元ケースワーカーが語る生活保護 その3


今日のテーマ

 ちょっと間が空いてしまいましたが、こんにちわ。バベルです。
 今日のテーマは「保護申請後の審査」で進めていこうと思います。前回お話しした保護の申請からの続きになる部分も多いので、前回投稿分を未確認の方はそちらを是非ともチェックしてから来ていただけると幸いです。

保護申請後の審査とは?

誰でも保護開始となるわけではない

 前回、私は原則的には、家があって保護を受けたい気持ちがあれば誰でも生活保護の申請をすることができるとお話ししましたが、誰彼構わず申請した人が保護開始となるわけではありません。常識的に考えればそりゃそうですよねって話です。
 住宅ローンの契約時やクレジットカード作成時に審査があるように、生活保護開始に関しても生活保護法に則った審査があります。
 それじゃどんな審査があるのかというと具体的には、生活保護になったら入るであろう保護費と現在の収入の関係だったり、保護申請者が所持している資産(銀行口座、生命保険や株券など)に活用できるものがあるかどうかだったりがメインです。
 順番に見ていきましょう。

生活保護費と収入の関係

 支給される生活保護費は生活保護法で厳密に決められており、そこにケースワーカーが介入できる要素はありません。
 逆に言うと、支給されるはずの生活保護費よりも、収入が少なければ収入要件としては満たしているということになります。前述した「支給されるはずの生活保護費」のことを最低生活費と言います。
 よく勘違いしている人がいるのが、「ちょっとでも働いていたら生活保護は受けられない」と考えておられる方。答えはNoです。働いていても、最低生活費よりも収入が下回っていれば、生活保護を受けられる可能性はあります。こう書くと、「じゃあ仕事しないで生活保護受けた方が得じゃん」と考えるゴミクズ人が増えるのが非常に嫌なんですが、その辺りは働いた分が無駄にならない制度がありますので、これはまた別の機会にお話しします。

 さて、最低生活費と収入の関係についてパターン分けすると、大体以下の3パターンに分けられます。

①最低生活費>収入
 分かりやすいパターンですね。申請者の収入が最低生活費に届かない、または病気やリストラなどで働けないために収入がない場合。
 この場合は、2点目でお話しする予定の資産調査で該当が無ければ保護開始となる可能性が非常に高いです。

②最低生活費<収入
 これも分かりやすいパターンでしょう。申請者の収入が最低生活費を超えている場合は、申請却下となります。
 ちなみに、最低生活費と収入を比較する工程を要否判定と言うのですが、収入が最低生活費より1円でも多かった場合は保護却下となります。そういった場合(さすがにマジで1円多いっていうことは無かったけど)、私が現役でケースワーカーをやっていた時は、全ての可能性を探った上で本当に保護却下となるのか確認し、その状態で上司と相談して、何を言われても揺るがない根拠を用意し、申請却下としました。大抵、言われた相手は激昂します。それでも法に則って決定したことだからと言うしかないんです。正直、内心は1円くらい保護にしてやれよとも思いますが、出来ないんですよね。法律には逆らえませんから。

③最低生活費>収入だが、不足しているのは医療費のみ
 このパターンが非常に分かりにくい。まずは医療費(医療扶助)について説明が必要ですね。
 詳細は次回話しますが、保護費は大きく分類して8つに分けられます。具体的には生活扶助、住宅扶助、教育扶助、介護扶助、生業扶助、出産扶助、医療扶助、葬祭扶助になります。うたわれるもので言う八柱将ですね。
 この中にありますね、医療扶助。要するに病院を受診した時の医療費のことです。保険適用医療について、生活保護受給者はかかった費用の10割が福祉事務所負担となるので、生活保護受給者が支払う分はありません。そして、先ほど挙げた8つの扶助の中で、医療扶助は生活保護受給者本人に渡すお金ではなく、福祉事務所が病院と直接やり取りするお金になるんです。
 つまり、ざっくり言うと、病院に通院しなければ生活保護にはならないけど、医療費の支払いだけができないから生活保護に頼らなければいけない人のことが③に該当します。
 ③の場合、基本的に生活保護費としての直接的な支給はありません。むしろ医療機関に対し、若干ながら医療費の支払を行う必要が出てくる可能性があります。この辺りがとんでもなく分かりにくいんですよね。分からない人はご自身で所管の福祉事務所へ相談してみてください。

