俺めっちゃ強い【日記】

 転んだわ今日。くそ。転ぶんだな大人って。右足首をグネって、左膝をアスファルトに強打した。

 そろそろ仕事終わりだなあってコインパーキングでシャドーピッチングしてた。

 「おーい、そこの人〜、ボール取ってくれ〜」
 コロコロコロ……。俺の足元にボールが転がってくる。

 「ああ、ほいっ」 ビューーーーーン!!!!!

 「す、すげえ肩だ! 頼むから野球部に入ってくれ!」
 「野球部ぅ? めんどくせえなあ」ポリポリ
 「あの人ならきっと、甲子園に……」(美女マネージャー)
 「ふんっ……」(マネージャーの兄でエース)

 今日の夕方、デブのおっさんがシャドーピッチングして段差に足を持ってかれてグネって転んだ様子を見たとしたら多分それは俺だ。俺じゃないとしたら気が合いそうだから紹介してくれ。ほんと情けない。モテなくなっちゃうよぉ。
 痛い。足首にボルタレンテープ貼った。明日腫れてなければいいな。

 俺の会社の俺の部署が展開してるWebサービスがあって、これから来るであろうSNSの時代を見越して公式のインスタグラムとXを始めた。

 しばらくの間、俺の直属の鬼(上司)が管理するらしい。このあいだ話した「本社会議」のときに、鬼からフォローしておくように言われた。とりあえずフォロワーを増やして盛り上がってる感を出したいようだ。

 笑止千万だよな。絶対嫌だよ。

 「俺くん、フォローしておいてね」
 「はは、ははは、はは。ははは」

 全力で笑ってごまかしてたんだが、今日「なんでフォローしてないの?」って電話が来た。メンヘラじゃねえか。勘弁してくれ。中年のおっさんがヘラってもコイキングぐらい何も起きないんだぞ。なんで何も起きないんだろうな。不思議だよな。

 まずXなんだが、旧友を15人ぐらいしかフォローしてない超パーソナルなアカウントと、エロいアカウントしかフォローしてないアカウントしかない。会社にバレていいのはどっちかっていうと後者なんだが、俺はこのアカウントを「エロアカウントのターミナル駅」みたいな感じに育て上げていきたいと思っているんだ。夢みたいだろ?

 「エロいアカウントしかフォローしてないんですよ」
 「それだったら仕方ないけどさぁ」

 物分かりの良い上司だ。

 インスタはそもそもやってるはずがねえ。なんだインスタって。やるとかやらないとかの次元じゃないんだよ。大まかなこう、何がなんなのか全く分からん。

 中国の「旧正月」でさ、爆竹を大量に爆破させてる映像が流れるじゃん。
 「中国の旧正月の映像です」
 バリバリバリバリ!!(爆竹)

 あれ見てるような感じだ。全体的に意味がわからん。ずっと何やってんの。

 「てか爆竹やってる?」って聞かれたら、やるとかやらないとかの次元じゃないじゃん。そんな感じだ。

 むかしmixiってあったな。今もあるにはあるのか。俺が高校生の頃が全盛期だった。noteに近いSNSで、基本日記を書くもんだったんだけど、違うのは「マイミク」という今で言う「FF」が基本的には現実の友人知人だったことだ。だからプロフィールには平気で本名を書くのが普通だった。

 mixiの目玉は「足あと」という機能で、誰が何時に自分のページを見に来たかわかるようになっていた。逆に言うとこっちが誰かのページに行くと向こうに伝わっちゃうのだ。

 普通に考えてクラスの好きな子の日記は見たいだろ。見たいんだけど「足あと」が残っちゃうから見に行けない。マイミクになっちゃえば平気なんだが、そんなのあれじゃん。恥ずかしいじゃん。なあお前! それはお前! なあ! 大変なことだよ。

 ここで鳴物入りで登場したのが「足あとを消す機能」だった。たしか月に10回ぐらいまで足あとを消すことができた気がする。これは超ありがたかった。
 「今日は気になるあの子とガッツリ喋っちゃったぜえ!!?」みたいな日は必ず見に行って足あと消してたな。「面白かった」とか書いてたらもう死んでもよかった。

