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人のものまね治療が自分に当てはまらない


9年ほど前からアメブロでブログを書いていた。
当時は、精力的に記事をたくさん産生した。
それだけ、がん患者さんに伝えたいこと、誤ってることを訂正したいことが
臨床をしていると多かったからだ。

その結果、アメブロの読者はかなりの数になった。
そこで、結構、読者が大きく二分されたと思う。

1つは、僕の主張をよく理解してくれる群。
簡単に言えば、再発がんでは完治は難しいけど
ちゃんとエビデンスを大切に標準治療をし、
時にエビデンスがなくてもうちのようにしっかりとした病院で
がんカテのようなイレギュラーな治療をしつつ、
最後は緩和治療をちゃんと受ける。
これで、ちゃんと命の長さは延長される。
がんとの共存。
これを理解してくれる群。

もう1つは、真逆。
絶対に、がんに負けない。
例え再発がんでも、私は完治するはず。
そのためには、現在のエビデンスは信じられない。
だから、エビデンスと決別して、民間療法に走る。
だって、エビデンスでは完治が難しいから。
がんとの共存なんてありえない。
ぼろぼろになるまで、がんと戦い続ける、

僕らは知っている。
後者の方は、思い込みが強過ぎて、そして情報弱者。
がんという怖い病気を餌に、
悪い治療、特にクリニックで行われている
エビデンスのない治療のカモになる。
死ぬ直前まで、自分は正しいことをし続けていると信じている。
でも、恐らく、死ぬ直前では、本当にこれで良かった?と後悔する。

実際に、過去に何人か、民間療法で何百万、何千万とつぎこみ
結局病気は全く良くならず、いよいよ厳しくなったらクリニックに放置される
その後悔を、僕の外来に来て、話してくれた患者さんがいた。
もはや、自分の命が1ヶ月くらいと理解しながら、
きっと話さないと、自分の後悔を浄化できなかったのだろう。


皆さんには、前者でいてほしい。
安易に、クリニックで、非標準的な治療を受けないでほしい。
カテーテル治療も、クリニックでやってほしくない。
やつらは、科学のない、適当なことをやってる場合が多いから。
責任感も乏しく、状況が悪くなれば、そのあとは知らんぷりだから。


さて、僕が、今回のタイトルとした
人のモノマネ治療が自分に当てはまらない。

癌治療って、エビデンスがあっても、それは100%の結果を保証するものではない。(エビデンスのない民間療法は、そもそも効かないので同じ土俵に上がれない)

同じようなステージの同じがんでも
同じ抗がん剤を使っても
結果は100人いれば、100人違う。
そのくらい、やってみないとわからないのが、がん治療。

今は、時間がないので、フォロアーさんの闘病ブログも全くみていないが、
自分の患者さんたちに聞くと、
皆さん、かなりの確率で、自分と同じ病気の患者さんのブログをみている。
そして、良い結果が得られた治療を
真似しようとする。

でも、医者として断言しますが、
同じ結果が得られることは良くも悪くもほとんどない、
副作用の程度も全然違う。
継続できる薬物療法の期間も違う。

やってみないと、わからない。
だからこそ、より良い確率をあげるために
科学、エビデンスがあるわけですわ。


今日、こんなことを書いたのも
僕は、変なあるクリニックと違って、
動注する抗がん剤の種類を、がんの種類と病態によって固定している。
医者の思いつきで、その日の気分で、選んだりしない。
腫瘍内科医として、このがんで、この臓器なら、この抗がん剤。
それを決める過程には、数々の経験があり、
その経験を学会で、論文で発表し、
他の治療と比べて意義のあるものだけが今のうちの動注、塞栓術として残っている

おおよそ、その今までのデータを元に、期待できる奏功率を
事前にお伝えできるくらいの症例はやってきた。
数字もある。
ただ、時に、その数字を大きく裏切ることもある。

先日、某大学の婦人科の先生から紹介をうけ、
その先生とも電話で直接お話しして、治療法を決めて動注を1回だけした患者さんがいる。
他の大学の先生と直接患者さんのやりとりをするには
当然、こちらもそのがんの治療に関するエビデンスを理解していなければならないので、カテしかできないバカにはそういうやりとりはできない。

この患者さんの動注の導入に関しては、先方の先生も非常に快く理解してくれて
少しチャレンジングな、当科でも初めての治療法でもあったが
基本、いつもの通り、他の患者さんに実施しているカテをやった。

2回目の治療で入院された患者さんの、検査結果
マーカーと画像をみて、驚いた。
正直、別人。
今日は本当に忙しかったので正確な数値は覚えていないが
マーカーは、1回の動注で1/10以下になってたかな。
画像も、腫瘍のサイズが、通常の動注で奏功する場合、ゆっくりと小さくなることが多いが、その方は、一気にたぶん、元のサイズの3割くらいまで縮小していた。

こんなに一撃で効いた現状。

僕は、これは奇跡だと思う。

100人、200人とカテしていると、
良い方向に、全く予想外の結果をもたらすことがある。
つまり、劇効き。
完治を経験したこともある。

ただ、ここで問題は、
ダメな患者さんは、一度の奇跡で味をしめて
残った部分が消失すると、完治すると思ってしまう。
さらに、同じ病気の患者さんに、自分の治療を完治するかもと勧めてしまう。
これは、本当に運が良かっただけで、皆さんが得られる結果ではない。

さらに、ダメな医者の典型。

「この治療をして、完治したことがある、だからこれをやりましょう」

科学者じゃない医者の発言ですね。

結局、奇跡は、一定確率で、数をやってたら経験します。
大切なのは、一度の経験に味を占めて、自分が、自分と同じ境遇の患者さんが、完治にいたるかもしれないと思い込んでしまうことや、
この奇跡が、他の患者にも起こると思い込んで、その後の数十人を同じ治療をして、結果、他の皆さんは全員、効果がでなかった、こういうことがある。
それを、過去によく見てきた。

僕は、この幸運な患者さんに、
この奇跡の結果は、僕のおかげではないです。
あなたが持っていた運です。
僕は、いつも皆さんに同じ治療をしています。
極め切った同じ技術、がんの種類に応じた抗がん剤と塞栓材料。
同じことをして、こんなにいい結果がでたのは奇跡ですよ。
ほんと、良かった。
ただ、これが、ずっと続いて、病気が消滅する、完治する、とは思わないでください。治療効果は、その時々で変わります。
嬉しい気持ちもよくわかりますが、まずはここは冷静に
この良い結果をさらに少しずつでも良くしましょう。
求め過ぎはだめ。
実直に。

こんな説明を、朝から忙しすぎて、昼飯も食べず働き続けて
でもこんなにすごい結果がでたのなら1秒でも早く患者さんに伝えようと
息切れしながら病棟に夕方、カテが終わった直後に向かって上記のようなお話をしました。


ざーっと書きましたが、
今回の記事にはいろんな要素が散りばめられていること、わかりますか?
クリニック否定ももちろんしてますし、どんな考えでがん治療を続けてほしいか、理解してもらえると嬉しいです。


さて、疲れました。今日はここまで。



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