伊藤聡

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伊藤聡

会社員兼ライター。書評、映画評を中心に、いろいろ書いております。| Twitter : https://twitter.com/campintheair | メール so.ito.so@gmail.com

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記事一覧

『関心領域』と、想像の難しいものごとについて、それでも想像すること

絶滅収容所のとなりで幸福に暮らす家族アウシュビッツにあった絶滅収容所の所長一家が、施設のすぐとなりに建てられた、美しい庭を備えた瀟酒な家に居住し、穏やかに暮らし…

伊藤聡
7日前
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『虎に翼』 花岡と轟、そして「ロッカールーム・トーク」について

ふたりの男性像の対比今回、『虎に翼』に登場するふたりの男性、花岡(岩田剛典)と轟(戸塚純貴)について考えてみたい。女性については語れない私も、男性についてであれ…

伊藤聡
3週間前
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『ゴジラxコング 新たなる帝国』と、「カワイイ」の記録更新

コングがかわいいの2014年の『GODZILLA ゴジラ』から始まる、映画制作会社レジェンダリー・エンターテインメントのシリーズ最新作が『ゴジラxコング 新たなる帝国』です。…

伊藤聡
1か月前
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Oー1グランプリ(1)

Oー1グランプリは十歳にならなければエントリーできない規則で、僕のOー1初出場は小学四年生のときだった。Oー1に勝ってみんなをびっくりさせるのだと、僕は幼稚園の…

伊藤聡
1か月前
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私も『虎に翼』について語りたいのだけれど

NHKの連続テレビ小説『虎に翼』がすばらしい、という話をしたいのだが、いざ文章を書く段になると、どうしても気がとがめてしまう。評判のよさは聞いており、放送開始から…

伊藤聡
1か月前
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住む人の心のなかを具現化した場所としての部屋

ようやく部屋の掃除ができた。ずっと部屋が散らかっていて、こんなに汚い部屋に住むのは嫌だと思いつつ、なかなか掃除に踏み切れない状態がしばらく続いていたのだ。手をつ…

伊藤聡
2か月前
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『落下の解剖学』『ネクスト・ゴール・ウィンズ』

『落下の解剖学』物語の中心となるのは、人里離れた山奥で暮らす夫婦とその小さな息子。ある日、夫が高所から転落して死亡するのですが、その死には不審な部分があり、妻が…

伊藤聡
2か月前
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最強保湿クリーム「IHADA 薬用ナイトパック」について

「IHADA 薬用ナイトパック」とは今日も私の肌は好調である。なぜなら「IHADA 薬用ナイトパック」を使っているから〜〜! 2023年の各美容雑誌ベスコス(今年よかった美容製…

伊藤聡
3か月前
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映画『PERFECT DAYS』の平山(役所広司)は、フェイクかガチか?

『PERFECT DAYS』への批判映画『PERFECT DAYS』は、見る人によって評価が分かれる作品である。トイレ清掃員として働く男、平山(役所広司)の生活を描くこの映画だが、肯定…

伊藤聡
3か月前
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デジタルごみ掃除の憂鬱

録画機能つきドアホン私の住んでいるアパートが、カメラつきのドアホンを設置すると連絡してきた。2ヶ月くらい前のことだ。いままでは、呼び鈴を鳴らしている来訪者の姿が…

伊藤聡
3か月前
41

『ダム・マネー ウォール街を狙え!』と、アメリカの民主主義

This is Americaこれぞアメリカ映画だ、とねじ伏せられたフィルムです。コロナ禍の株価乱高下を題材にした『ダム・マネー ウォール街を狙え!』には、アメリカ映画に必要な…

伊藤聡
3か月前
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「M-1グランプリ アナザーストーリー」と、人を愛でる文化としてのお笑い

M-1に挑戦するドキュメンタリー毎年楽しみにしている「M-1グランプリ アナザーストーリー」が、今年も放送された。ウエストランド井口さんが「ウザい! 泣きながらお母さ…

伊藤聡
4か月前
89

水木しげる『総員玉砕せよ!』(講談社文庫)

水木の戦争体験映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』(2023)で水木しげるに興味を持った私だが、これまで彼の作品を1冊も読んだことがなかった。どのような漫画家なのかもよくわ…

伊藤聡
5か月前
27

物語の「犯人は誰か?」に興味が持てなくて困っています

犯人は別に知りたくない映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』(2023)に興奮した私は、ストーリーの参照元である『犬神家の一族』(1976)をひさしぶりに見てみることにした。以…

伊藤聡
6か月前
28

大野君(仮名)のこと

高校1年の9月ごろだったと思うが、大野君(仮名)から家に電話がかかってきた。用件は、ファミコンソフトを貸してほしいというようなことだったと思う。大野君(仮名)は中…

伊藤聡
6か月前
42

櫻井は桜井より強い

櫻井さんは、桜井さんのことをどう思っているんだろうか。普段、どんな気持ちでいるのだろうか。たぶん、ちょっと見下している。自分より弱いと思っている。口では「いや、…

伊藤聡
6か月前
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『関心領域』と、想像の難しいものごとについて、それでも想像すること

