私のド真ん中
雨に濡れた桜は、どこか憂いがあって好き。
………
以前勤めていた職場で、私はいつも受付に一番近い席にいた。
書類を提出に来る人がいると、何気なく目を向ける日々。
ある日のこと。
受付に人の気配がして、いつも通り顔を上げた瞬間、思わず一目惚れしてしまった。
正に私の理想像だったその人に、目を奪われる。
キチッとスーツを着て、眼鏡をかけ、髪型も決まっていたその人は、受付で必要事項の記入を終えると颯爽と去って行った。
すぐに私は受付の記入欄を覗き込み、その人の名前を知った。
『また来ないかな?』
それまで嫌だった受付近くの席が、私にとって魅力的な席へと意識が変わった。
けれどその後、待てど暮らせど、その人はやって来ない。
どれくらいの期間が経ったのか…いよいよ諦めかけた時、その人は再びやって来た。
その時は白いセーターを着て、髪が少し乱れていた。
カジュアルな服装だったためか、最初の時と少し印象が違ったが、同一人物だ。
お帰りになった後、またしても受付表を見て、前回と同じ名前であることを確認する。
話した記憶はなく、アチラは私を知らない。
たった2回、見かけただけの人。
実に勝手な一目惚れ。
………
雨に濡れた桜は、自分の代わりに泣いてくれているみたい。
桜のように散った恋。
忘れられない恋物語。
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