「いばら姫」を演じた
このあいだ、最新の「絵本」を見せてもらった。今の絵本はすごいな。
ボタンを押すと音楽が流れたり、小さなピアノが付いてて作中のキャラと楽しみながら演奏を学べるなんて絵本もある。この30年で知らぬ間に魔進化を遂げていたようだ。
100年後の絵本はどうなってるんだろう。「錠剤」になってるかな。それかゼリー状の物質か。なんたって100年後だからな。
その昔、小林よしのりという漫画家が、自身の『ゴーマニズム宣言』について「あんなの漫画じゃない」と批判されて、「コマと吹き出しがあったら全部漫画だから」と反論していたが、絵本の世界はもっともっと自由みたいだ。表現の幅がどんどん広がるから絵本作家もやりがいがありそうだ。
おもちゃの形に絵本がくり抜いてあって、そこにぴったり収まるようになってる絵本もあった。ちょうど「ショーシャンク」のアレみたいだ。ネタバレになるから詳しくは言わないけど。あれはショーシャンクの絵本だったのかな。
「アンディは、ふるえるからだをおさえつけながら、ピストルをてにとりました」という冒頭だった気がする。真夜中、奥さんが不倫してる家の庭で土砂降りの雨の中、カーステレオから陽気な音楽が流れてるシーンから始まる絵本。教育に良いな!
どう見ても「マンション」で、人も住んでるんだけど、「絵本の一部」ということになってるから固定資産税を免れている、みたいな問題が今後発生してくるかもしれない。「巨大化したシルバニアファミリー」として建設されてるから国税庁も手が出せないのだ。シルバニアファミリーの定義について定める税法の制定が急がれる。
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5歳ぐらいの頃に読んだ絵本で、同い年ぐらいの子供がお父さんとプールに行く話があった。プールはとんでもない人混みで、ふとした瞬間にお父さんとはぐれてしまう。
お父さんどこかな、と探していると、人混みの中から「ぬっ」と毛むくじゃらのお父さんらしき腕が出てきて掴まれる。
「お父さん」はずっと黙りこくったまま、どんどんプールの端っこの方に連れて行く。薄暗い小部屋に入れられて「お父さん」の顔をよく見ると、それはお父さんではなく、お父さんに擬態した「鬼」だった。
こっっっわ。ふざけんな! こんなもん子供に読ませんなよ。トラウマになったぞ。
その話は、怖くて震えてるところに本物のお父さんが現れて、鬼をやっつけてハッピーエンドを迎えたと記憶している。子供の頃は「お父さんが来たら安心だ!」と思って読んでいたが、俺も32歳になってお父さん側の年齢になった。子供とはぐれて、ほうぼう探して「やっと見つけた!」と思ったら目の前に鬼がいてみ?
ちょっと待ってくれよ……、鬼じゃねえかよ……。お父さん頑張るけどさあ、とりあえずお前だけ逃げろ、何秒持つかわからんぞ。
鬼がな!! 食らえ! 時空ごと切り裂く超必殺!! スーパー・ガイア・パーーーンチ!!!
お前ほんとに32か?
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というわけで今回もマシュマロに答えていきましょうか。印象に残ってる絵本ですね。意外と無いかもなあ。「お父さんが海外旅行で買ってきた、今でも大切にしてるイギリスの絵本」の話とかしたいけど、うちの親父はアダルトビデオにしか興味なかったから、絵本を買ってもらった記憶がほぼ無い。図書館で借りるか、小児科の待合室で読むのが俺にとっての絵本だ。
「ぐりとぐら」は面白かった! ドタバタ青春ラブコメディだよな。ぐりがなぁ、なかなかヘタレだから。「はやく告っちゃえよ!」って話なんだけど、うまくいかないんだよね。
フライパンで巨大なカステラ作る回は神回だったな。ぐらの水着回なんだよね。あれは少年の人気を取りにいったよな。ぐらがアイスキャンディを頬張るっていうお色気シーンは今でも覚えている。
あれ最後どうなるんだっけ? 雷禅が出てきて魔界トーナメントやるところまでは読んだんだけど。ギリギリ雷禅が勝つんだっけ。当時のジャンプは結局全部トーナメントになるからなあ。『ターちゃん』までトーナメントやるのかよって思ったものだ。
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幼稚園の年中のときに、クラスの「細川くん」という奴が急に絵本を持ってきたことがあった。「石川先生」という清楚系の先生にそれを渡して、「読んでくれ」とせがんだ。石川先生も押しに弱いタイプだったのか、そんなパターンそれまで無かったんだけど、急遽「絵本の読み聞かせ会」が開催されることになった。
「いばら姫」という絵本だったんだけど、これがめっちゃくちゃ盛り上がった。とくに雷禅が出てきて魔界トーナメントやるところ。そこだけ幽遊白書みたいになるんだよな。石川先生の熱演もあって、最後はスタンディングオベーションでも起きそうな勢いだった。みんな大満足で、絵本を持ってきた細川くんは一躍ヒーローになった。
何日間も細川くんは讃えられ続けた。「あれ最高だったな!」と口々にみんなが言う。ほほう、と俺は思った。俺も同じようにしたら2匹目のどじょうを狙えるじゃないか。家に帰ってさっそくお母さんに事情を話し、「絵本を買ってくれ」とおねだりした。