絶滅収容所のとなりで幸福に暮らす家族アウシュビッツにあった絶滅収容所の所長一家が、施設のすぐとなりに建てられた、美しい庭を備えた瀟酒な家に居住し、穏やかに暮らしていたという実話をもとに作られた作品が『関心領域』である(英作家マーティン・エイミスによる原作小説あり)。家族でレジャーを楽しみ、子どもを教育し、ひとつのテーブルで食事を摂り、誕生日のプレゼントを贈りあうルドルフ一家。地獄絵図のとなりで営まれる、平凡だが幸福な暮らし。劇中では収容所内の様子を一切描写せず、家族の暮らしや

『虎に翼』 花岡と轟、そして「ロッカールーム・トーク」について

ふたりの男性像の対比今回、『虎に翼』に登場するふたりの男性、花岡(岩田剛典)と轟(戸塚純貴)について考えてみたい。女性については語れない私も、男性についてであれば多少はなにかが言えそうな気がするためだ。彼らは、主人公の寅子(伊藤沙莉)が通う明律大学の同級生だが、このふたりの登場人物を通じて語られるテーマは「男性性」である。フェミニズムのドラマであれば避けて通れない題材であり、『虎に翼』の男性性に対する解像度は非常に高い。見ながら、自分にもこうした言動を見聞きした経験が確実にあ

『ゴジラxコング 新たなる帝国』と、「カワイイ」の記録更新

コングがかわいいの2014年の『GODZILLA ゴジラ』から始まる、映画制作会社レジェンダリー・エンターテインメントのシリーズ最新作が『ゴジラxコング 新たなる帝国』です。あの「渡辺謙ゴジラ」から10年経ったと思うと、あっという間という気がしますね。モンスター・ヴァースとしてこれまでに5作が製作されていますが、過去作を見直す必要性はまったくないと思います。事前に予習をして臨むタイプの作品ではないです。なにも知らない状態で映画館へ出かけて、コングのかわいらしさを楽しむだけでよ

Oー1グランプリ(1)

Oー1グランプリは十歳にならなければエントリーできない規則で、僕のOー1初出場は小学四年生のときだった。Oー1に勝ってみんなをびっくりさせるのだと、僕は幼稚園の頃から決めていた。「絶対にOー1を獲る」と、家族や同級生にも宣言していたが、初めての予選はずいぶんあっけなかった。出場者の控え室で待っていると、突然部屋のなかで爆竹が激しく鳴った。あとで知ったのだが、この時点ですでに一回戦の選抜は開始されていたのだった。大きな音が苦手な僕は、思わず耳を押さえてしまい、その瞬間に敗退が決

私も『虎に翼』について語りたいのだけれど

NHKの連続テレビ小説『虎に翼』がすばらしい、という話をしたいのだが、いざ文章を書く段になると、どうしても気がとがめてしまう。評判のよさは聞いており、放送開始からやや遅れて見始め、いまはその展開に夢中になっているところだ。とはいえ『虎に翼』に関しては、自分のような者が論じていいのだろうか、と逡巡してしまう部分がある。好きな作品について黙っていられないのは、Born to be 文化系な私の性分なのだが、なぜ『虎に翼』が見る者の心を動かすのかを力説すればするほど、作品の本質から

住む人の心のなかを具現化した場所としての部屋

ようやく部屋の掃除ができた。ずっと部屋が散らかっていて、こんなに汚い部屋に住むのは嫌だと思いつつ、なかなか掃除に踏み切れない状態がしばらく続いていたのだ。手をつけるまでにかなり時間がかかってしまった気がする。というのも「まずは掃除の前に○○をしなくては」という焦りがあり、どうしても掃除が後回しになってしまう。こんな状態の部屋に住みたくないと思いつつ、なかなか始められない。この週末に一念発起し、部屋をまともな人間が住む状態にしてみて痛感した。きれいな部屋は本当に気分がいい。掃除

『落下の解剖学』『ネクスト・ゴール・ウィンズ』

『落下の解剖学』物語の中心となるのは、人里離れた山奥で暮らす夫婦とその小さな息子。ある日、夫が高所から転落して死亡するのですが、その死には不審な部分があり、妻が犯人として疑われるというあらすじの裁判映画です。内容が本当に重苦しく、人間関係の複雑さが静かなタッチで描写されていきます。そのヘヴィーな展開に思わず、映画を見ながら「なぜ私は、お金を払ってこんな苦しさや不安を感じなくてはならないのか」と悶絶してしまいました。私は歳を取るごとに、人が言い争う場面を見るのが本当にしんどくな

最強保湿クリーム「IHADA 薬用ナイトパック」について

「IHADA 薬用ナイトパック」とは今日も私の肌は好調である。なぜなら「IHADA 薬用ナイトパック」を使っているから〜〜! 2023年の各美容雑誌ベスコス(今年よかった美容製品を挙げてランキング形式で発表する企画)でも多くの得票があったこの製品、私もハマっており、昨晩3つめを開封したところ。発売当初は人気すぎて入手が難しかったが(どのドラッグストアにも置いていない)、ここ最近ようやく買えるようになってきたので、「もうすぐなくなる……」という補充の心配がなくなった。店頭に製品

映画『PERFECT DAYS』の平山(役所広司)は、フェイクかガチか?

