カムル

元・理学療法士のカムルです。退職後も人の運動変化に興味を持っています。世間では脳をコン…

カムル

元・理学療法士のカムルです。退職後も人の運動変化に興味を持っています。世間では脳をコンピュータにたとえて、「脳が運動を変化させる」と説明されますが、多くの疑問があります。何とか腑に落ちる説明をしたい(^^;)

最近の記事

人の運動システムの作動の特徴(その5)「状況性」

 前回はCAMRで「運動障害を持つ」とは、まず身体リソースが麻痺や怪我で貧弱になることです。その結果運動認知は不適切になり、環境リソースも使えなくなり、それまで使っていた運動スキルが失われて必要な生活課題達成力が失われてしまうことです。  だからまずは「改善可能な身体リソースはできるだけ改善する必要がある」ということでした。  学校で習うように「低下した、悪化した要素を見つけて改善し、元に戻す」やり方は機械では合理的です。機械を構成する部品は全て人が作ったものだからこれも

    • 人の運動システムの作動の特徴(その4)「状況性」

       前回までで、人の運動システムが、状況変化に応じて適切な運動変化を起こし、たとえば歩行という機能を維持し続ける頑丈さを示すのは、「状況性」という特徴を持っているからと説明しました。  その「状況性」という特徴を生み出すのは、無限に運動変化を生み出す仕組みを持っているからです。それが豊富な運動リソースと適切な運動認知によってその時、その場で柔軟で適切で多彩な運動スキルを生み出す能力であると説明しました。  では今回は、この「状況性」の視点から運動障害を考えてみましょう。

      • 人の運動システムの作動の特徴(その3)「状況性」

         前回は「状況性」という人の運動システムの作動の特徴を説明しました。たとえば健常者では様々に状況変化が起きても「歩行」の形を柔軟に適応的に変化させて、歩行という機能を維持する頑丈さがあることがわかりました。  この「状況性」という作動の特徴を支えている仕組みは何でしょうか?  それは簡単に言えば、「無限に運動を変化させる能力」ということでしょう。簡単に無限に運動を変化させることができるので様々な状況に柔軟に適切な運動方法を生み出せる訳です。  通常学校で習う人の運動シス

        • CAMRベーシック講習会《脳卒中入門コース》開催のお知らせ

           CAMR(カムル)は、システム論を基にした日本生まれのリハビリテーション・アプローチです。運動システムの「作動の特徴」を理解してアプローチを組み立てます。  リハビリの学校では人の運動システムを、「人体の構造と機能から理解」して問題解決を図ります。それに加えて、CAMRの考え方を身につけると問題解決能力が飛躍的にアップします。  今回は1日4時間の講義開催です。前回も「1回の受講で脳卒中の理解や評価、リハビリが劇的に変化する」とご好評をいただきました。 ※CAMRはCont

        人の運動システムの作動の特徴(その5)「状況性」

          人の運動システムの作動の特徴(その2)「状況性」

           今回から人の運動システムの作動の特徴について考えてみます。  これはどうやったら理解できるかというと、普段から自分や周りの人達の運動変化を見ていくことで理解できます。たとえば自分の歩行とその変化を観察してみます。  歳をとってから気がついたのですが、僕は朝起きてトイレに行こうと歩き始めると、足底が床の上を擦るように引きずって歩きます。夜寝ている間に体が硬くなっているのが原因だろうと思います。体幹の重心移動が小さくなり、足の振り出しが小さくなっているのです。しばらく歩いた

          人の運動システムの作動の特徴(その2)「状況性」

          人の運動システムの作動の特徴(その1)

           学校では人の運動システムは皮膚に囲まれた身体そのものであると習います。そして解剖学や生理学、運動学などを通して「体がなぜ動くのか?どう動いていくか?」ということを習います。つまり設計図を基にロボットが動くように、人体の設計図を通してどのように動くかを習うわけです。  ベテランの機械の設計家は、設計図を見ただけでその機械がどのように作動するかがわかるそうです。でもベテランの医師やリハビリテーションのセラピストにとって、人の体が状況変化に応じてどのような運動を生み出すかはまだ

          人の運動システムの作動の特徴(その1)

          「正しさ幻想」はどうして生まれるのか?(その4:最終回)

           前回までで、「正しさ幻想」は脳の機能に関する思い込み「脳はコンピュータである」と学校で習う要素還元論の視点から生まれる「悪いところを探して治し、元に戻す(健康な頃の正しい運動状態に戻す)」という治療方針の双方の影響を受けているのではないか、というアイデアについて説明した。  そしてリハビリの現場ではこの「正しさ幻想」が様々な場面で問題を起こすこともある。  一番の問題は、「障害を改善するためには、運動のやり方や形の違いを指導して修正することだ」という思い込みだ。  たとえば

          「正しさ幻想」はどうして生まれるのか?(その4:最終回)

          「正しさ幻想」はどうして生まれるのか?(その3)

           前回、「正しさ幻想」を生み出す一つの要因として「脳の機能に関する思い込み」を挙げた。「他人が他動的に動かした手脚の運動感覚を脳が学習する」と思い込んでいるわけだ。  これはまさしく人の脳をコンピュータとして理解しているからだろう。コンピュータは人がプログラムを入れない限り自律的には何の働きもしない。だから人がプログラムを入力しないといけない。  このコンピュータの様な機械に対する思い込みが、人にもそのまま反映されているのだろうと思う。  実際には西欧文明の根底にはデカルト以

