事件の真相を聞いた

 「引っ越しをしたら2週間以内に役所に届け出を出さなければならない」という法律があるらしい。どの程度知られてるんだろうか? 俺は学生時代、このルールそのものを知らなくて届け出なんか一切出してなかった。法律違反だったんだな。

 破るとランダムな刑に処されるんだけど、俺の友達は夜中の2時に窓のすぐ外で「かごめかごめ」を歌う子供達を派遣されたらしい。怖すぎる。役所はやることがえげつないぜ。
 俺は十字架に体を縛りつけられて「好きな子が俺のメガネを勝手にかけておどけてるところを見せられる刑」に処された。

 やめてくれ〜w いとしすぎて死んでしまう〜ww

 この法律を知ったのは社会に出る頃で、「風の噂」で知った。だから本当にそんな法律が存在するかどうかは確認していない。今でも噂レベルで知っているだけだ。

 考えてみると、あらゆる法律を俺は噂レベルでしか知らない。みんなもどうだ?

 たとえば人のものを勝手に盗んだりすれば「窃盗」という罪になることは誰もが知っているだろうが、本当にそんな法律があるか確認したことがある者はいるか? 「さすがに六法全書には書いてあるんだろうなあ……たぶん」と全員が思ってて、結局だれも確認してなかったら、よく調べたらどこにも書いてないじゃねえか! ってことになったりしないだろうか。

 海外に行くとなれば絶対「パスポート」が必要だよな。これだって全員がそう思ってて、空港の職員も「パスポートは要るよなあ」「要りますよね?」「そりゃ要るでしょ」、海外の人も「パスポートはそりゃ要るよなあ」、パスポート発行する役所の人も「パスポートは要るに決まってるよなあ」、法律家も「パスポートは必要でしょ」って思ってて、実は「全然要らなかった」ってことにならないかな。

 鎌倉時代の裁判の記録を読むと、裁判所に当たる組織も普通に知らない法律があって、一般人に「こういう法律があるって聞いたんですけど」って言われて「そんな法律あんの!?」と京都に手紙を送ったりしている。「あります」「あるんだ〜」みたいになってたようだ。

 「世の中には俺たちにも知らない法律がいくつもあるんだろうなあ……」と思いながら裁判をしてたと思うと、現代の俺たちが裁判官やってるみたいなもんだな。

 「窃盗……? 窃盗何年? お母さ〜ん、窃盗って何年? 『せっ、と、う』! 結婚じゃない、うるさいな。窃盗だよ。2年? お母さんこないだ3年って言ってなかった? それ強盗か。そしたら2年だお前は」

 「執行猶予ってのあるの? 執行猶予ってなに? ふーん……。お母さ〜ん、執行猶予ってあんだって。付けていい? 『しっ、こう、ゆう、よ』! 結婚じゃない、うるさいな。付けていいの? じゃあお前は執行猶予100年! 100年だとヤバいの? じゃあ5秒!(笑) 5秒だとお前有利すぎるか(笑) ちょうどいいのどれぐらい? お母さ〜ん」

 学生の頃に「飲み友達」になった定年前のおじさんがいた。俺のバイト先だったコンビニのお客さんで、たくさんいた飲み友達が大半「肝臓を悪くして死んでしまった」ので新メンバーをリクルートしていた。そんな募集要項で誰が行くんだよという話なんだが、俺はあんまり酒を飲まないのでその心配は無かった。なんか面白い話でも聞けたらと思って参加することにした。

 基本的におじさんの自慢話を延々と聞くだけだったんだが、夜中の12時ぐらいになってそろそろお店も閉店しようという頃、完全に目が座ったおじさんが「餃子の王将の事件あるやろ?」と言ってきた。当時話題になっていた「餃子の王将」の社長が京都の山科にある本社の前で射殺された事件の話だった。

 当時、実行犯が捕まっておらず、おそらくプロの殺し屋の犯行なんだが、誰が何のためにそんなことをしたのか全くわからないという事件で、迷宮入りするのではないかと言われていた。ネットでは中国のマフィアに狙われたのではという説がまことしやかにささやかれていた。

 「あの事件の真相……、教えてあげよっか」

 おお! 来た来た! これだよ醍醐味は。おじさんの与太話。わけのわからん推理と謎の決めつけによるヘンテコな結論を聞かせてくれ! 俺は興味津々だった。誰を犯人扱いするんだろう。「なんすかなんすか!? 聞かせてください!」