『PERFECT DAYS』への批判映画『PERFECT DAYS』は、見る人によって評価が分かれる作品である。トイレ清掃員として働く男、平山(役所広司)の生活を描くこの映画だが、肯定する意見と同等に批判も多い。例をあげれば、映画そのものが広告的だとの指摘がある。曰く、劇中で平山が清掃するのは「世界的に活躍する16人の建築家やクリエイターがそれぞれの個性を発揮して、区内17カ所の公共トイレを新たなデザインで改修する、渋谷で20年から行われているプロジェクト『THE TOKYO

デジタルごみ掃除の憂鬱

録画機能つきドアホン私の住んでいるアパートが、カメラつきのドアホンを設置すると連絡してきた。2ヶ月くらい前のことだ。いままでは、呼び鈴を鳴らしている来訪者の姿が見えなかったのだが、これからは誰が来たのか確認できるようになるという。別に嬉しくない。ただし、この機器の設置はアパート側の判断で、特に私がお金を負担するわけでもなく、また断る権利もなさそうだったので、私の部屋にもカメラつきドアホンがやってくることになった。この機器の特徴は、録画機能である。外出中で受け取れなかった宅配便

『ダム・マネー ウォール街を狙え!』と、アメリカの民主主義

This is Americaこれぞアメリカ映画だ、とねじ伏せられたフィルムです。コロナ禍の株価乱高下を題材にした『ダム・マネー ウォール街を狙え!』には、アメリカ映画に必要なエッセンスがすべて詰め込まれています。「インターネット掲示板に集うネット民が一致団結し、暴利をむさぼる大手金融ファンドを打倒する」という、いかにも現代的な筋立ての本作ですが、その展開は伝統的なアメリカ映画の王道であるように感じました。ユーモアとスリルに満ちた構成も楽しく、ぜひ推薦したいみごとな作品だとい

「M-1グランプリ アナザーストーリー」と、人を愛でる文化としてのお笑い

M-1に挑戦するドキュメンタリー毎年楽しみにしている「M-1グランプリ アナザーストーリー」が、今年も放送された。ウエストランド井口さんが「ウザい! 泣きながらお母さんに電話するな!」とネタ中に怒っていたでおなじみ、お笑い芸人がM-1に挑戦する姿を記録したドキュメンタリーだ。井口さんには叱られそうだが、感動的な内容だった。誰が優勝するかわからない状態で撮っているとは思えない、膨大なアーカイブ映像に驚かされる。2018年、令和ロマン(当時は魔人無骨というコンビ名だった)が初出場

水木しげる『総員玉砕せよ!』(講談社文庫)

水木の戦争体験映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』(2023)で水木しげるに興味を持った私だが、これまで彼の作品を1冊も読んだことがなかった。どのような漫画家なのかもよくわかっていない。手始めになにを読むか迷ったが、映画内で描かれていた主人公の従軍経験が印象に残っていたため、『総員玉砕せよ!』を選んだ。この作品は、水木しげる本人が兵士として赴いた戦地パプア・ニューギニアでの体験が元になった作品で、『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』にもその影響があるのだという(宇多丸さんがラジオでおっしゃっ

物語の「犯人は誰か?」に興味が持てなくて困っています

犯人は別に知りたくない映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』(2023)に興奮した私は、ストーリーの参照元である『犬神家の一族』(1976)をひさしぶりに見てみることにした。以前、テレビで放映したのを見たような気がするが、記憶が定かではない。再見した『犬神家の一族』は実におもしろかった。監督市川崑のスタイリッシュなショットが冴えている。犬神佐兵衛が亡くなり、金田一耕助が那須湖畔を訪れる……という冒頭から一気に引き込まれた。ところが、謎の殺人事件が連続し、犬神家が混乱に陥るところまでは

大野君(仮名)のこと

高校1年の9月ごろだったと思うが、大野君(仮名)から家に電話がかかってきた。用件は、ファミコンソフトを貸してほしいというようなことだったと思う。大野君(仮名)は中学の同級生で、勉強がよくできる生徒だった。スポーツも得意で、サッカー部で活躍していたし、性格も明るくて人気があった。県外の進学校を受験するといって周囲を驚かせ(そんな選択をする生徒は他に誰もいなかった)、合格すると福島から離れていった。だから、連絡を受けたとき「何かの用事で地元に戻ってきているのだろう」と私は思った。

櫻井は桜井より強い

櫻井さんは、桜井さんのことをどう思っているんだろうか。普段、どんな気持ちでいるのだろうか。たぶん、ちょっと見下している。自分より弱いと思っている。口では「いや、なんとも思ってないですよ」「同じに決まってるじゃないですか」と言いながら、心の底で少しだけ見下しているのだ。私にはわかる。櫻井さんは、「櫻」の貝が2個並んでいる右上の部分を書きながら、自分が強者の側であることを確認しているような気がする。これは言いがかりではない。例を挙げれば、横浜にある飲食店や商業施設が、あえて「横濱