すんなり要求は通り、一緒に本屋さんに行く。「なんでも買っていいよ」と言われた。ここで問題なんだが、みんなだったらどんな絵本を買ってもらう? 普通だったら少なくとも「いばら姫」以外じゃん。今だったら俺も確実にそうする。「ふたりエッチ」買ってもらって石川先生に読ませて警察に捕まって泣きながら土下座する。でも当時の俺は何を思ったか「いばら姫」を買ってもらったのだ。
母親には「本当にいいの?」と何度も確認された。俺は自信満々に「いいんだよ!」と答えた。
翌日、石川先生に「いばら姫」を渡す。「これ?」という反応だったが俺はやっぱり自信満々だ。当時の俺の気持ちを思い起こすと、みんなはリバイバル公演を期待しているに違いないと踏んでいた気がする。プロデューサーとしての俺の勘は、新しい絵本よりも「いばら姫」の方がヒットするという予想だったのだ。
石川先生が「絵本読むよー!」とみんなを集める。
「うおおおおおおお!!!!」みんなのテンションは最高潮だ。
「俺くんが持ってきてくれました」
「おおおーーー!!」「でかした!!」「最高だな!」
「いばら姫」
タイトルを口にしたその瞬間の、一気に場がシラける雰囲気はいまだに忘れられない。サーっと潮が引くように、みんなのテンションがゼロになった。いばら姫? 前回のやつじゃん。ええ……なんで? 最悪。なんでよりによって。というムードが教室中に充満した。
そのあとはシラケきったムードの中、石川先生の熱演もむなしく全く盛り上がらずに終わった。終わった後も「なんで?」「最悪だよ」「ほんとなんで?」という声しかかけられず、「人気者になる」という野望も全く果たされなかった。
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翌年、年長のクラスでお遊戯会が開かれることになった。なんと演目は「いばら姫」。あの因縁のお話だ。
「いばら姫」は、トゲトゲのいばらに囲まれて入れないお城(本気出せば入れるだろ)の中に、美しいお姫様が長い間眠っていて、「王子様のキス」で目覚めるという、まさに幽遊白書みたいな話だ。
俺は当時身長が180cmあってミスター慶応のイケメン起業家だったので王子様役に抜擢された。現在はベトベターみたいな見た目なんだが、これは悪い魔法使いの黒魔術によるものだ。実際には当時もベトベター役がふさわしい見た目だったんだが、ほんとにどういうわけか王子様になった。たしか先生が勝手に決めた配役だった。
お姫様役は俺が当時大好きだった「ゆいちゃん」という女の子で、今でも顔が思い出せるぐらいだから多分めちゃくちゃ好きだったと思う。好きすぎて「好き避け」とかしていた。ベトベターからすると眩しすぎて話しかけることすら出来なかった。
練習ではクライマックスのキスシーンは「はいここでキスしまして〜」という感じで流されるんだが、本番だけはマジでキスすることになっていた。すごいよな。今だったらどうなんだろう。つまり、今の俺と幼稚園児がキスするって話なんだけど。どうもこうもねえよ! そういう冗談はやめろ!
問題は「キスの練習」だけは出来ないことだった。当時俺は「つかこうへい」の系譜としてスタニスラフスキーシステムを踏襲したメソッド演技を否定したいと考えていたので、お芝居の中で違和感のある部分は徹底的に削減したいというスタンスだった。だが練習はできない。そこだけぶっつけ本番なのだ。
とにかくキスがよくわかんなかった。なんとなく「吸い込む」イメージを持っていて、「Chu⭐︎」じゃなくて「ブチューーー、スゥーーーー」みたいな感じだ。ものすごく深くて、謎のバキューム要素を含むものが俺にとっての「キス」だった。
そのまま本番を迎えて、最後の方までめちゃくちゃ上手く行った。物語はクライマックス、眠っているお姫様の横に寄り添い、俺がキスをしてお姫様は目覚める。拍手喝采の大団円を迎える重要な場面だ。
俺は横たわっているゆいちゃんにそのものすごく深いキスをした。
「ブチューーーー、スゥーーーー」
ゆいちゃんは一瞬ビクッとして俺を見たあと、起き上がるはずの場面で起き上がらなかった。静かに身を横たえている。俺が「完全にとどめを刺した」みたいな状態になって、周囲は時間が止まったような空気が流れた。しばらく経ってもゆいちゃんは起き上がらず、異変を察した先生がゆいちゃんに駆け寄り、急遽「いばら姫」はインターミッションを迎えた。
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ゆいちゃんは大泣きし、俺は呼び出され、最後のカーテンコールは主役の2人がいないまま進行し終わりを迎えた。
だから最悪だよ「いばら姫」。最悪の思い出だ。
印象に残っている絵本の話。ゆいちゃんももう32か。忘れててほしいな。当時ちゃんと謝ってないような気がするが、もし会ったとしても思い出さないでほしいから謝れんな。とにかくいま幸せに暮らしてることを祈ってる。
というわけで今回は以上です。思わぬ記憶の扉が開いた。マシュマロありがとう!
ほかにもお待ちしています!
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長くなっちゃったけど読んでいただきありがとうございました。また次回!
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