 「まあでもなあ……」「これは絶対誰にも言ったらあかんで」

 うるせえよ、もったいつけないで早く聞かせろ。どうせてきとうな話だろ。
 「言わないっす! 墓場まで持って行きます!」

 「オレも定年前だから話すんやけど……」

 そこで知ったんだが、おじさんは京都のとある金融機関に勤めていた。そこで取引のある銀行の職員がペラペラ内情を話してきたらしい。大丈夫かこいつら?
 それによれば、王将の内部でまず他の会社への不透明な資金の流れが問題になっていて、それを解決しようと動いたのが殺された社長らしかった。おそらくその「他の会社」が関係している暴力団に依頼をして、プロの殺し屋が派遣されたのではないかという話だ。

 酔っ払っててしどろもどろなのと、「マジで言えない部分がある」からと所々話が繋がってない部分もあり、それに当時ネットで主流だった説とは全然違う話だったから、「またまた〜(笑)」という感じで流れたんだが、おじさんの表情は真剣だった。

 一昨年ついに実行犯が捕まったんだが、めちゃくちゃびっくりしたのは当時のおじさんの話がマジだったことだ。このパターンでマジなことあるんだな。飲みに行ってみるもんだ。あと銀行は信用できない。

 最近うれしいのが、俺の会社の俺の部署に、同じ名字の新入社員が入ってくることだ。俺の名字は結構ありきたりなんだが、同じコミュニティに2人はいないぐらい。だから「佐藤」とか「鈴木」が必ずと言っていいほど下の名前で呼ばれるのがずっと羨ましかった。「ケイスケ先輩」とか「ジュンさん」みたいな呼ばれ方するの良いよな。めちゃくちゃ慕われてる感がある。

 どうでもいいけど、俺の人生で出会った「山本」っていう名字の奴は全員良い奴だ。こういうのあるよな。めちゃくちゃ気のせいなんだろうけど、新しい「山本」が来ると最初から好感を持って接してしまう。最近出会った「山本」は山本史上でも最も良い人で、取引先の偉い人なんだがこっちが心配になるぐらいナイスガイだ。

 逆に俺の名字の連中がみんなに迷惑をかけてないといいな。俺の名字は「鬼人」だから、じゃあ名前「ザブザ」じゃん。桃地だし。だったら既に下の名前で呼ばれてるだろ。ザブザまでしか読んでないんだよなNARUTO。どうやって倒すんだあいつ。

 浪人生の頃、俺は代ゼミの「新宿校」っていうところに通ってたんだが、クラスの担任みたいな存在の事務の人が急に廊下で話しかけてきた。

 「俺くん俺くん!」

 どう見ても常にやる気ない感じのおじさんで、テンションが上がってるところを見たことがなかったからどうしたのかと思って「どうしたんすか!?」と返事した。

 「すごい人見つけた!」と言う。

 俺の出身高校は「渋谷幕張」という千葉市にある私立の学校で、ライバルは「県立千葉」という学校だった。当時はバリバリに鎬を削っていて、少なくともこっちはめちゃくちゃ意識していた。

 俺は大学に全部落ちて浪人していて、「京大」を目指していた。担任のおじさんが言うには、俺と全く同じ名前、「同姓同名」の奴が代ゼミの「池袋校」にいて、「県立千葉」出身で、「一橋大学」を目指しているらしい。なんだよその話と思ったけど、たしかにギリギリすごい気もする。
 個人情報的に俺に言っていいのかわからんが、担任のおじさんは無邪気にはしゃいでいた。

 「すごくない!?」
 「すごい……っすねぇ」
 「すごいよねえ!?」「すごいよなあ……」と言いながら去って行った。

 俺と同姓同名で、いつも俺とほんの少し違う選択をする奴。あれ以来ずっとちょっと気になってる。まだお会いしたことはないが、会ってみたいなあ。あれからどんな人生を送ってるんだろうか。心当たりのある方の連絡をお待ちしています。

 noteに「僕」っていう同じ芸風のやついねえかな。それかカクヨムとかにいそうだよな。見つけたら教えてください。

 「君の名は」の東京パートぐらい、第三者視点で見たらもうちょっとなのにずっとすれ違い続けていたら素敵だ。階段で俺そっくりな奴にすれ違ったら名前を聞こう。

 「お前……もしかして……」
 「ふにゅ?」
 「くたばれ!!」

 ダメだな俺とそっくりな奴。たぶんキモいわ。物別れに終わった。

 今回は以上! また次回。

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