          「正しさ幻想」はどうして生まれるのか?(その3)

          「正しさ幻想」はどうして生まれるのか?(その2)

          「正しさ幻想」はどうして生まれるのか?(その2)  前回はいつのまにか「正しさ幻想」にとらわれてしまうセラピストがいることを述べた。  「正しさ幻想」とは「運動には正しいやり方や形がある。それは健常者のやり方、形であって脳性運動障害者は、これを学習するべきだ」という考えである。  どうしてこれが幻想かというと、このアイデアが実現されて麻痺が治って、元通り健常の動きに戻ったなどという科学論文は未だに発表されていない。つまり魅力的なアイデアだが、実現不可能な目標でもある。  では

          「正しさ幻想」はどうして生まれるのか?(その2)

          「正しさ幻想」はどうして生まれるのか?(その1)

           たまにテレビの健康番組などで「今日は、理学療法士さんに正しい歩き方を指導してもらいます」などと聞くことがある。  どうも「正しい歩き方」があるらしい。興味を持ってみていると、理学療法士が「正しい歩き方は胸を張って腕を大きく振り、足は踵から着地するようにしましょう・・・・」などと説明している。  どうやら歩き方というのは、見た目の形のことを言うらしい。  それで僕などは違和感を持つわけだ。「踵から接地するのが正しい形の歩行なら、たとえば歩行する時、足底全体で接地するとき

          「正しさ幻想」はどうして生まれるのか?(その1)

          リハビリのセラピストはプログラム説がお好き?

           脳性運動障害後のリハビリのアイデアとして、失われた脳細胞の機能を他の健全な脳細胞に再学習させて運動機能を改善・回復させようというのがあります。まるでコンピュータのように新しい運動プログラムを再学習させて、運動能力を改善させようとしているわけですね。  このアイデアは確かにリハビリのセラピストにとっては魅力的に映るに違いないです。  医療的リハビリに誇りを持っているセラピストにとってみると「リハビリでは痲痺は治らない」となると「なんだ、リハビリって脳性運動障害ではできるこ

          リハビリのセラピストはプログラム説がお好き?

          人の運動システムの理解の仕方(その11:最終回)-2つの視点

           前回は筋力などの重要な身体リソースが失われても、運動スキルを生み出す能力は失われていないのではないかということについて述べました。  実際に多くの重度の障害者でも、残された身体リソースや新たな環境リソースを用いて課題達成のための独自のやり方を生み出していることを目にします。  頸髄損傷の方が、電動ベッドの背もたれと身体の柔軟性を上手く使って靴下を履く運動スキルを生み出されます。腰髄損傷の方が床から車椅子に乗るための運動スキルを身につけたりされます。前々回の環境リソースの

          人の運動システムの理解の仕方(その11:最終回)-2つの視点

          人の運動システムの理解の仕方(その10)-2つの視点

           人の運動の形が無限に生み出されるのは、豊富な運動リソース(身体リソース、環境リソース、情報リソース)を基に柔軟で創造的な運動スキル(運動リソースを利用して課題達成するためのやり方)が多彩に生み出されるためです。  障害を持つとは身体リソースが減少あるいは失われることです。そのために利用できる環境リソースが貧弱になります。さらに運動の量と質の低下によって情報リソースが貧弱になり、あるいは不適切になって適応的な運動スキルが生み出されなくなるのです。結果、必要な生活課題達成力が

          人の運動システムの理解の仕方(その10)-2つの視点

          人の運動システムの理解の仕方(その8)-2つの視点

           健常な人に見られる「状況性」は、状況変化に適応的に運動変化するための作動です。そしてこれは「豊富な運動リソースと柔軟で創造的な運動スキル」という仕組みによって支えられていると説明しました。  逆に障がいを持つと言うことは、切断や麻痺、痛みなどによって身体リソースが減少することによって、利用できる環境リソースが減り、運動の多様性と量の減少によって情報リソースが貧弱になったり不適切になったりしてしまいます。その結果、適切な運動スキルが失われ、必要な生活課題達成が困難・不能になる

          人の運動システムの理解の仕方(その8)-2つの視点

          人の運動システムの理解の仕方(その9)-2つの視点

           今回は情報リソースとその改善の方法について説明します。  人が千変万化する状況の中で、適応的に運動変化を起こしていくには、無限に変化を生み出す運動能力と予知的で適切な情報リソースが欠かせません。  情報リソースは身体リソースと環境リソースが出会う時に生まれる意味や価値に関する予期的な情報です。環境・状況変化を的確につかみ、自分の身体がどのように適応的に振る舞えるかを予期的に知ることは大事です。人は「できる」と思い、やる価値があるならやろうとするからです。また「できない」

          人の運動システムの理解の仕方(その9)-2つの視点

          「システム論の話をしましょう!」の書籍紹介

           1990年頃に始まったアメリカのシステム論のアプローチの代表的なものに課題主導型アプローチがあります。そしてアメリカの大学教授達を中心に、それが従来の要素還元論のアプローチに「取って代わろう」という流れが見られていました。  やはり一神教世界の当たり前なのでしょう、信じるものは1つという感じです。それまで学校で習っていた要素還元論のアプローチの欠点をあげつらって、「それに代わってシステム論が新しい我々の方向性だ!」という熱気がありました。  ちょうどその頃に1年間アメリカに

          「システム論の話をしましょう!」の書籍紹介