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148 人の思いさまよい流れ着いて〜粟島・漂流郵便局

漂流郵便局。

わたしがこの「郵便局」の存在を知ったのは、漫画「ミステリと言う勿れ」を読んだことがきっかけです。

今春菅田将暉さん主演でドラマ化されたのでご存じの方も多いのではないでしょうか。

整(ととのう)ってなかなかすごい名前

漂流郵便局は香川県三豊市の離島、粟島という人口200人ほどの小さな島にあります。JR詫間駅からバスに乗り、須田港から船で15分で到着します。

もともとは9年前に芸術家の久保田沙耶さんが「瀬戸内芸術祭」で展示したアート作品のひとつで、届けたくても届けられない手紙を、いつかその存在に気づいてもらえるまでここに漂わせる、というコンセプトで期間中のみ開設する予定だったのですが、その後も続々と手紙がここに届くようになり、今も継続して開設されてつづけている「アート作品」です。

あくまで「アート作品」であり本物の郵便局ではありませんが、50年ほど前までは粟島郵便局として活用されていた建物を使っているので結構リアル。

ここの館長を務める中田さんも実際に粟島郵便局の局長をされていた方。9年前の瀬戸内芸術祭終了後も継続して勤務されています。とても気さくな方で写真撮影にも応じていただけました。

通常は毎月第2・第4土曜の午後1時から4時まで開いていますが、瀬戸内芸術祭期間中は毎週土・日・祝日の10時から16時まで開けてくれています。
離島にあって、月2回3時間しか開かないということが難易度を高め、この郵便局の神秘さを増しているような気がします。

「郵便局」の中の私書箱にはここに漂着した無数の手紙が保管されています。これらの手紙はすべて来館者が手に取り、読むことができます。もしその手紙が自分宛てのものだと気づいたときは持ち帰ることも可能だそうです。その手紙は漂流から解放されることになります。

多くの手紙は読まれたあとまた私書箱に戻されますが、来館者は同じ私書箱に戻すとは限りません。手紙たちは私書箱の間を漂流しつづけることになるのです。

銀の箱一つ一つにもはがきが詰められています。

多くの方が来館して私書箱の中の手紙を読んでいます。今春のドラマでここの存在を知ったという方が多いようです。思い当たるところがあって手紙を探しにここにきている方もいるのかもしれません。

わたしも少し時間をとっていくつかの手紙に目を通します。亡き両親に送る感謝の言葉や日々の日常報告。突然消息を絶ってしまった友人に送る心配のメッセージ。好きだったけど言えずに終わってしまった相手に送る告白のラブレター。紙一枚はとても軽いものだけれど、そこに綴られた届かない思いはどれも計り知れないほど重く、相手を想う気持ちの大きさに胸を打たれました。

深い愛を綴った手紙もあるかと思えば、毎日が苦しくて生きることをやめようと悩んでいる人。奥さんの夫に対する不満を切々と綴った手紙もあります。書き手の思いがここに漂着して読み手が何かを感じて帰っていく。読み手の心の中でその思いが漂流を続けていきます。

「郵便局」の片隅には手紙を書く場所があります。3枚100円で漂流郵便局宛のはがきも販売されています。実際ここで書かれたはがきも何通か見かけました。手紙を読んで懐かしい人を思い出して手紙を書いてみようという気になるかもしれません。

この「消印」が目印。

「漂流郵便局」は言えないけれど誰かに伝えたいという心の中に誰しもが持っている願望を可能にした唯一無二の場所だと感じました。手紙を書くことによって書き手にとって癒しとなり、読み手の心に感銘を与えることができる。これからも能うる限り続いてほしい素晴らしい場所だと感じました。

サポートいただけたら小躍りして喜びます! 今後一層フットワーク軽く旅先に向かい、情報提供に努めたいと思います。 よろしくお願いいたします!