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黒い影

最初は喪失感が強いけれど、次第にいないのが当たり前になる。遠くに引っ越して行った感覚になり、それが自然になっていく。時間の流れが作り出す現実。

夏の終わり、ダイアナ元妃の交通事故死が大きく報道されていたあの日、我が家では、飼い猫『マロン』がいなくなったと大騒ぎしていました。

『昨日はいたよね。』『最後に見たのは?』『そのうち帰ってくるよ。』と不安と期待が入り混じっていました。過去にも3日くらい、帰って来ない日がありましたから。

夜、涼しくなってから、総出で懐中電灯を持って、近くを探し回りました。数匹、猫を見かけましたが、結局マロンを見つける事は出来ませんでした。(元々猫嫌いの母だけは「見たいTV番組があるから。」と付き合いませんでしたが)

それから1週間経っても、マロンは帰って来ませんでした。

そんなある日の夕方、何気なく自宅の屋根を見ると、シッポの長い猫の黒い影が、左から右へサッと走り去るのを見たのです。『えッ?』と思って瞬きすると、もう何も見えませんでした。

その時、理由もなく確信を持ったのです。『マロンは逝ったんだ。』

さらに数か月が経ち、その年も終わろうかという頃、マロンの情報が入ってきました。母が近くのスーパーに買い物に行くと、ご近所の人の会話が聞こえてきたそうです。

「夏に、ウチの畑で猫が死んでてさあ。キレイな猫だったから、誰か飼ってたんだねぇ…」 母はすぐに飛んで行って、詳しく聞いたそうです。

母:その猫って、もしかして、茶色くて、青い首輪をしていませんでしたか?
ご近所さん:してました!
母:ウチのです! いなくなったって騒いでたんですよ。  
ご近所さん:お宅でしたかぁ…知ってたら、お知らせしたんですけどねぇ。ウチの畑の隅に倒れてたんですよ。たぶん、前の道路でハネられて、何とか歩いて力尽きたのね。夏だったし、遺体が傷み始めてしまって…仕方なく、お役所に連絡して、持って行って貰ったんですよ。
母:そうでしたかぁ…ご迷惑をおかけしました。

これが真相です。猫嫌いの母が情報を持って来るとは皮肉でしたが。後に、黒い影の話をすると【単なる錯覚】で片づけられてしまいましたが、妹だけが「自分も見た!」と言うのです。

妹が玄関に立っていると、背後にシッポの長い猫の影を見たような気がして、慌てて振り返ると、何もいなかったそうです。『妹と私が、一番マロンを可愛がっていたから、私たちにだけ、自分の死を知らせに来たのかも知れない…』と思う事にしました。

今までに、数匹猫を飼いましたが、マロンだけは遺体を見ていません。マロンが倒れていた畑は、今も残っています。

1997年(H9)8月31日、奇しくもダイアナ元妃と命日が一緒とは…忘れられない日となりました。

時々、マロンによく似た猫を見かけると思ってしまいます。『生まれ変わって、またおいで』と。



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