 何かに似ていると思ったら、シティヘブンネットで翌朝に「写メ日記」を読んでしまう感覚と似ているな。俺は写メ日記で取り上げてもらうためにも本気でエピソードトークするからな。どんなときよりも本気だ。車の中で練習してから行く。

 今日は元々「カレーにジャガイモを入れねえ奴」をぼちぼち論破しとこうと思って書き始めたんだが、どうやってもその話に繋げられる自信が無いので次回にしよう。ジャガイモ入れねえ奴は次回俺と対決だ。覚悟しておくといい。もうボコボコだ。

 このあいだ、全然眠くないからまた夜中まで起きていた。たまに「ある時間になったら自動的に眠くなる人」がいるが、どういう仕組みなんだろうな。

 一緒に旅行とか行くと最悪だ。勝手に電気消すんだよ。寝れねえって。家帰ってから寝ろよ。枕投げとかしようぜ。でも枕投げって盛り上がらないんだよな。「枕が足りない」という理由だ。

 コンビニに行こうと思って夜道を歩いた。俺の家から最寄りのコンビニまでは2つのルートがある。明るいけどすごく遠回りなルートと、真っ暗だが近いルートだ。

 真っ暗なルートは本当に真っ暗だ。街灯も無いし、森みたいなのがあって月明かりも届かない。病院もある。めちゃくちゃ何か起きそうな雰囲気がある。だが俺はいつも暗い方の道を行く。これには3つ理由がある。

 第一に、俺はめっちゃくちゃ強い。ぶっちゃけな。ぶっちゃけ。全然自慢じゃないけど、握力とかクソあるし、マジでパンチやばい。超見えない。弱い方の熊ぐらいだったら確実に殺せるから、暴漢が現れても大丈夫だ。

 第二に、俺は守備力とかもクソある。動体視力がヤバいから、超見える。だからパンチとか余裕でかわせるし、食らっても忍耐力エグいからマジで耐えられる。はあ喧嘩してえ。

 あと近いっていうのがある。

 いつも通り暗い道に差し掛かると、坂の上に人がいる。俺は視力がCだからよくよく目を凝らして見ると、ボロボロの服を着てゆらゆら歩いている50代ぐらいの男だ。買い物袋なんかも提げてない。手ぶらだ。

 真夜中に住宅街に向かって手ぶらで歩いてくるというのは奇妙だ。酔ってる感じでもない。ただゆらゆらしている。なんだろうなあの人、と思いながら目を合わせないように坂を登る。怖い、っていうか全然怖くないけど、俺キレたら何するかわかんないから逆にそれが怖いっつう話。

 なんかずっと俺を見てるような気がする。気のせいか? 坂を登る。俺と相手が3m幅ぐらいの道を挟んで真横に来たタイミングで、そいつはピタッと足を止めた。顔がこっちを向いている。

 はあ、めんどくせえな。ここで決着を付けるか。無視して歩いて行ってもよかったんだが、後ろから音もなく忍び寄られたらちょっとだるいから(勝てるが)、ここで力の差を見せておこうと思った。俺もピタッと立ち止まった。相手の顔を見る。やっぱり俺を見ていた。視線が合う。

 睨み合う俺たち。
 俺めちゃくちゃ強いけど、どうする? という視線を送る。全然相手してやるけど、死んどく? 10秒ほど無言の睨み合いが続く。俺の圧倒的な攻撃力が伝わったのか相手は視線を逸らし「いや、なんでもない」というジェスチャーをしてまた坂を下り始めた。俺は振り返らずに坂を登り、坂の上のコンビニに向かった。

 相手が無事でよかった。俺のスーパー・ティラノサウルス・パンチ(必殺技)が炸裂したら大変なことになってただろうな。命拾いしたな。

 夜道は危険なこともある。俺が歩いてるからな。「歌舞伎町のドラゴンボール」と呼ばれた俺がうろついてる。気をつけることだ。

 それにしてもまた寝れなさそうだ。眠気ゼロだ。干しっぱなしの洗濯物が外で濡れている。夜は長い。

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