べ物なんだろう、と。年に1日くらい、苦労してでも作って、春に思いを馳せる日があってもいいな、と思えた。

ニューヨークという場所で素敵マダムたちと出会えたこと、自分が日本人であること、そして日本の素晴らしい四季折々の文化に感謝。日本にいただけだったら私は気づけなかっただろう。

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