 大きく分けて、以上のパターンがあると思われます。ちなみに、最低生活費は申請先によって変化します。これを級地区分と言い、大雑把に言うと、都会に属する都道府県(東京や神奈川、大阪など)ほど高く、地方に属する都道府県(青森や茨城、長野など)ほど低いって感じでしょうか。都道府県の中の単位である市町村でも、県庁所在地や人口が多い地域では高く、人口が少ない地域などでは低くなる場合が多いです。

資産調査とは何か

 最低生活費よりも収入は少ない。だけど預金通帳に5000兆円あって、住んでいる家の価格は100億円、高級外車を100台所有し、高級腕時計を1000本持っている。
 常識的に考えて、上記のような人に生活保護は絶対に必要ないでしょう。極論過ぎて例にもなりませんでしたね。ごめんなさい。それで保護申請するとかほざくなら全力でぶっ飛ばしてやりたいけど。それを確認する工程が資産調査です。
 「行政機関と言えど、個人の口座とか調べていいのか」なんて聞こえてきそうですね。実にグッドクエスチョンです。これを可能にしているのが、生活保護法第29条なんです。法第29条を要約すると、「保護開始に必要な調査と福祉事務所が公認しているものだったら、官公署、日本年金機構や銀行などは、その調査に協力しないとダメですよ」って感じになります。調査実施件数についてですが、日本全国の銀行や生命保険会社に対して調査を出すのが理想ではありますが、そんなことしてたら保護開始するのに何か月かかるのか分からないので、私が勤めていた時は、申請者の関わりのある銀行(メガバンク、出生地の有名な銀行、現住地の有名な銀行)10社前後、保険会社10社前後に調査を出すのがスタンダードでした。

 あとは生命保険。
 生命保険って、自分に何かあった時のための予防みたいなところがありますよね。怪我したら1万円支給されたり、入院したら1日3万円支給されたり。先に言うとこれらの給付金は、生活保護受給者の場合、1円も手元に残りません。これがいわゆる生活保護法第63条の費用返還に該当するわけですが、この詳細に関してはまた後日。今は給付金が出ても、自分の手元には残らないとだけ理解してれば十分です。
 以上を踏まえて。いざという時の給付金は手元に残らないのに、月々の掛金を支払い続けるってアホじゃないですか。なので、基本的には生命保険の解約を指導することになりますが、それでも解約したくないって人も中にはいます。なので(2回目)、契約継続保有容認の境目となる条件が存在します。私が現役ケースワーカーの時は、月々の掛金が保護費支給額の1割未満かつ、解約返戻金(保険解約時に降りるお金)が保護費支給額の3ヶ月分未満と言うのが保有容認のラインでした。

その他の調査

 要否判定と資産調査の実施と並行してやらなければいけないことが、申請者の自宅訪問です。
 福祉事務所は申請受理した翌日から数えて14日以内、調査等が長引くなどの理由があっても30日以内には保護開始か申請却下かを申請者に対し結論付けないといけないのですが、自宅訪問は7日以内に実施する必要があります。
 この時に申請者から改めて情報を得たり、必要な内容の追加事項を説明したりなどを行います。
 これらの情報をかき集め、ケース記録と呼ばれる資料を作成し、福祉事務所長の了承が取れたら、無事保護開始となります。

おわりに

 今回は以上になります。
 次回は「保護の種類」についてお話しできればと思います。よろしくお願いします。

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